【完結】氷の魔女は若き黒獅子に溶かされる~最強の魔女なのに年下の婚約者が積極的で抗えません~

黒幸

文字の大きさ
216 / 232
第4章 麗しのアルフィン

第196話 アナスタシア

しおりを挟む
 レムリア帝国カーモフ侯爵家は古き血を守り、代々、受け継いできた大貴族の一つである。
 彼らは七十二柱ななじゅうふたはしらの神である緑衣の女神アガレスの子孫であるという自負心を持ち、誇りとともに正しく、生きてきた。

 そんな侯爵家に運命の子が生まれる。
 アナスタシア・フォン・カーモフ。
 当代侯爵ニコライ・フォン・カーモフの一人娘であり、『幻の姫君』、『想の美姫』と呼ばれる深窓の令嬢である。
 そう呼ばれるようになったのは理由がある。
 彼女は表舞台に全く姿を現さない。
 貴族の子女であれば義務とされる貴族学院も病弱を理由に一切、顔を出していない。

 実のところ、アナスタシアは病弱ではない。
 両親に溺愛され、大事に育てられているだけなのだ。
 生まれながらに紅玉ルビーの色をした瞳を持って、生まれた愛し子。
 祖たる女神の生まれ変わり。
 それゆえ、アナスタシアは守られた。
 カーモフ侯爵家の持てる力を存分に振るい彼女を隠し続けた。
 この点では同じ愛し子として生まれながら、特別な扱いを受けなかったレオンハルトやリリアーナが特殊だったのだろう。

 しかし、転機が訪れる。
 アナスタシアは愛し子であると同時に記憶持ちだったのだ。
 十五歳の誕生日を迎えた日、彼女は思い出した。
 転生を繰り返してきたレオンハルトとリリアーナのような完全な記憶の覚醒ではなかったもののアナスタシアの平和な日常はこの日をもって、終わったのである。



 革のソファ一式が揃った落ち着いた雰囲気漂う応接室でレオはコーヒー、私は紅茶を嗜みつつ、目の前の少女の出方を窺います。
 ショートボブにしいてる髪はチョコレートを思わせるブラウン系であどけなさが抜けていない顔立ちとよく合っています。
 あなたは本当にあの頃と変わりませんのね?

「お姉様。ナーシャって、呼んで欲しいわに」

 にへらと邪気の無い笑顔と微かに覗いている八重歯。
 大戦から幾星霜を経たのか、あやふやなのに愛らしさは変わってないみたい。
 つい五分前には焦土と化した大地で豪快に寝ていた張本人ですのに……。

「今のあなたはカーモフ侯爵家のアナスタシアさまで間違いありませんのね?」
「そうですわに」

 本当に調子が狂いますわね。
 かつての七十二柱ななじゅうふたはしらの同志であり、妹のように可愛がっていたアガレスが目の前にいるのですから。
 女神アスタルテとして生きていた時、血の繋がりがある家族とは疎遠でした。
 そんな私の心を癒してくれたのは、血が繋がっていなくとも実の妹のような存在があったからです。
 苦楽を共にしたのがレライエであり、アガレスだったのです。

 そのアガレスとまた、出会えるとは思っていませんでした。
 それも同じレムリアに生まれ、貴族令嬢だなんて、何と面白い運命なのでしょう。
 ただ、気にかかるのはこの地に『不見の塔』を構築したという事実ですわね。
 誰かに唆されたのかしら?

「ナーシャ。あなたはここで何をしてましたの?」
「修行ですわに」

 またもにへらと無邪気に笑うアガレス……ではなくて、ナーシャ。
 やはり、かわいいですわ。
 アイリスやレライエとはまた、違った愛らしい可愛さですもの。

 でも、『修行』とは何ですの?
 貴族令嬢は花嫁修業の一環として、礼法や諸々の作法を『修行』のように学ばなくてはいけません。
 その中に『ダンジョン』の具現化は含まれていたかしら?

