不死身の吸血鬼〜死を選べぬ不幸な者よ〜

真冬

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第30話「フォンツへ」

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 楓たちはシゼナで出会った貴族に仕えているというヴァンパイア鋼星とともにルーロに向けて次なる国であるフォンツへ向かっていた。

 さっきまでいたシゼナからフォンツに向けて二匹のケーロスが砂埃を巻き上げながら勢いよく踏みしめる大地は草原が広がっていたり荒野が広がっていたりと国同士の感覚が広く感じられた。その間、荷台では4人が武闘会やその武闘会行われる国ルーロについて話していた。

「そういえば武闘会に出るってだけでルールとかどんなヴァンパイアが出るとか全然知らねんだけど」
「確かに、僕ら連堂さんに行くように言われていきなり飛び出してきちゃったよね」
 その話を聞いた鋼星は驚いたようだった。
「おいおいマジか。お前らアホかよ大会の詳細くらい調べとけよ」
「なんだか鋼星にだけは言われたくなかった気がするんだけど」と竜太がつぶやくも鋼星は自分に対して言われていることは全くに気にもとめていないように話を続けた。
「いいか、ルーロの武闘会のルールは武器使用ありでヴェードが使える武器は使用不可。そして勝敗は相手が死ぬか気絶、または降参したら決着がつく。超シンプルだろ?」
「おいおい、殺すまでやるのかよ。もっと穏やかなものだと思ってたんだけどな」と竜太はまるで苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
 鋼星は「ちょっと待て」と言って竜太の前に手のひらを向けた。
「そうは言っても、殺すまでやるやつは殆どいないよ。出場するやつは皆それなりの実力者だから簡単には死なない」
 鋼星は一つ息を吐き出してから続けた。
「でもな、戦いって死ぬ気でやるから楽しいんだぜ? 命のやりとりが俺をゾクゾクさせんだよ」と話していた楓と竜太に同意を仰ぐ。
 2人は唾を飲み込んで目を合わせた。度々、発する鋼星の戦いに対する哲学は楓たちとかなり温度差があるように感じる。
 普段鈍感な鋼星は2人の反応を珍しく察したのか今の発言に補足するように更に続けて言った。
「安心しろって。ルーロ自体治安の良い国だしそんなに野蛮な奴らは俺以外いないから出場する奴らも血の気の多いやつは少ないし、武闘会って言っても祭りみたいなもんだから」
 と鋼星は言っていたが2人は信用できなかった様子で「そうなの?」と2人は頷いて聞いている立華に判断を仰いだ。
「ええ、鋼星君が言っていることは正しいですよ。キエスからルーロまで通る国でシゼナ、フォンツとありますがその中で最も平和な国がルーロです。ALPHAの本拠地から最も遠い国なんで武闘会もそんな平和な国ルーロだからこそ行われる催し物なんですよ。そんな国民も日常に刺激はほしいですからね武闘会も娯楽のひとつなんですよ。ちょうど、君らだってどんなに治安が良いところに住んでいても格闘技を見るでしょ? それと同じです」
 そして、立華は「まあでも」と鋼星の方に一度視線を移してから楓と竜太の方へ視線を戻して言った。
「武闘会で死人が出るという話は余り聞かないのでかなりレアケースだと思ってもらっていいですよ。お二人が鋼星くんと当たらなければの話ですがね」
 それを聞いた竜太は少し安堵した様子だったがまだ心配の種は消えていないようだった。
「でも、鋼星以外にもそんな奴がいるかもしれないだろ」
 竜太は前方に座る鋼星を指差して言った。
 楓も竜太の言ったことに数回頷いて立華か鋼星からの意見を求めていたが、不安げな表情をする2人を慰めるように鋼星は丸太のような二の腕で楓と竜太を包み込むようにして肩を組んだ。
「大丈夫だって。前回大会で優勝したこの俺と戦ってもこうやって生きてんじゃんか。お前らはこの短期間で強くなったんだ、安心しろよ」
 そう言って鋼星は2人の肩をバシバシと叩いて快活に笑ったが、引きつった苦笑いを浮かべる楓の隣りにいる竜太は諦めに近いため息を一つ吐いてから言った。
「なんで目の前にいる危険人物にそんな事言われなくちゃいけないんだよ」
「お前らも強くなりたいんだろ? だったら悔いの残らないように全力で戦おうぜ。自分の身を守る最大の武器は常に全力でいることだ」

