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第3話 目と髪は口ほどに物を言う

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 門を確かめにいった青年が戻ってきたのはそれから、暫くしてからである。

 首を捻りながら、「猫に反応したのかな」と真顔で言う黒髪の青年――雷麗央いかづち れおにガーデンチェアに腰掛け、今か今と待ちわびていた少女――雷ユリナはいらつきを隠そうともしない。

 この二人、同じいかづちという姓を名乗っている。
 だからといって、兄と妹ではない。
 紅茶を口移しで飲まそうとする妹など、そうそう存在しないのだ。

 高校生の少年と言っても十分に通用しそうな幼さが抜けきらない麗央。
 プラチナブロンドの髪に光で紫にも見える青い瞳という日本人離れした容姿をしながらもあどけない顔立ちで高校生にすら、見えないユリナ。

 二人はれっきとした夫婦だ。
 それも年下にしか見えないユリナの方が、戸籍上は四歳年上の姉さん女房である。

「レオくん。何を言っているの? 鈴は誤作動しないわ」
「でもさ。リーナ。誰もいなかったのは事実なんだ」

 ユリナは眉尻を下げ、やや収まりの悪い濡れ羽色の髪をくしゃくしゃと搔き毟る麗央の姿にこれ以上、彼を責めても何も得られる物はないと判断した。

(困っているレオはなんて、かわいいのかしら! もうこのまま、お持ち帰りしてもいいかしら? いいわよね? 一日中、彼を撫でまわしたい気分だわ)

 お持ち帰りも何もこの屋敷の持ち主はユリナ本人である。
 しかも頭の中では不穏なことを考えて、一人幸せに浸っているユリナだが表面にはおくびにも出さない。
 吊り目気味で猫を思わせる目に不機嫌な色を浮かべ、睨んでいるようにしか見えないが本人の中では優しく、見つめているつもりだから質が悪い。

「お客様はすぐに帰ってしまったのよ」
「そうなんだ?」
「とても美味しそうな色をしていたのに残念だわ」
「リーナ。出てるよ」
「あら」

 麗央が軽く、咎めたのはユリナが無意識に軽く、舌なめずりしたからではない。
 先程までは普通の人間の瞳だったユリナの瞳孔が、縦に長い形状へと変化していたからだ。
 瞳の色までもが血のような色に変じている。
 麗央の手がスローモーションのようにゆっくりと差し伸ばされ、ユリナの目許を覆い隠した。

「少しは落ち着いた?」
「ええ。大丈夫よ」
「本当に?」
「ちょっと疲れただけだから」
「そっか」

 麗央が不意に体を動かし、「よいしょ」と小さな掛け声とともにユリナの身体を横抱きに抱えた。
 ユリナは不意打ちにも近い突然のお姫様抱っこに赤くしたり、青くしたりと忙しい。
 そんな彼女を見て、麗央は自然ににかっと笑うものだから、ユリナは自分の頭から湯気が出ているに違いないと思った。

 実際にはそんな現象は起きておらず、その代わりに特徴的なツインテールが逆立ったり、忙しかったのだが……。

「昨日のライブが大変だったからかな?」
「そ、そうね。そうかもしれないわ」
「じゃあ、おとなしく休んでおこうか。お姫様」
「ひ、ひゃい」

 何かを言おうとして、言えないまま、茹蛸のように真っ赤な顔になったユリナは沈黙した。
 滅多に来ない客が来たのも昨晩の歌が原因なのは明らかだったからだ。
 下手に言葉にするとかえって、彼を心配させるだけで得る物はない。
 そう判断したもののこのままでは寝室に連れていかれ、寝かされるのは確実だった。
 それは不本意でしかない。

(寝ちゃったら、レオの配信が見れないじゃない。ダメよ、ダメ。寝たら、ダメ。コメントするのは私しかいないんだから!)

 上気した顔で黙りこくっている腕の中でおとなしくしているユリナが、そんなことを考えているとは露知らぬ麗央だった。
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