「誰に言われましたの?」
「ルキ様ですわに」
「ルキ…? あぁ、ルキフゲ・ロフォカレのことかしら?」
「そうですわに」

 かつての仲間であり、魔法研究の大家ルキフゲ・ロフォカレ。
 特殊な魔道具や魔装具の開発に執心し、変わった魔法を編み出すことに苦心する変わり者と言われた人。
 そんなルキフゲ・ロフォカレことルキフグスが現代では、知恵の神として祀られているのです。
 ある種の皮肉を感じますわね。

 さて、本題に入るとしましょう。
 ナーシャとの会話に入り込めないレオが苛つき始めてますもの。
 見えていないのをいいことに太股を撫で回しているのです。
 ちょっとでも油断したら不埒なことをしてきそうだわ。
 もう指の動きが淫ら! そのものなんですもの。
 早めに終わらせないとまずいですわね。

「ナーシャ。ここにいた理由は何ですの?」
「ふぇ? いるといいことがあると言われたからですわにぃ」

 ナーシャは一瞬、意味を理解出来なかったのか、キョトンとした表情になりました。
 あどけなさが残りながらも美しく整ったかんばせの少女が大きな目を見開いて、固まってしまったのです。
 ええ、固まっただけならいいでしょう。
 両足の力まで抜けたのか、ミニスカートが捲れて下着が完全に露出しているのですけど……。

 不安になって、レオを見ると『どうしたの?』とでも言いたげな瞳が私をジッと見つめています。
 その割に指を下着の隙間から、入れようとしてくるのはなぜかしら?
 当然、『ダメです!』と目で伝えているのに無視されました。
 これは本当にまずいですわ。

「ナーシャは姉さまにまた、会えたので嬉しいですわにー」

 ナーシャは立ち直ったのか、スカートを直し、花も綻ぶような笑顔を浮かべながら、そんなことを言うものですから、身構えていたのが無駄に思えますわ。
 とりあえず、今まさに指を挿入れようとしていたレオの手を軽く抓って、釘を刺しておきます。
 本気でしようと思っていないのは分かってますわ。
 でも、あまり自由にさせるとレオは野放しにされた猛獣そのものですもの。

「私達と一緒に帰りましょう、ナーシャ」

 レオったら、あからさまに『嫌だ』という拒否感を出した表情をしています。
 それなのに太腿を優しく撫でまわすのをやめません。
 まるで『僕だけを見て欲しい』と言っているみたい。

「わーい! 行くわにー!」

 知ってましたわ。
 アガレスだった頃から、空気を読まない子でしたものね。
 レオから、あれだけ睨まれているのにも関わらず、元気いっぱいにかわいらしく、宣言しましたわ。

 ピタッと指の動きが止まりました。
 あんなに機嫌良く、楽しそうに撫でまわしていたのによくないですわね。
 面倒なことにならないようにしないといけません。
 そっと指を握って、視線を交しながら『私の一番はレオですわ。レオに全てをあげたでしょう?』と想いを込めました。
 これでどうにか、なるといいのですけど。

 結論だけ、申し上げますとはなりました。
 ナーシャに空き部屋を用意してもらい、部屋を使わせてもらいました。
 ええ、何があったのかは言うまでもありませんわ。

 それはもう丁寧にレオの物という証をあちこちに付けられました。
 腰は抜けましたし、立ち上がれないのでお姫様抱っこなのです。
 嫌ではありません。
 ただ、恥ずかしいだけですもの。

 視線を集めて、仕方がないのでひたすら、我慢しないといけません。
 レオは堂々としているのですけど、恥ずかしくないのかしら?
 爺やには『何じゃ、いつものか』という白けた視線を向けられ、ナーシャには邪気の感じられない無垢な瞳で見つめられ、居たたまれないとはこのことでしたのね。
 イヤリングでアンに連絡し、メテオール卿への言付けを頼み、城に帰還することにしました。

 『不見の塔』を冒険して得たもの。
 それは想定していたよりも大事で大切なものだったのです。
しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...