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柒 歌が聞こえる
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ストンパディの村を東に行くと険しい山々が聳える山岳地がある。
村の近くにもそれほど高くはないもののいくつかの山が点在していた。
中でも特に近場にある山の頂付近には砦が設けられている。
多くはないが、それでも常駐の兵が置かれ、現行で運用されている砦だった。
砦を任されたのはネーエブフトの一門に連なるイーヴォである。
実直なのが取り柄だが、いささか融通が利かないところもあり、臨機応変とは言えない手腕の持ち主。
そういう評価を下された男だった。
それでも決して、主君を裏切らない実直な点を鑑み、砦を任されていた。
砦が築かれた山の中腹には今では名も忘れられた古き神が祀られている神殿がある。
今でこそ、訪れる者が滅多に見られない言わば寂れた神殿だった。
稀に訪れる者もいる。
余程、信心深いか、何か二心を持っていると疑われても仕方がないほどに山には木々が生い茂り、鬱蒼としていた。
「変だな」
コーネリアスはふと感じた異変を独り言つ。
見慣れて久しい山は青々と茂った青葉に彩られており、普段と変わらない様子に見える。
それなのにコーネリアスにはなぜか、ざわざわと複数の人間が蠢いている雑音が感じられた。
さらに不思議なのは時折、聞こえる澄んだ美しい音色だった。
「何だろう。歌……なのか?」
複雑な発音で聞き取りにくい言語なのか、これまでに耳にしたことが無い不思議な感覚だった。
前世で光汰として生きていた時にもついぞ経験したことが無いものだった。
かつての光汰がそうだったようにコーネリアスもまた、知的好奇心の旺盛過ぎるきらいがある。
一度、気になってしまうと突き詰めなければ、納得しない面倒な性癖と言ってもいいくらいだ。
しかし、そうは言ってもまだ、九歳の子供に過ぎない。
近くにあるように見える山だが、実際に歩いていくとなるとそれなりに距離があった。
とても子供の足でいけるものではなかった。
「兄さんを焚きつけて、様子を見に行かせるかな」
九歳児とは思えない下素顔である。
本人は全く、気が付いていない無自覚で浮かべた表情なだけに余計、質が悪かった。
ともあれ納得は出来ないが、代替の方策を思いついたことで気分が満足したコーネリアスは帰路につくことにした。
日はまだ傾いていない。
遠出することを許されていない身なのでそれほど、遠くまで足を延ばした訳でもなかったコーネリアスは道すがら、落ちていた枝を拾い上げ、帰り道を急いだ。
父や次兄と同じく、学問好きなコーネリアスだが、まだ九歳である。
木剣の如く、勢いよく振り回し、騎士の真似事をするのに憧れる年頃でもあった。
前世が三十歳の大人だったとはいえ、今は九歳児に過ぎないとも言えた。
コーネリアスは細い街道をロングソード代わりの枝を振り回しながら、のんびりと歩く。
さして急いで戻る必要もなかった。
夕暮れ時までまだ時間があったから、心に余裕があったのも大きい。
街道の脇には鬱蒼と茂る深き森の外れと呼ぶべきちょっとした藪があった。
子供心に少しばかり、ぞっとしないでもない藪は小さな子供にとって、鬼門にふさわしい難所だった。
人里に迷いかけた獣が潜んでいることもあれば、そうではなく人が忍んでいることもあったからだ。
この時のコーネリアスが出くわしたのは後者だった。
村の近くにもそれほど高くはないもののいくつかの山が点在していた。
中でも特に近場にある山の頂付近には砦が設けられている。
多くはないが、それでも常駐の兵が置かれ、現行で運用されている砦だった。
砦を任されたのはネーエブフトの一門に連なるイーヴォである。
実直なのが取り柄だが、いささか融通が利かないところもあり、臨機応変とは言えない手腕の持ち主。
そういう評価を下された男だった。
それでも決して、主君を裏切らない実直な点を鑑み、砦を任されていた。
砦が築かれた山の中腹には今では名も忘れられた古き神が祀られている神殿がある。
今でこそ、訪れる者が滅多に見られない言わば寂れた神殿だった。
稀に訪れる者もいる。
余程、信心深いか、何か二心を持っていると疑われても仕方がないほどに山には木々が生い茂り、鬱蒼としていた。
「変だな」
コーネリアスはふと感じた異変を独り言つ。
見慣れて久しい山は青々と茂った青葉に彩られており、普段と変わらない様子に見える。
それなのにコーネリアスにはなぜか、ざわざわと複数の人間が蠢いている雑音が感じられた。
さらに不思議なのは時折、聞こえる澄んだ美しい音色だった。
「何だろう。歌……なのか?」
複雑な発音で聞き取りにくい言語なのか、これまでに耳にしたことが無い不思議な感覚だった。
前世で光汰として生きていた時にもついぞ経験したことが無いものだった。
かつての光汰がそうだったようにコーネリアスもまた、知的好奇心の旺盛過ぎるきらいがある。
一度、気になってしまうと突き詰めなければ、納得しない面倒な性癖と言ってもいいくらいだ。
しかし、そうは言ってもまだ、九歳の子供に過ぎない。
近くにあるように見える山だが、実際に歩いていくとなるとそれなりに距離があった。
とても子供の足でいけるものではなかった。
「兄さんを焚きつけて、様子を見に行かせるかな」
九歳児とは思えない下素顔である。
本人は全く、気が付いていない無自覚で浮かべた表情なだけに余計、質が悪かった。
ともあれ納得は出来ないが、代替の方策を思いついたことで気分が満足したコーネリアスは帰路につくことにした。
日はまだ傾いていない。
遠出することを許されていない身なのでそれほど、遠くまで足を延ばした訳でもなかったコーネリアスは道すがら、落ちていた枝を拾い上げ、帰り道を急いだ。
父や次兄と同じく、学問好きなコーネリアスだが、まだ九歳である。
木剣の如く、勢いよく振り回し、騎士の真似事をするのに憧れる年頃でもあった。
前世が三十歳の大人だったとはいえ、今は九歳児に過ぎないとも言えた。
コーネリアスは細い街道をロングソード代わりの枝を振り回しながら、のんびりと歩く。
さして急いで戻る必要もなかった。
夕暮れ時までまだ時間があったから、心に余裕があったのも大きい。
街道の脇には鬱蒼と茂る深き森の外れと呼ぶべきちょっとした藪があった。
子供心に少しばかり、ぞっとしないでもない藪は小さな子供にとって、鬼門にふさわしい難所だった。
人里に迷いかけた獣が潜んでいることもあれば、そうではなく人が忍んでいることもあったからだ。
この時のコーネリアスが出くわしたのは後者だった。
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