20 / 37
弐捨 釣り人
しおりを挟む
コーネリアスがヴェステンエッケに居を移してから、早三年。
ヴェステンエッケが古都であり、やや時代に取り残されつつある街であるとしても辺鄙な田舎にあったストンパディの村に比べれば、雲泥の差である
まず、人の多さが違う。
往来を歩く、人々の数が多いだけではなく、とにかく賑やかだった。
学舎で学んだカイルは少年期に村を出ていたが、これほどの都会に出たのは初めてだった。
ストンパディで生まれ育った者であれば、それが当然の反応と言っていい。
しかし、コーネリアスは違った。
十三歳でカイルを頼り、ヴェステンエッケに出てきたコーネリアスは往来を行く人の多さにも全く、焦り一つ見せない。
あまりにも落ち着き払っており、どちらが田舎から出てきた者か分からないほどだった。
それもそのはず。
コーネリアスには前世がある。
彼が暮らしていた東京はヴェステンエッケ以上に雑然と人々が暮らしていた街だ。
そこで生まれ育った光汰としての記憶と経験がある。
ヴェステンエッケの古い町並みから、歴史の重みと中世の趣きを感じていた。
歴史的な建築物が建ち並ぶ街並みは壮観だった。
コーネリアスが通う学舎は少し、特殊な部類に入ると言えよう。
ヘルヴァイスハイト家が運営する言わば私塾である。
講師陣も少々、毛色が変わっている。
当主リヒテルの従弟にあたるデニス・ヘルヴァイスハイトを始めとして、個性豊かな面々が揃っていた。
デニスはリンクスの異名を持つ隻眼隻腕の剣士である。
リンクスは光や左を意味する言葉だ。
かつて行われた壮絶な戦いで右目と左腕の肘から先を失ったデニスだが、義手に仕込んだ仕込み武器を使い今でも一線で活躍する凄腕の剣術使いだったことから、そう名付けられた。
このデニスが塾長として、一切を統括しており、学問だけではなく、実戦で通用する技を教えるのがモットーだった。
「今日は釣れましたか?」
「いんや、釣れんな」
一日の授業が終わり、ふらっと街へ出ることにしたコーネリアスはいつもの場所に向かい、いつものように話しかける。
釣竿を垂らした青年の答えもいつも通りである。
コーネリアスは釣れないことが苛立たせるのか、片手で無造作にくしゃくしゃと髪を搔き毟る青年の横に腰を下ろした。
これもいつものことである。
青年の名はキリアコス・エラポス・オロス・ト・エイソー。
当年とって三十一歳となるキリアコスはまだ、二十代前半と言っても誰も疑わない若々しさに満ち溢れた男である。
身の丈が軽く百九十センチはあろうかという大男だが非常に整った容貌をしている。
何よりもきらきらと輝く、不思議な瞳を持っていた。
まだ、少年らしさが残っているキリアコスだが、実はヘルヴァイスハイトの私塾の講師である。
槍術の巧みな技に精通しているキリアコスの腕を見込んだデニスが自ら、掛け合った結果、気が向いた時に教える契約を結んでいるのだ。
キリアコスは元々、ヴェステンエッケの住人だった訳ではない。
ヴェステンエッケより、遥か西にあるパストラス家に仕える騎士だった。
お家断絶の危機に陥った主家を救うべく立ち上がり、戦ったが敗れた。
最後の当主は敵の手に落ち、幽閉されている。
どうにか落ち延びたキリアコスは遠く離れたヴェステンエッケで再起の時を窺っている。
「明日は釣れますかね」
「どうだかね。オラには分からねえなあ」
釣れもしない釣りに興じているように見えるがキリアコスには何か、意図があるに違いないとコーネリアスは見ていた。
餌も付けずに竿を垂れ、天下を論じた大軍師がいたことを知らないコーネリアスではない。
実際、キリアコスは餌を付けていないのだ。
ヴェステンエッケが古都であり、やや時代に取り残されつつある街であるとしても辺鄙な田舎にあったストンパディの村に比べれば、雲泥の差である
まず、人の多さが違う。
往来を歩く、人々の数が多いだけではなく、とにかく賑やかだった。
学舎で学んだカイルは少年期に村を出ていたが、これほどの都会に出たのは初めてだった。
ストンパディで生まれ育った者であれば、それが当然の反応と言っていい。
しかし、コーネリアスは違った。
十三歳でカイルを頼り、ヴェステンエッケに出てきたコーネリアスは往来を行く人の多さにも全く、焦り一つ見せない。
あまりにも落ち着き払っており、どちらが田舎から出てきた者か分からないほどだった。
それもそのはず。
コーネリアスには前世がある。
彼が暮らしていた東京はヴェステンエッケ以上に雑然と人々が暮らしていた街だ。
そこで生まれ育った光汰としての記憶と経験がある。
ヴェステンエッケの古い町並みから、歴史の重みと中世の趣きを感じていた。
歴史的な建築物が建ち並ぶ街並みは壮観だった。
コーネリアスが通う学舎は少し、特殊な部類に入ると言えよう。
ヘルヴァイスハイト家が運営する言わば私塾である。
講師陣も少々、毛色が変わっている。
当主リヒテルの従弟にあたるデニス・ヘルヴァイスハイトを始めとして、個性豊かな面々が揃っていた。
デニスはリンクスの異名を持つ隻眼隻腕の剣士である。
リンクスは光や左を意味する言葉だ。
かつて行われた壮絶な戦いで右目と左腕の肘から先を失ったデニスだが、義手に仕込んだ仕込み武器を使い今でも一線で活躍する凄腕の剣術使いだったことから、そう名付けられた。
このデニスが塾長として、一切を統括しており、学問だけではなく、実戦で通用する技を教えるのがモットーだった。
「今日は釣れましたか?」
「いんや、釣れんな」
一日の授業が終わり、ふらっと街へ出ることにしたコーネリアスはいつもの場所に向かい、いつものように話しかける。
釣竿を垂らした青年の答えもいつも通りである。
コーネリアスは釣れないことが苛立たせるのか、片手で無造作にくしゃくしゃと髪を搔き毟る青年の横に腰を下ろした。
これもいつものことである。
青年の名はキリアコス・エラポス・オロス・ト・エイソー。
当年とって三十一歳となるキリアコスはまだ、二十代前半と言っても誰も疑わない若々しさに満ち溢れた男である。
身の丈が軽く百九十センチはあろうかという大男だが非常に整った容貌をしている。
何よりもきらきらと輝く、不思議な瞳を持っていた。
まだ、少年らしさが残っているキリアコスだが、実はヘルヴァイスハイトの私塾の講師である。
槍術の巧みな技に精通しているキリアコスの腕を見込んだデニスが自ら、掛け合った結果、気が向いた時に教える契約を結んでいるのだ。
キリアコスは元々、ヴェステンエッケの住人だった訳ではない。
ヴェステンエッケより、遥か西にあるパストラス家に仕える騎士だった。
お家断絶の危機に陥った主家を救うべく立ち上がり、戦ったが敗れた。
最後の当主は敵の手に落ち、幽閉されている。
どうにか落ち延びたキリアコスは遠く離れたヴェステンエッケで再起の時を窺っている。
「明日は釣れますかね」
「どうだかね。オラには分からねえなあ」
釣れもしない釣りに興じているように見えるがキリアコスには何か、意図があるに違いないとコーネリアスは見ていた。
餌も付けずに竿を垂れ、天下を論じた大軍師がいたことを知らないコーネリアスではない。
実際、キリアコスは餌を付けていないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる