26 / 37
弐捨陸 ヤンの真骨頂①
しおりを挟む
偶然ではなく、必然。
かくして何の因果か、運命の邂逅を果たした二人の少年の奇妙な同居生活は開始された。
そして、一年間、何事もなく続いている。
この間、コーネリアスはヤンが何者であるのかを考察しなかった訳ではない。
コーネリアスとして、この世界で十六年間生きている。
この世界の言葉で普通に会話が成り立っているだけでなく、ヤンが前世でも日本語が堪能だったこともあり、気が付かなかっただけでエリアル・フェローはカーディフ出身のウェールズ人だった。
学生時代、留学生として日本を訪れていたエリアルはすっかり、日本の文化――サブカルチャーにはまった。
元より、のめり込みやすい性質だったことも影響した。
社会に出て、バリバリのキャリアウーマンとして働いていた彼女だが、仕事に追われるような毎日で次第に疲弊していく中、かつて生活した日本への憧憬の念が強くなった。
エリアルが日本へ移住を決意したのは二十五歳の時だった。
関西の食い倒れの都市に移り住み、サブカルチャーにどっぷりと浸かり、暮らしながら幸せな毎日を満喫していたエリアルだが不運な事故に巻き込まれ、前世が終わりを告げた。
その日、普段通り、職場への道を急いでいたエリアルが「危ない!」という声に首を傾げたのと頭上から、ソレが降って来たのは同時だった。
この時、皮肉なことに死を望んだ者の命が助かり、死を望まぬ憐れな者の命が失われた。
エリアルだった前世の話を聞いたコーネリアスは首を捻る。
ヤンが何者であるのかには行き当るヒントにすらならないとすぐに気が付いた。
やはり頼りになるのは自分の記憶しかないと彼が思い知ったのはこの時である。
リヒテルやキリアコスの例もある。
何より、己が石田三成の歩んだ軌跡を辿りながらも違った方角へと舵を切った自覚があった。
歴史通りに世界の歯車は回っていないのだ。
しかし、コーネリアスが一つ気付いたのは、異なる歴史の時を刻み始めているこの世界でも生年は変わっていないという動かしようのない事実だった。
ヤンとの年齢差が五歳あることは大きなヒントになりえるとコーネリアスは考えた。
さらに鍵となるのがヤンの母親である。
エストという名でとある国の領主夫人に仕える侍女だった。
このエストが領主夫人ネリーの母親の縁者にあたる女性であり、それなりに高い発言力を持っていた。
そして、ネリーの夫がディオン・プリュムラモー伯爵。
ノエル王に仕え、かつてサンジュと呼ばれた下働きの身分に過ぎない小身の者から、成り上がった男である。
サンジュとは現地の言葉で猿を意味する……。
「いや、そこは猿ではなく、ハゲネズミでラショーブと呼ぶべきじゃないか?」
「それをボクに言われても困るなぁ、コウ兄さん」
これらのことをまとめて考えた結果、コーネリアスの中でヤンの正体が朧気に見えてきた。
本来は青年時代に出会い、血で血を洗う戦国の世でありながら、深い友情で結ばれた友人。
三成にとって、真の友と言うべき男。
その名は大谷吉継。
「それなら、合点がいくな」
「勝手に納得されても困るけどね!」
ヤンは白い歯を隠そうともせず、大きく口を開け「ニッシシシ」と豪快に笑って見せる。
コーネリアスは前世の光汰の時から、引っ込み思案なところがあり、それが思慮深いと勘違いされていたことを思い出した。
今世でもその癖は抜けていない。
年齢よりも落ち着いた子供に見えたのはそのせいでもあった。
ヤンの様子を見ると恐らく、前世でも快活な人柄だったのに違いないとコーネリアスは考えた。
もし、神様とやらが本当に存在するのであれば、ヤンのような人物にこそ、あのような力が相応しいのだろうと……。
コーネリアスは一人、そう合点したのである。
