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捨玖 光の血を継ぐ者
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コーネリアスの次兄カイルが仕えているのは、ヴェステンエッケに邸宅を持つ貴族ヘルヴァイスハイト家の当主リヒテルだった。
ヘルヴァイスハイト家は非常に古い歴史を持つ家柄で知る人ぞ知る名家である。
知る人ぞ知ると言葉を濁したのには理由がある。
長い歴史を持つ家であり、古い血脈を伝える血統を保っていた。
ヘルヴァイスハイトは『光の戦士』の後裔を称し、『ブリューナク』と呼ばれる槍を代々、受け継いできたのだ。
だが、決して生活は豊かとは言えな。
困窮してはいなかったものの、零落したと言われようとも反論が出来ない状況にあった。
ヘルヴァイスハイトは名誉を望むが栄達を望まない。
彼の家をこれほど、よく表した言葉はないだろう。
それゆえにヘルヴァイスハイトは由緒正しき古き貴族でありながら、裕福とは程遠い。
そんなヘルヴァイスハイト家が主君と仰ぎ、仕えているのがヴェステンエッケを治めるオットー・ミヒェルだった。
オットーは齢六十に手が届こうかという老齢の王である。
長い顎髭を蓄え、好々爺然とした穏やかな年寄りにしか見えない容貌の持ち主だが、侮ること勿れ。
既に誇るべき権勢を持たず、古き血を伝えるだけの王家でありながら、諸国の海千山千の強者を相手に一歩も引かず、うまく渡り歩く抜群の政治的感覚を有している。
かつて大陸を席巻した大帝国を治めた皇帝は神の血を引くとされていた。
そう噂されているだけではなく、実際に神と人の間に生まれた半神が初代皇帝だったのである。
正しく神の子孫だった。
オットーはその血統を継ぐ最後の一族だ。
その存在に利用価値があると言っても決して、過言ではなかった。
実質的な権力を持たなくなって久しいこの零落した王家を知恵を働かせた者は有効に利用しようと考えるのもさして珍しいことではない。
リヒテルは当年とって四十八歳。
彼が当主になったのは成人を迎えてから、それほど経っていない十代後半の頃である。
その頃のヘルヴァイスハイト家はまだ城持ちの貴族だった。
リヒテルの父クルトはそれなりに鼻が利く男で才覚があった。
私兵を有し、確固たる地位を築くことにも成功していた。
だが少しばかり、上手くやりすぎたのだろう。
野心の高い男の腹を読めなかったことが裏目に出て、全てを失うことになった。
この際にヘルヴァイスハイト城は落城し、クルトは自刃した。
何者かに火を放たれた城は三日三晩燃え続け、何も残らなかったという。
生き残った直系の血族は嫡男リヒテルだけだった。
リヒテルは母マルタを伴い、方々を流転した後、ヴェステンエッケで腰を落ち着けたのである。
オットーが名族の出身であり、文武に長けた才能豊かなリヒテルを放置しようはずがなかった。
彼は手駒となる優秀な人材を見出す才を持ち、また集めるのに労力を厭わない男でもあった。
まず、信頼する腹心の一人であるフランツ・デュンフルスを送り、登用したい旨を伝えたがリヒテルは首を縦に振らなかった。
父のこともあり、宮仕えの身となることに躊躇いが生じていたのだ。
リヒテルには守るべき存在がおり、その為に仕官するのも已む無いことではあった。
しかし、どうしても踏ん切りを付けないでいた。
するとオットーは自らがリヒテルの屋敷というには質素過ぎる庵を訪ねた。
零落しているとはいえ、王である。
オットーは己の膝が汚れることすら厭わず、リヒテルの手を握る。
この主君であれば、民を安んじる世界が訪れるかもしれないと考えたリヒテルはオットーの手を握り返した。
こうして無位無官の身だったヘルヴァイスハイト家の嫡男はヴェステンエッケの王に仕えることになり、領地を持たない伯爵として、オットーの下でその才を振るうことになった。
リヒテルはその才覚と有能な仕事ぶりから、フランツと共にオットーの両翼と称えられる。
この両翼は私生活でも親しい間柄にあり、親友であり盟友として長く友誼を保つことになる。
同年に生まれたフランツの長男テオドールとリヒテルの三女ガブリエラ。
生まれながらに許嫁の間柄となったこの二人。
コーネリアスとは年齢が近いこともあって、知らぬ仲ではない。
テオドールは端正な顔立ちの美少年だが、非常に短気なところがある。
許嫁としての自覚もあり、ガブリエラへの溺愛を広言して止まない。
そのせいで要らぬトラブルを起こしがちなテオドールの尻拭いをさせられるのが、コーネリアスだ。
