【完結】破滅確定だけど最強の将軍に転生したので推しの姫を全力で推していこうと思う

黒幸

文字の大きさ
43 / 46

第33話 人として獣を討つ

しおりを挟む
 ビュッという風切り音とともに幾本もの矢がベーオウルフ目掛け、襲い掛かっていくが身体に突き刺さりはしない。
 全ての矢が彼の身体に触れた瞬間、消し炭となって消えていくのだ。

「シュテルンさんの援護射撃も効果なしだね……」

 一目で分かるほどに顔色の良くないエレミアだが、体調が悪化したからという訳ではない。
 ベーオウルフが放つ膨大な負のオーラにあてられたことにより、身体が持ちこたえられず、変調を来しているのだ。
 ある意味、体調の悪化よりも遥かに危険な状態と言える。

「斧の若いの。俺とおめーで化け物の攻撃を食い止めるぞ。槍の若いの。おめーが攻撃してくれ」

 この場において、もっとも経験を積んでいるブロームは気圧けおされ、動きを取れずにいる若者たちを叱咤しながらも的確な指示を飛ばしていく。

「は、はい。分かりました」

 コンラッドが大斧を両手で中段に構え、皆の前面を守るような位置に陣取るとブロームはその斜め右前方に陣取り、槍を上段の位置に構えた。
 その視線の先では化け物と化したベーオウルフが周囲の者を敵味方関係なく、その爪で貫き、命を奪っていた。

「このままでは全てが終わる。だが、私は……」

 白い甲冑に身を包み、気高き心を持つ若き戦士は未だ、霧の中を彷徨うかのように暴れまわるベーオウルフを見ても動くことすら、出来ない。
 薄っすらと血が滲むほど唇を噛み締めるヴァシリーの表情はどこまでも暗く、重い。

「これ以上、逃げる訳にはいかない。ならば!」

 ヴァシリーが懐から、白い鱗を取り出し、それを天に掲げようと腕を上げたところで何者かの力強い腕によって、止められるのだった。



 ヴェルにコルベール卿とお嬢ちゃんをシモンの元へ送り届けるよう言付けた俺は青く広がる空に身を投げ出した。
 そのまま、落ちるのに身を任せ、邪悪な黒い気を放ち続けるモノへと近付いていく。
 その時、気が付いた。
 白く清らかで温かい光だ。
 だが、その光はまだ、力が弱い。
 黒い気に立ち向かうには足りないだろう。

「間に合ったか。君の力は人を守る為に使うべきだ。君は下がれ」

 俺は白い竜の鱗を手にした少年の手を制し、静かにかぶりを振る。
 少年が迷いながらも退くのを見届け、俺は肩に担いでいた得物――ブリュントロルを両手で構え直した。

「これは俺の戦いだ」

 こちらを射竦めるように睨みつけてくる獣と化した英雄に冷めた視線を送る。
 皮肉なものだ。
 獣として殺されたフレデリクが人として。
 獣として殺した英雄ベーオウルフが獣として。
 全く、逆の立場で相対することになるとはね。

 ブリュントロルの胴金部分に巻かれたリボンが放つ明るく、きれいな光彩に人であることの想いを強める。
 リボンにはエメラルドの色の見事な刺繍が施されていた。
 そう。
 このリボンはセレナ姫が出征前に渡してくれたものだ。

 『私にはこれくらいのことしか、出来ませんから』と言いながら、姫が自ら、巻いてくれたのだ。
 彼女の想いが込められた俺にとって、命よりも大事な物と言ってもいい。

 これを見ていると自然と心が落ち着いてくる。
 人でいられる気がしてくるのだ。
 セレナ姫の澄んだきれいな瞳を思い出させてくれるリボンがある限り、俺は戦える。
 人として戦えるのだ。

「ベーオウルフ! これがお前の望んだ結果か! お前が選んだ未来がそれなのか!」

 風を切り裂きながら、俺の胴を抉ろうと迫ってきた長大な尾を軽く跳躍し、避けるとその尾を踏み台に思い切り、踏みつける。
 大きく、宙を舞うように跳躍した俺はベーオウルフの左肩に目掛け、ブリュントロルを最上段の構えから、袈裟懸けに斬りつけた。

 単に斬撃として斬りつけたのではない。
 風の属性を纏わせ、刀身の周りに鎌鼬かまいたちを発生させながら、全力で叩きつけるようにして、斬りつけたのだ。

「うがああああ」

 ベーオウルフの左腕を切り落とし、その勢いに任せ、地に足が着くと同時に右足を逆袈裟懸けに斬り上げた。
 膝から下を失ったベーオウルフは大きく体勢を崩し、失った腕と足から大量の黒い血を噴き出しながら、轟音とともに大地に倒れ伏す。

「なあ、ベーオウルフ。痛いか? 痛いよなぁ。お前さ、自分だけが特別だって思っていたのか? お前だけが主人公だって、思っていたのか?」
「何を……ほざきやがる。この俺が! 俺が! 俺こそが主人公だ!!」

 ベーオウルフの欠損した腕と足が生えてきやがった。
 さすがは帝国の血と竜の血のなせる業ってやつか。
 いんちきすぎる能力だな。

「その考えがお前を亡ぼすんだよ、ベーオウルフ! お前が殺めた人達もまた、主人公だったとなぜ、分からない!」

 俺は右手に構え直したブリュントロルを勢いよく、ヤツのどてっ腹に突き刺すとその内臓を抉るように奥へと突き通した。
 ブリュントロルはその銘に刻まれた通り、貫き通す力を持っている。
 いくら再生する能力を持っていようが痛みは尋常ではないはずだ。

「ぐあああああ」
「痛みを分かれ、ベーオウルフ! そして、お前自身を取り戻せ!!」

 ブリュントロルをヤツの身体から抜くと大量の黒い血が吹き上がり、大地を穢していく。
 さて、問題は俺の身体がヤツを倒しきるまで持つかってことかな?
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜

犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。 これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...