かくして何の因果か、運命の邂逅を果たした二人の少年の奇妙な同居生活は開始された。
そして、一年間、何事もなく続いている。
この間、コーネリアスはヤンが何者であるのかを考察しなかった訳ではない。
コーネリアスとして、この世界で十六年間生きている。
この世界の言葉で普通に会話が成り立っているだけでなく、ヤンが前世でも日本語が堪能だったこともあり、気が付かなかっただけでエリアル・フェローはカーディフ出身のウェールズ人だった。
学生時代、留学生として日本を訪れていたエリアルはすっかり、日本の文化――サブカルチャーにはまった。
元より、のめり込みやすい性質だったことも影響した。
社会に出て、バリバリのキャリアウーマンとして働いていた彼女だが、仕事に追われるような毎日で次第に疲弊していく中、かつて生活した日本への憧憬の念が強くなった。
エリアルが日本へ移住を決意したのは二十五歳の時だった。
関西の食い倒れの都市に移り住み、サブカルチャーにどっぷりと浸かり、暮らしながら幸せな毎日を満喫していたエリアルだが不運な事故に巻き込まれ、前世が終わりを告げた。
その日、普段通り、職場への道を急いでいたエリアルが「危ない!」という声に首を傾げたのと頭上から、ソレが降って来たのは同時だった。
この時、皮肉なことに死を望んだ者の命が助かり、死を望まぬ憐れな者の命が失われた。
エリアルだった前世の話を聞いたコーネリアスは首を捻る。
ヤンが何者であるのかには行き当るヒントにすらならないとすぐに気が付いた。
やはり頼りになるのは自分の記憶しかないと彼が思い知ったのはこの時である。
リヒテルやキリアコスの例もある。
何より、己が石田三成の歩んだ軌跡を辿りながらも違った方角へと舵を切った自覚があった。
歴史通りに世界の歯車は回っていないのだ。
しかし、コーネリアスが一つ気付いたのは、異なる歴史の時を刻み始めているこの世界でも生年は変わっていないという動かしようのない事実だった。
ヤンとの年齢差が五歳あることは大きなヒントになりえるとコーネリアスは考えた。
さらに鍵となるのがヤンの母親である。
エストという名でとある国の領主夫人に仕える侍女だった。
このエストが領主夫人ネリーの母親の縁者にあたる女性であり、それなりに高い発言力を持っていた。
そして、ネリーの夫がディオン・プリュムラモー伯爵。
ノエル王に仕え、かつてサンジュと呼ばれた下働きの身分に過ぎない小身の者から、成り上がった男である。
サンジュとは現地の言葉で猿を意味する……。
「いや、そこは猿ではなく、ハゲネズミでラショーブと呼ぶべきじゃないか?」
「それをボクに言われても困るなぁ、コウ兄さん」
これらのことをまとめて考えた結果、コーネリアスの中でヤンの正体が朧気に見えてきた。
本来は青年時代に出会い、血で血を洗う戦国の世でありながら、深い友情で結ばれた友人。
三成にとって、真の友と言うべき男。
その名は大谷吉継。
「それなら、合点がいくな」
「勝手に納得されても困るけどね!」
ヤンは白い歯を隠そうともせず、大きく口を開け「ニッシシシ」と豪快に笑って見せる。
コーネリアスは前世の光汰の時から、引っ込み思案なところがあり、それが思慮深いと勘違いされていたことを思い出した。
今世でもその癖は抜けていない。
年齢よりも落ち着いた子供に見えたのはそのせいでもあった。
ヤンの様子を見ると恐らく、前世でも快活な人柄だったのに違いないとコーネリアスは考えた。
もし、神様とやらが本当に存在するのであれば、ヤンのような人物にこそ、あのような力が相応しいのだろうと……。
コーネリアスは一人、そう合点したのである。
0
あなたにおすすめの小説
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる