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弐捨壱 謀聖の曽孫
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コーネリアスは十六歳でキリアコスは三十一歳と一回り以上の年齢の開きがあり、学舎の講師と生徒といった関係性もある。
それでも二人は年齢の差を超えた絆で結ばれた友人と言っていいだろう。
「カラノスさんは元気ですか?」
「ああ。おめえのお陰で助かったぞ」
「そうですか。それは良かったです」
餌の付いていない竿を垂らしたキリアコスはただ、呆けたように水面を見つめている。
隣に腰掛けたコーネリアスも水面を見つめる。
緩やかな流れの川面が奏でる心地良い水音はひたすらに静かな時を刻んでいた。
カラノスはキリアコスが主君と仰ぐ、パストラス希望の星と言うべき青年だった。
年齢は二十三歳。
兄や姉の多いコーネリアスから見ると親しみを持ちやすかった。
実際、気さくで物静かな青年だが、どこか気品のある物腰は只者ではないと感じさせるに十分である。
パストラスはカラノスの曽祖父にあたるネオプトレモスによって、一躍その名を高めた。
ネオプトレモスは文武に長けた才だった。
謀にも長けており、謀聖とも呼ばれた。
一代にして、パストラスの領土を拡大した傑物。
それがネオプトレモスという男だった。
その反面、不可解な人間性を有していたことでも知られる。
後世の人間はネオプトレモスを『天性無欲にして、正直の人』と評する。
持ち物を褒められるとすぐに与えようとした逸話の持ち主だからだ。
あまりにも己に無頓着で人に与える。
実に鷹揚で優しい人柄だったとされている一方で、生涯において数度、反旗を翻されているのも事実である。
家臣だけではない。
その中には何と実の息子さえいたのだ。
彼の内なる心が真に『天性無欲にして、正直の人』だったのかは分からず仕舞いである。
カラノスはそんなパストラス家の分家筋に生まれた。
ところが生まれて一年も経たず、悲劇に見舞われる。
祖父、父、叔父と一族を代表する者が一気に謀殺されたのである。
黒幕は当主を始めとする本家だった。
年長の兄も殺害され、カラノスの命も風前の灯火となったが乳飲み子の命まで奪うのはさすがに憚られたのだろう。
信頼の置ける老臣シュメオン・リアーキの手で助け出されたカラノスはパストラス領から遠く離れた地に落ちのびたが、追手が差し向けられることはなかったのである。
命を守るべく、世俗から離れた神殿に預けられたカラノスは十五の年を迎えるまで平穏な日々を送っていた。
しかし、時代はカラノスを放っておかなかった。
パストラスが領を置く西方は未だに虎狼の割拠する地だ。
爪を研ぎ、牙を隠し、互いに傷つけあう戦乱の地である。
そのような不毛な地でパストラスの本家が行った大粛清劇は、宗家に権力を集中させる中央集権への移行期にあったと言えよう。
力を持ち過ぎた分家から権利を取り上げ、宗家の力を大きくすることで内から外に向け、大々的に動く為だった。
ところがこの計画は半ばにして、途絶える。
粛清を行った当主が急死。
後を継いだ若き当主にあまりにも人望が無かった。
人心が離れたことにより、パストラスは大幅に弱体化する皮肉な結果に繋がった。
そして、所領を次々と失ったパストラスは歴史の表舞台から姿を消す。
パストラスは滅びたが、遺臣は決して諦めなかった。
キリアコスを始めとする不屈の闘志を有する旧パストラス騎士団の面々が、パストラスの血を継ぐカラノスを放っておくはずもない。
カラノスは世俗を離れ、神官として慎ましく、心穏やかに生きていた。
初めのうちこそ、断固として拒否する姿勢を崩さなかった彼が、態度を軟化させたのはひとえにキリアコスの熱意の強さによるものが大きい。
絆されたカラノスは彼らの思いに応えるべく、再興軍の総大将として立つことを決意したのだ。
それでも二人は年齢の差を超えた絆で結ばれた友人と言っていいだろう。
「カラノスさんは元気ですか?」
「ああ。おめえのお陰で助かったぞ」
「そうですか。それは良かったです」
餌の付いていない竿を垂らしたキリアコスはただ、呆けたように水面を見つめている。
隣に腰掛けたコーネリアスも水面を見つめる。
緩やかな流れの川面が奏でる心地良い水音はひたすらに静かな時を刻んでいた。
カラノスはキリアコスが主君と仰ぐ、パストラス希望の星と言うべき青年だった。
年齢は二十三歳。
兄や姉の多いコーネリアスから見ると親しみを持ちやすかった。
実際、気さくで物静かな青年だが、どこか気品のある物腰は只者ではないと感じさせるに十分である。
パストラスはカラノスの曽祖父にあたるネオプトレモスによって、一躍その名を高めた。
ネオプトレモスは文武に長けた才だった。
謀にも長けており、謀聖とも呼ばれた。
一代にして、パストラスの領土を拡大した傑物。
それがネオプトレモスという男だった。
その反面、不可解な人間性を有していたことでも知られる。
後世の人間はネオプトレモスを『天性無欲にして、正直の人』と評する。
持ち物を褒められるとすぐに与えようとした逸話の持ち主だからだ。
あまりにも己に無頓着で人に与える。
実に鷹揚で優しい人柄だったとされている一方で、生涯において数度、反旗を翻されているのも事実である。
家臣だけではない。
その中には何と実の息子さえいたのだ。
彼の内なる心が真に『天性無欲にして、正直の人』だったのかは分からず仕舞いである。
カラノスはそんなパストラス家の分家筋に生まれた。
ところが生まれて一年も経たず、悲劇に見舞われる。
祖父、父、叔父と一族を代表する者が一気に謀殺されたのである。
黒幕は当主を始めとする本家だった。
年長の兄も殺害され、カラノスの命も風前の灯火となったが乳飲み子の命まで奪うのはさすがに憚られたのだろう。
信頼の置ける老臣シュメオン・リアーキの手で助け出されたカラノスはパストラス領から遠く離れた地に落ちのびたが、追手が差し向けられることはなかったのである。
命を守るべく、世俗から離れた神殿に預けられたカラノスは十五の年を迎えるまで平穏な日々を送っていた。
しかし、時代はカラノスを放っておかなかった。
パストラスが領を置く西方は未だに虎狼の割拠する地だ。
爪を研ぎ、牙を隠し、互いに傷つけあう戦乱の地である。
そのような不毛な地でパストラスの本家が行った大粛清劇は、宗家に権力を集中させる中央集権への移行期にあったと言えよう。
力を持ち過ぎた分家から権利を取り上げ、宗家の力を大きくすることで内から外に向け、大々的に動く為だった。
ところがこの計画は半ばにして、途絶える。
粛清を行った当主が急死。
後を継いだ若き当主にあまりにも人望が無かった。
人心が離れたことにより、パストラスは大幅に弱体化する皮肉な結果に繋がった。
そして、所領を次々と失ったパストラスは歴史の表舞台から姿を消す。
パストラスは滅びたが、遺臣は決して諦めなかった。
キリアコスを始めとする不屈の闘志を有する旧パストラス騎士団の面々が、パストラスの血を継ぐカラノスを放っておくはずもない。
カラノスは世俗を離れ、神官として慎ましく、心穏やかに生きていた。
初めのうちこそ、断固として拒否する姿勢を崩さなかった彼が、態度を軟化させたのはひとえにキリアコスの熱意の強さによるものが大きい。
絆されたカラノスは彼らの思いに応えるべく、再興軍の総大将として立つことを決意したのだ。
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