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第12話 (未来の)舅殿は手強い
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「古人がいい言葉を残していますな。『毒を以て毒を制す』とね。俺を使いませんか? 腕に覚えあり、ですよ」
オルロープ卿にそう提案した時、俺は不意に気配を感じた。
殺気というほどの強い物じゃないが、明らかな違和感だ。
天井を睨む。
あぁ、これが鼠というやつか?
微かな呻き声が聞こえたから、シュテルンくんが処理したようだ。
「卿、何の心配もいりません。俺たちの話がド・プロットの耳に入ることはありませんよ」
「ほぉ?」
オルロープ卿はそう言うと俺の心の底までを見透かすようにその視線を真っ直ぐと向けてくる。
あなたのお眼鏡に俺は叶いますかね?
「将軍閣下は直にお話をうかがうと噂とは所詮、噂である。そう改めて、思い知らされますな」
「噂ですか。良い噂ではないでしょうね。卿には俺がどういう人間に見えますか?」
「粗暴にして、残忍。人を人と思わぬ冷血漢。欲に目が眩み、養父を殺し罪人。しかし、そのようなお人には見えませんな。閣下は冷静で理知的な方と見受けられます。大変に思慮深いお方だ」
「卿にそこまで買っていただけるとは恐縮でございます。ただ、噂は本当に噂ですなぁ。養父殿は今も健在ですからなぁ」
「何ですと!?」
オルロープ卿の温和で理知的な瞳に初めて、動揺という色が見えた。
そりゃ、そうかな?
死んだと思われていた辺境伯が実は生きていました!
日本だとドッキリでした! 騙されちゃいました?
そんなので許されるかもしれないが、ここは日本じゃない。
どんなマジックを使ったんだと思うだろうか。
いや、待てよ……。
この世界、本当に魔法のある世界じゃないか。
「養父殿も俺の計画に乗り気でしてね。動かせるのはおおよそ、二万ってところでしょうか。ただ、精鋭揃いですし、辺境伯軍の強さは卿も御存知かと」
「た、確かに辺境伯のお力が借りられるのであれば、陛下をお救いするのにどれだけ助かるであろうか。しかし、二万であるか……それだけでド・プロットを止められるとは……思えんのだよ」
そうなのだ。
確かに俺たちだけで事が成せるとは思えない。
ここで俺はエレミアが教えてくれた取って置きのカードを切ることにする。
「しかし、卿……もしこの時期にバルザック辺境伯が動くとしたら、どうです?」
「なんと!? モドレドゥス皇子が南下するというのかね? だとしたら、いや、しかし、そんなまさか……」
モドレドゥス・ド・バルザック。
冷血帝カルストフの庶子、つまりはセレナ姫の異母兄にあたる皇子だ。
このカルストフという先々代の皇帝が曲者だった。
あちこちに種をばらまいたのだ。
セレナ姫やモドレドゥス。
そして、主人公様であるベーオウルフと物語の重要人物ばかりだ。
現皇帝であるゲッツ陛下やゾフィーア皇女からすると皇叔にあたる人物が出揃った訳だが、このモドレドゥスもまた、食えないやつであると言える。
皇位継承権を放棄する代わりに北西の辺境伯ド・バルザックの家に養子として出されたモドレドゥスは辺境の地に赴くや武の才を発揮するのだ。
北西に輝く星ありと言われるほど周囲を圧倒し、大軍を取りまとめるようになったモドレドゥスはやがて、野望を抱く。
この軍を持って、我こそが皇帝とならん。
「俺もそう思ってたんですがね……確かな情報筋から十万の大軍を擁して、南下しているのは事実です。皇子の意図がどこにあるのかは分かりませんがね」
「ふむ、閣下はもしや、その混乱に乗じようとお考えなのかね?」
「さすがはオルロープ卿、その通りです。そして、陛下には東へと下向していただきたいのです」
このヴェステンエッケを脱出し、一路東へと向かう。
向かう先は一旦は旧都グランツトロンになるだろう。
ただ、焼け野原で焦土と化した都に長く、留まるのは危険だ。
息を整えてから、ゾフィーア皇女の治めるオステン・ヘルツシュテレへと移っていただくのが最善の策だろうな。
皇女殿下も迎えに来てくれ……いや、来るよな?
「東ですとな。まさか、閣下の狙いは……皇女殿下ですかな?」
「やはり、卿の目はごまかせませんか。そうです。ゾフィーア皇女こそ、この乱世において、もっとも信頼が出来るお方と考えております」
皇女殿下が野心の無いお方とは言えない。
彼女は虐げられ、逆境において、自らを成長させた努力の人だ。
帝に取って代わるという考えを持つ人ではなさそうだが、自分を認めなかった世界に対し、自らの力を誇示しようとは思うかもしれない。
全くの無心はありえない。
そんなのは悟りを開いた聖人くらいだ。
「ふむ、閣下は既に皇女殿下と契りを交わしておられますな。違いますかな?」
契りと聞くと何だか、エロく感じるのは俺だけなのか?
別にあの殿下とそういう関係になりたいと全く、思わないんだがエロく感じる。
男とはそういう生き物だと諦めるしかないか……。
「ええ、俺の家が殿下の力とならんことを誓いました。だからこそ、卿のお力も借りたいのですよ」
あなたがこっちに来てくれないとセレナ姫が犠牲になるんだ。
だから、何もしなくていいから、こっちに来て欲しいんだよね。
「なるほど、閣下の狙いはよう分かりましたぞ。では我がオルロープ家に何をお求めなのでしょうな? 閣下」
オルロープ卿の瞳の奥底にナイフのような鋭さが宿った。
この時代にただで手を貸してくれるお人好しはまず、いないからね。
仁義を掲げている主人公様だって、その裏には打算があった訳だしなぁ。
下手に飾ったことを言わずに正直に打ち明けるとしますかね。
さあ、本題はここからだ!
オルロープ卿にそう提案した時、俺は不意に気配を感じた。
殺気というほどの強い物じゃないが、明らかな違和感だ。
天井を睨む。
あぁ、これが鼠というやつか?
微かな呻き声が聞こえたから、シュテルンくんが処理したようだ。
「卿、何の心配もいりません。俺たちの話がド・プロットの耳に入ることはありませんよ」
「ほぉ?」
オルロープ卿はそう言うと俺の心の底までを見透かすようにその視線を真っ直ぐと向けてくる。
あなたのお眼鏡に俺は叶いますかね?
「将軍閣下は直にお話をうかがうと噂とは所詮、噂である。そう改めて、思い知らされますな」
「噂ですか。良い噂ではないでしょうね。卿には俺がどういう人間に見えますか?」
「粗暴にして、残忍。人を人と思わぬ冷血漢。欲に目が眩み、養父を殺し罪人。しかし、そのようなお人には見えませんな。閣下は冷静で理知的な方と見受けられます。大変に思慮深いお方だ」
「卿にそこまで買っていただけるとは恐縮でございます。ただ、噂は本当に噂ですなぁ。養父殿は今も健在ですからなぁ」
「何ですと!?」
オルロープ卿の温和で理知的な瞳に初めて、動揺という色が見えた。
そりゃ、そうかな?
死んだと思われていた辺境伯が実は生きていました!
日本だとドッキリでした! 騙されちゃいました?
そんなので許されるかもしれないが、ここは日本じゃない。
どんなマジックを使ったんだと思うだろうか。
いや、待てよ……。
この世界、本当に魔法のある世界じゃないか。
「養父殿も俺の計画に乗り気でしてね。動かせるのはおおよそ、二万ってところでしょうか。ただ、精鋭揃いですし、辺境伯軍の強さは卿も御存知かと」
「た、確かに辺境伯のお力が借りられるのであれば、陛下をお救いするのにどれだけ助かるであろうか。しかし、二万であるか……それだけでド・プロットを止められるとは……思えんのだよ」
そうなのだ。
確かに俺たちだけで事が成せるとは思えない。
ここで俺はエレミアが教えてくれた取って置きのカードを切ることにする。
「しかし、卿……もしこの時期にバルザック辺境伯が動くとしたら、どうです?」
「なんと!? モドレドゥス皇子が南下するというのかね? だとしたら、いや、しかし、そんなまさか……」
モドレドゥス・ド・バルザック。
冷血帝カルストフの庶子、つまりはセレナ姫の異母兄にあたる皇子だ。
このカルストフという先々代の皇帝が曲者だった。
あちこちに種をばらまいたのだ。
セレナ姫やモドレドゥス。
そして、主人公様であるベーオウルフと物語の重要人物ばかりだ。
現皇帝であるゲッツ陛下やゾフィーア皇女からすると皇叔にあたる人物が出揃った訳だが、このモドレドゥスもまた、食えないやつであると言える。
皇位継承権を放棄する代わりに北西の辺境伯ド・バルザックの家に養子として出されたモドレドゥスは辺境の地に赴くや武の才を発揮するのだ。
北西に輝く星ありと言われるほど周囲を圧倒し、大軍を取りまとめるようになったモドレドゥスはやがて、野望を抱く。
この軍を持って、我こそが皇帝とならん。
「俺もそう思ってたんですがね……確かな情報筋から十万の大軍を擁して、南下しているのは事実です。皇子の意図がどこにあるのかは分かりませんがね」
「ふむ、閣下はもしや、その混乱に乗じようとお考えなのかね?」
「さすがはオルロープ卿、その通りです。そして、陛下には東へと下向していただきたいのです」
このヴェステンエッケを脱出し、一路東へと向かう。
向かう先は一旦は旧都グランツトロンになるだろう。
ただ、焼け野原で焦土と化した都に長く、留まるのは危険だ。
息を整えてから、ゾフィーア皇女の治めるオステン・ヘルツシュテレへと移っていただくのが最善の策だろうな。
皇女殿下も迎えに来てくれ……いや、来るよな?
「東ですとな。まさか、閣下の狙いは……皇女殿下ですかな?」
「やはり、卿の目はごまかせませんか。そうです。ゾフィーア皇女こそ、この乱世において、もっとも信頼が出来るお方と考えております」
皇女殿下が野心の無いお方とは言えない。
彼女は虐げられ、逆境において、自らを成長させた努力の人だ。
帝に取って代わるという考えを持つ人ではなさそうだが、自分を認めなかった世界に対し、自らの力を誇示しようとは思うかもしれない。
全くの無心はありえない。
そんなのは悟りを開いた聖人くらいだ。
「ふむ、閣下は既に皇女殿下と契りを交わしておられますな。違いますかな?」
契りと聞くと何だか、エロく感じるのは俺だけなのか?
別にあの殿下とそういう関係になりたいと全く、思わないんだがエロく感じる。
男とはそういう生き物だと諦めるしかないか……。
「ええ、俺の家が殿下の力とならんことを誓いました。だからこそ、卿のお力も借りたいのですよ」
あなたがこっちに来てくれないとセレナ姫が犠牲になるんだ。
だから、何もしなくていいから、こっちに来て欲しいんだよね。
「なるほど、閣下の狙いはよう分かりましたぞ。では我がオルロープ家に何をお求めなのでしょうな? 閣下」
オルロープ卿の瞳の奥底にナイフのような鋭さが宿った。
この時代にただで手を貸してくれるお人好しはまず、いないからね。
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さあ、本題はここからだ!
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