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第14話 森の賢者キアフレード
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「トモヤくん。明日、またね」
そう言って、陽だまりのような温かな微笑みを浮かべ、別れた幼馴染に明日は訪れなかった。
俺、伴 朝夜には幼馴染の女の子がいた。
小さい頃におままごとをしていて、幼馴染が『お嫁さんにして』なんていうのは割合、よく聞くエピソードだろう。
そう、よくあることだ。
俺はそんなロマンチストではない。
思春期を迎える頃には異性である幼馴染と一緒に登校するのが恥ずかしくなってきて、次第に仲が疎遠になっていった。
これも仕方がないことだとは思う。
悲しいことだが、人はそうして、大人になっていくものだ。
どこか距離を置こうとする俺と違って、彼女は甲斐甲斐しく俺のことを世話してくた。
それでなくても彼女に惹かれていた俺はいつしか、絆されていた。
ただ、俺は家のこともあって、彼女との将来を真剣に考える余裕がなかった。
いや、これは単なる言い訳だろう。
俺に単に勇気がなかっただけなんだ。
だから、付き合ってから、五年経っても手を繋ぐのがやっとだった。
手を繋いだだけでも二人して、真っ赤な顔になって、見合わせてしまう。
その光景を今でも夢に見るほど、よく覚えている。
あの日、俺たちはちょっと勇気を振り絞って、初めてキスをした。
触れ合うくらいの軽いキスだったが絶対に忘れられないキス。
それが彼女の温もりを感じられる最後の触れ合いだったんだ。
うさぎちゃんことエマニエスの命を助ける為、配下にしたのはいいんだがシュテルンくんからの視線がカッターのように俺の心を切り裂くんだが……。
疚しい気持ちはないんだと言えば、言うほどに疑いの目が強くなる。
ドツボにはまるとはこういうのを言うんだろう。
もしかして、あれか?
シュテルンくんとエマニエスくんにメイド服を着てもらったのが、いけなかったのか?
メイド服の方が怪しまれないと思っただけでそこに邪な気持ちは……絶対、ないとは言い切れないな。
メイドのドレスは可愛いだろう?
問題は無いと思うんだ。
胸を強調したデザインとスカートの裾が短くて、太腿が眩しいところがポイントだよ。
氷の視線は痛いがいいね!
メイド服の美女は眼福だよ。
「おお、あの庵かな?」
「そう……あれが先生の庵」
オルロープ卿からキアフレード先生がヴェステンエッケの南に広がる深い森に隠棲していると教えてもらった。
俺はシュテルン、エマニエスだけを連れて、当地を訪れることにしたのだ。
予め、エマニエスに庵の正確な場所を調べてもらったので迷うこともない。
ただ、あまり人数を連れて訪れると気難しい先生のことだ。
へそを曲げるだろう。
天邪鬼だしな、あの人。
「それじゃ、俺は先生に挨拶してこよう。あまり、無茶はしないでくれたまえ」
二人に警戒しながら、待っていてくれるように頼んでおいたが、本当に分かってくれたんだろうか?
エマニエスくんは加減が出来る子なんだが、シュテルンくんが容赦ないからなぁ。
まあ、心配していてもどうにかなる訳ではないから、諦めよう。
人間、適度な諦めっていうのが肝要だからね。
「キアフレード先生! オルロープ卿にこちらにいらっしゃるとうかがいまして、参上致しましたフレデリクと申します」
特に飾りも無く質素な木製の扉をコンコンと強くノックする。
「誰だって? 呼んでもないのに来られても迷惑だ。俺はお前の先生ではないのでな」
先生、相変わらず、『ツンツンが絶好調ですね』というくらいに切れ芸が冴えているようだ。
「失礼します!」
「誰が入っていいと言ったか。この愚か者め」
十代前半くらいの少年にしか見えない線の細い男が木製のロッキングチェアに腰掛け、俺のことを胡乱な視線を隠そうともせずに睨んでくる。
キアフレード先生だ。
元気なキアフレード先生に直にお目にかかれて、嬉しい。
感動した!
「おい、さっさとお茶を淹れろ。ボサッとしている暇があったら、きびきびと動くがいい」
「はい、先生」
バイトの鬼だった俺に死角はない。
先生の出身を考えるとお茶と言っても希望しているのは紅茶だろう。
勝手知ったる他人の家で戸棚を漁ると紅茶の缶が見つかったのでビンゴだ。
まずは適切な温度のお湯を用意しなければいけないな。
「おい、貴様。暇なら、肩を揉め」
「はい、先生」
お湯はまだ、沸いてこないのでそれまでの間、先生の肩を心を込めて、マッサージする。
見た目は少年にしか見えないのに肩凝りが酷いのは年齢がかなりのおっさんのせいだろうか。
そうこうしている間にお湯が沸いたので紅茶の準備をして、恭しく差し出した。
「ふん、貴様、戦場にずっといた割に中々、やるな」
先生から、出来るヤツというデレをいただきました!
この人は基本的にあまり、人を褒めないからね。
『それくらい出来て当然だ、愚か者めが』と口にしながらも本当は褒めたくて仕方ないのを我慢しているだけなんだよな。
何、このおっさん可愛い。
「……ん? もしかして、先生……寝たのか」
ロッキングチェアに揺られながら、先生は舟を漕いでいる。
つまり、寝ておられる訳だ。
こりゃ、待つしかないか。
帰るのも失礼、起こすのも失礼。
ただ、黙って待つのみだな。
そう言って、陽だまりのような温かな微笑みを浮かべ、別れた幼馴染に明日は訪れなかった。
俺、伴 朝夜には幼馴染の女の子がいた。
小さい頃におままごとをしていて、幼馴染が『お嫁さんにして』なんていうのは割合、よく聞くエピソードだろう。
そう、よくあることだ。
俺はそんなロマンチストではない。
思春期を迎える頃には異性である幼馴染と一緒に登校するのが恥ずかしくなってきて、次第に仲が疎遠になっていった。
これも仕方がないことだとは思う。
悲しいことだが、人はそうして、大人になっていくものだ。
どこか距離を置こうとする俺と違って、彼女は甲斐甲斐しく俺のことを世話してくた。
それでなくても彼女に惹かれていた俺はいつしか、絆されていた。
ただ、俺は家のこともあって、彼女との将来を真剣に考える余裕がなかった。
いや、これは単なる言い訳だろう。
俺に単に勇気がなかっただけなんだ。
だから、付き合ってから、五年経っても手を繋ぐのがやっとだった。
手を繋いだだけでも二人して、真っ赤な顔になって、見合わせてしまう。
その光景を今でも夢に見るほど、よく覚えている。
あの日、俺たちはちょっと勇気を振り絞って、初めてキスをした。
触れ合うくらいの軽いキスだったが絶対に忘れられないキス。
それが彼女の温もりを感じられる最後の触れ合いだったんだ。
うさぎちゃんことエマニエスの命を助ける為、配下にしたのはいいんだがシュテルンくんからの視線がカッターのように俺の心を切り裂くんだが……。
疚しい気持ちはないんだと言えば、言うほどに疑いの目が強くなる。
ドツボにはまるとはこういうのを言うんだろう。
もしかして、あれか?
シュテルンくんとエマニエスくんにメイド服を着てもらったのが、いけなかったのか?
メイド服の方が怪しまれないと思っただけでそこに邪な気持ちは……絶対、ないとは言い切れないな。
メイドのドレスは可愛いだろう?
問題は無いと思うんだ。
胸を強調したデザインとスカートの裾が短くて、太腿が眩しいところがポイントだよ。
氷の視線は痛いがいいね!
メイド服の美女は眼福だよ。
「おお、あの庵かな?」
「そう……あれが先生の庵」
オルロープ卿からキアフレード先生がヴェステンエッケの南に広がる深い森に隠棲していると教えてもらった。
俺はシュテルン、エマニエスだけを連れて、当地を訪れることにしたのだ。
予め、エマニエスに庵の正確な場所を調べてもらったので迷うこともない。
ただ、あまり人数を連れて訪れると気難しい先生のことだ。
へそを曲げるだろう。
天邪鬼だしな、あの人。
「それじゃ、俺は先生に挨拶してこよう。あまり、無茶はしないでくれたまえ」
二人に警戒しながら、待っていてくれるように頼んでおいたが、本当に分かってくれたんだろうか?
エマニエスくんは加減が出来る子なんだが、シュテルンくんが容赦ないからなぁ。
まあ、心配していてもどうにかなる訳ではないから、諦めよう。
人間、適度な諦めっていうのが肝要だからね。
「キアフレード先生! オルロープ卿にこちらにいらっしゃるとうかがいまして、参上致しましたフレデリクと申します」
特に飾りも無く質素な木製の扉をコンコンと強くノックする。
「誰だって? 呼んでもないのに来られても迷惑だ。俺はお前の先生ではないのでな」
先生、相変わらず、『ツンツンが絶好調ですね』というくらいに切れ芸が冴えているようだ。
「失礼します!」
「誰が入っていいと言ったか。この愚か者め」
十代前半くらいの少年にしか見えない線の細い男が木製のロッキングチェアに腰掛け、俺のことを胡乱な視線を隠そうともせずに睨んでくる。
キアフレード先生だ。
元気なキアフレード先生に直にお目にかかれて、嬉しい。
感動した!
「おい、さっさとお茶を淹れろ。ボサッとしている暇があったら、きびきびと動くがいい」
「はい、先生」
バイトの鬼だった俺に死角はない。
先生の出身を考えるとお茶と言っても希望しているのは紅茶だろう。
勝手知ったる他人の家で戸棚を漁ると紅茶の缶が見つかったのでビンゴだ。
まずは適切な温度のお湯を用意しなければいけないな。
「おい、貴様。暇なら、肩を揉め」
「はい、先生」
お湯はまだ、沸いてこないのでそれまでの間、先生の肩を心を込めて、マッサージする。
見た目は少年にしか見えないのに肩凝りが酷いのは年齢がかなりのおっさんのせいだろうか。
そうこうしている間にお湯が沸いたので紅茶の準備をして、恭しく差し出した。
「ふん、貴様、戦場にずっといた割に中々、やるな」
先生から、出来るヤツというデレをいただきました!
この人は基本的にあまり、人を褒めないからね。
『それくらい出来て当然だ、愚か者めが』と口にしながらも本当は褒めたくて仕方ないのを我慢しているだけなんだよな。
何、このおっさん可愛い。
「……ん? もしかして、先生……寝たのか」
ロッキングチェアに揺られながら、先生は舟を漕いでいる。
つまり、寝ておられる訳だ。
こりゃ、待つしかないか。
帰るのも失礼、起こすのも失礼。
ただ、黙って待つのみだな。
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