ホンモノの自分へ

真冬

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第38話「修学旅行2日目①」

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 修学旅行2日目の朝6時僕は同じ部屋の誰よりも早く起床していた。
「天野早いな」
「まあね」
「早起きはするのは気持ちが良いだろ?1日得した気分になるよな」
 長内はガハハとでも笑いそうな言い草で僕という早起き仲間が出来たことを嬉しそうにしていた。
「俺はシャワー浴びてくるからな」
 実際、僕は早起きをしたわけではない。寝ていないだけだ。
 理由は二つあって。一つはもちろん柿原と長内の騒音が原因だけどもう一つは枕が違うと眠れないことに気がついてしまったことだ。それ以降、僕は一睡もすることができなくなってしまった。ホテルの布団で眠るなんて小学生の時に家族旅行して以来で、それ以降はずっと家の慣れ浸しんだ布団で眠っていたから、思わぬところに罠が潜んでいたことに気が付かなかった。でも、家の布団を持ってきたとしても2人のいびきでは眠れなかっただろうけど。

 そんな事を考えていたら僕の右隣の大場が起き出した。
「え?あれ?樹早いね」
 半目を開いて重そうな瞼を必死に持ち上げようとする大場の目の下には隈ができていた。色白い大場の肌からはくっきりとわかる。
「あまり眠れなくて」
 一睡もしていないというと心配をかけそうな気がしたので少しは眠ったことにしておいた。
「僕もだよ。最後に時間見たのは確か午前4時だった」
 大場が大あくびをして「あいつらのいびきがうるさすぎるんだよ」と頭を掻いてい2人のベットを睨みつけてた。
「確かにうるさかったね」
 僕は控えめな苦笑いを浮かべて大場に共感していたけど、内心では彼らが原因で眠れなかったのが僕だけじゃないことに仲間ができた安心感を込めていた。

 朝7時になりスマホのアラーム音がなるのと宮橋が起き出した。
「ふぁーあ」
 カーテンを開けた窓から差し込む朝日がちょうど宮橋のベッドにあたり、神々しい明かりを身にまとって体全体を使って羽ばたくように背伸びをしている。羨ましいぐらいに清々しい朝を迎えている宮橋をベッドの上であぐらをかいて座っている僕と大場は口を半開きにして呆然と眺めていた。
 宮橋が僕らの方へ向きかえる。
「おお、おはよう」と僕らの苦悩を知る由もなくない宮橋の朝の挨拶を聞いた僕らは無言で頷く。
「周、隈ひどいぞ、寝れなかったのか?」
「良太の隣の2人がうるさくてね」
 大場は何か吐き捨てるように言うと2人のベッドに向かって顎をしゃくった。
「え?そうか?俺は全然気が付かなかったな」
 僕と大場は目を見開いて合わせる。
 一体どんな神経をしていたら隣の2人の騒音を無視してあんなに快眠できるのか科学的に知りたいものだ。
 そして、その騒音の音源の1人である柿原はアラームが鳴っているのに未だに気持ちよさそうにスースーと寝息を立てて眠っている。

 結局、柿原は朝食の時間ギリギリに跳ね起きて疾風の如く着替えて間に合った。きっと、柿原は家でもこんな感の朝を過ごしてるのかもしれない。

 そんなこんなで僕らは修学旅行二日目を迎えた。
 二日目は一日中グループ行動で過ごした。
 大場の隈を成川はジロジロと見ていたけど一睡もしていない僕と殆ど寝ていない大場は途中眠りに落ちそうになったこともあったけど、何度もカフェインを摂取して大きな睡魔に抗ってきた。

 そして、二日目の夜。当たり前のように消灯時間を3時間過ぎた午前1時に僕らの部屋の消灯時間を迎え昨日と同様に左端の2人は豪快ないびきを快調に飛ばしていた。
 夜の睡眠に再チャレンジする僕もなんとか眠ろうと努力したが、眠ろうと思えば思うほど目が冴えていく。結局、何度も睡眠にチャレンジするが一向に寝付けず、朝食まであとどのくらい睡眠時間が確保できるのか心配になり大場のベッドの近くで充電しているスマホを手探りでつかみ、時刻を確認してみると午前4時になろうとしていた。もう寝るのは諦めて一度外の空気でも吸ってこようとベッドを出ようとした時に僕の左隣の方でもぞもぞと寝返りを打つにしては意識的に行っているような音が聞こえる。
「宮橋君?」
 寝てる3人に聞こえないようにささやくよう呼んでみると。「起きてたのか」と返答が返ってきた。
「寝れないの?」
「コイツらがうるさいんだよ」
 ようやく彼らの騒音に気がついてくれたようで、自分も眠れないことを忘れて宮橋の正常な感覚に安心した。
「なあ、ちょっと外でないか?」
「うん」
 僕も同じことを考えていたので僕は宮橋と音を立てないようにつま先立ちでちょんちょんと部屋のドアまで歩き、閉まる時に大きな音を立てる扉をゆっくりと割れ物でも扱うかのように慎重に締めて廊下へ出た。
 深夜でもホテルの通路の明かりが昼間のように眩しく輝いていてさっきまで暗闇の視界に慣れていた目が一気に眩んで、思わず顔をしかめた。
「展望デッキ行かね?」
「開いてんのかな」
「行ってみればわかる」
 僕らはエレベーターに乗って最上階の展望デッキに向かい、到着してみると深夜でもまだ開いていたので中に入ることが出来た。
 展望台デッキでは室内は全体がガラス張りでできていて京都の町並みを一望することができる。周りには休憩用のテーブルや椅子がところどころに置いてあって日が明るいうちはここで京都を見下ろしながら食事を楽しむ客が多いらしい。そして、この展望デッキは室内から外に出る事もできる。外は、室内よりあまり広くはなく宮橋と僕が体の向きを変えずにすれ違うことができるくらい、つまり男性二人分くらいの肩幅のスペースがある。
 そして、僕らは外の風に当たるため外に出た。
「うわぁ、さみ」
 宮橋が両腕をさすり、震えながら外に出る。僕も外に出た瞬間、外に出るドアを開けた瞬間、冬のひんやりとした冷たい空気が頬を撫でて、つま先から脳天に掛けて抜けていくように震えが駆け上がっていった。
 展望デッキは円形状の構造をしているので、室内から外に出るドアから半周ほど歩いた時、僕らは人影を見つけた。
「え?誰かいるぞ?」
 スマホで時間を確認すると時刻は午前4時10分を回っている。こんな夜中、というか早朝に一体誰かと思って近づいてみる。
「周じゃん。こんなところでなにしてんだ?」
「良太、樹。それはこっちのセリフだよ」
「アイツらのいびきがうるさくて眠れなんかったんだよ」
「実は僕も。だから、少し風にあたったら眠れるかと思ってきてたんだ」
「僕らも同じこと考えてたよ」
 大場は微笑を浮かべて、京都の街へ視線を戻した。

 ここから見る京都の町並みは午前4時ということもあって死んだように静まり返っている。午前中は、僕ら以外にも海外の観光客や旅行に来る人が多く賑わっていたけど、その賑わいは影を潜め、全く別の街に来ているみたいだ。
 僕らも午前4時の京都の街を眺めて3人の間で沈黙の時が流れる。
 すると、宮橋が唐突に口を開いた。
「明日で最終日か」
 宮橋の吐いた白い息が真っ黒な夜空へと消えていく。
「早いね」
 僕は心の声をそのまま漏らした。もう終わってしまうんだな。
「お、なんか樹もそう思うんだ。なんか人の心を取り戻したみたいじゃん」
 転落防止用の柵に寄りかかる大場が白い歯を見せて僕の顔を覗き込み僕の視界に大場の端整な顔が入り込む。
「大場君、僕元々人なんだけど…」
 大場と顔を見合わせて2人とも笑みが溢れる。 
「樹もしゃべるようになったね」
「おかげさまでね」
「初めて会った頃は顔死んでたもんな」
「え?そうだったの?」
「わかるわかる、話しかけづらかったもんなあ」
 あのときは話しかけてほしくなかったことは言わないでおこう。いや、言わなくても彼らは気がついているか。あれだけ露骨に拒絶してきたんだから。
「変わったね。樹は」
「そうかな?」
 大場は目線を外の夜景を見たまま小さく頷く。
「僕も変われたのかなあ。中身が空っぽだからさ」
「周、どうしたんだ急に」
「僕って容姿が整っていることしか取り柄がないから」
「事実だけど、それ自分で言うか?」
 
「あ、もしかして西岡のことか?復縁するならチャンスは明日しか無いぞ」
「いや、違うよ。西岡とはそういう関係じゃないんだ」
「じゃあ、大場君と西岡さんはどういう関係なの?」
 肌を刺すような冷たい風が一瞬強く吹いて僕は目を細める。隣りで手すりにより掛かる大場の髪をなびかせた。

 ややあって大場が口を開いた。
「まあ、時間もあるし少し話そうか」  






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