光汰であった頃の記憶をいくら辿ろうとも中々、該当する人物に当たらない。
歩くトラブルメーカーの如き、美男美女カップルを前にコーネリアスは今日も思索の海に耽るのだった。
ヘルヴァイスハイト家は非常に古い歴史を持つ家柄で知る人ぞ知る名家である。
知る人ぞ知ると言葉を濁したのには理由がある。
長い歴史を持つ家であり、古い血脈を伝える血統を保っていた。
ヘルヴァイスハイトは『光の戦士』の後裔を称し、『ブリューナク』と呼ばれる槍を代々、受け継いできたのだ。
だが、決して生活は豊かとは言えな。
困窮してはいなかったものの、零落したと言われようとも反論が出来ない状況にあった。
ヘルヴァイスハイトは名誉を望むが栄達を望まない。
彼の家をこれほど、よく表した言葉はないだろう。
それゆえにヘルヴァイスハイトは由緒正しき古き貴族でありながら、裕福とは程遠い。
そんなヘルヴァイスハイト家が主君と仰ぎ、仕えているのがヴェステンエッケを治めるオットー・ミヒェルだった。
オットーは齢六十に手が届こうかという老齢の王である。
長い顎髭を蓄え、好々爺然とした穏やかな年寄りにしか見えない容貌の持ち主だが、侮ること勿れ。
既に誇るべき権勢を持たず、古き血を伝えるだけの王家でありながら、諸国の海千山千の強者を相手に一歩も引かず、うまく渡り歩く抜群の政治的感覚を有している。
かつて大陸を席巻した大帝国を治めた皇帝は神の血を引くとされていた。
そう噂されているだけではなく、実際に神と人の間に生まれた半神が初代皇帝だったのである。
正しく神の子孫だった。
オットーはその血統を継ぐ最後の一族だ。
その存在に利用価値があると言っても決して、過言ではなかった。
実質的な権力を持たなくなって久しいこの零落した王家を知恵を働かせた者は有効に利用しようと考えるのもさして珍しいことではない。
リヒテルは当年とって四十八歳。
彼が当主になったのは成人を迎えてから、それほど経っていない十代後半の頃である。
その頃のヘルヴァイスハイト家はまだ城持ちの貴族だった。
リヒテルの父クルトはそれなりに鼻が利く男で才覚があった。
私兵を有し、確固たる地位を築くことにも成功していた。
だが少しばかり、上手くやりすぎたのだろう。
野心の高い男の腹を読めなかったことが裏目に出て、全てを失うことになった。
この際にヘルヴァイスハイト城は落城し、クルトは自刃した。
何者かに火を放たれた城は三日三晩燃え続け、何も残らなかったという。
生き残った直系の血族は嫡男リヒテルだけだった。
リヒテルは母マルタを伴い、方々を流転した後、ヴェステンエッケで腰を落ち着けたのである。
オットーが名族の出身であり、文武に長けた才能豊かなリヒテルを放置しようはずがなかった。
彼は手駒となる優秀な人材を見出す才を持ち、また集めるのに労力を厭わない男でもあった。
まず、信頼する腹心の一人であるフランツ・デュンフルスを送り、登用したい旨を伝えたがリヒテルは首を縦に振らなかった。
父のこともあり、宮仕えの身となることに躊躇いが生じていたのだ。
リヒテルには守るべき存在がおり、その為に仕官するのも已む無いことではあった。
しかし、どうしても踏ん切りを付けないでいた。
するとオットーは自らがリヒテルの屋敷というには質素過ぎる庵を訪ねた。
零落しているとはいえ、王である。
オットーは己の膝が汚れることすら厭わず、リヒテルの手を握る。
この主君であれば、民を安んじる世界が訪れるかもしれないと考えたリヒテルはオットーの手を握り返した。
こうして無位無官の身だったヘルヴァイスハイト家の嫡男はヴェステンエッケの王に仕えることになり、領地を持たない伯爵として、オットーの下でその才を振るうことになった。
リヒテルはその才覚と有能な仕事ぶりから、フランツと共にオットーの両翼と称えられる。
この両翼は私生活でも親しい間柄にあり、親友であり盟友として長く友誼を保つことになる。
同年に生まれたフランツの長男テオドールとリヒテルの三女ガブリエラ。
生まれながらに許嫁の間柄となったこの二人。
コーネリアスとは年齢が近いこともあって、知らぬ仲ではない。
テオドールは端正な顔立ちの美少年だが、非常に短気なところがある。
許嫁としての自覚もあり、ガブリエラへの溺愛を広言して止まない。
そのせいで要らぬトラブルを起こしがちなテオドールの尻拭いをさせられるのが、コーネリアスだ。
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