 4人はそれから馬車の中でこれから出場する武闘会について話していたが、気づけば窓の外の景色は大きく変化しており、前方には地上で言えば英国風の建築様式を思わせる建物が立ち並び前まで泊まっていた。見渡してみるとシゼナよりは栄えている国であることが伺える。
 
 また、入国審査をするため国の門の前で待っている番兵が二匹のケーロスが力強く引き続ける馬車を止めた。
「また入国審査とかやんのか面倒くさいな」と竜太はブツブツと言いながら自分が持っている荷物をかき集めて審査官に手荷物を見せる準備をしていた。
 しかし、鋼星は荷物をかき集める竜太の手を掴み言った。
「これがあるから荷物審査なんて無くても顔パスで行けるんだぜ」
 そう言って鋼星は竜太の目の前に顔写真付きの紙でできたカードを見せた。それは人間で言う社員証のようなものだろう。 
そこには役職に「ディアス家使用人」と書かれていた。
鋼星は荷台を片手で体を支えながら飛び降りてすぐさま番兵の元へ駆け寄って竜太に見せつけたカードを弾むように番兵たちに見せつけた。
 すると番兵の2人は鋼星にお辞儀をして「お疲れさまです」と一言添えて楓たちは入国を簡単に許可された。
 荷台に返ってきた鋼星はドヤ顔で3人の前で胸を張って言った。
「な? 言ったろ?」
「さすが貴族の国」と竜太は皮肉めいた口調で言った。
「よし! フォンツに入れたことだしディアス様の城に向かおうぜ」
 鋼星は運転席と荷台を隔てるカーテンをめくって運転席に顔を出し、烏丸に言った。
「姉ちゃん、まっすぐ飛ばしてくれよ」
 鋼星は運転席からは無言の返事が帰ってきたが、その変わりケーロスの甲高い鳴き声が響き渡った。
 
 それからケーロスが快調に飛ばして街なかを馬車が颯爽と駆け抜ける。車窓から見える通り過ぎていく街の風景はキエスと似ていて英国風ではあるもののキエスは庶民向けの街並みなのに対してフォンツはどこか高貴で鋼星が言うように貴族階級のヴァンパイアが生活していると言われるのもうなずけるような趣がある。

 フォンツに入ってからは荷台の前方の窓口から鋼星が烏丸の隣りに座って道案内をしていた。時折、鋼星の発言は道案内だけでなく食事に誘う話やデートの約束を取り付けようとする発言が聞こえていたがそういった話題になったときに烏丸は依然として沈黙を貫いていた。
 鉄のようなハートを持っている鋼星にはそれでも口説こうとしていたが勢いよく走らせていた馬車が急ブレーキを駆けて前のめりに座っていた鋼星はその反動で前方へ投げ飛ばされた。
「着きましたよ」とケーロスの上から烏丸が鋼星を見下ろす。
「そうみたいだな。よっしゃ! お前ら着いたぞ」
 鋼星は烏丸の行動の意図を全く汲み取っていない鈍感さに烏丸は溜息を吐いた。
 荷台前方の窓口から鋼星が顔を出して3人に目的地に到着したことを知らせる。当然ながら烏丸に振られ尽くしたことはどこ吹く風で全く気にしていないようだった。きっと彼にとって雑談の一つに過ぎなかったのだろう。

 そして、到着した場所を荷台の窓から見てみるとモラドの洋館の2倍ほどの大きさで城という表現が適切であると感じるほど広々としていた。
 鋼星は烏丸に「ちょっと言ってくるわ」と言い残し、入り口のガッシリと閉ざされた門に向かって小走りで向かった。
 しかし、鋼星は門の前でズボンのポケットや靴の中など何かを探して慌てているようだった。
 そして、額に汗を垂らしながら戻ってきて荷台の前方の窓口から3人に顔を出して白い歯を見せて笑みを浮かべていた。
「わりぃ、ご主人様が今留守にしててカギ閉まってたわ」
「鋼星君は鍵持ってないんですか?」と立華が訊く。
「持たされてたんだけどこの前筋トレ中にどこかに失くしちまったんだよね。すっかり鍵持ってると思ってたわ。そこに安いホテルがあるから今日はそこで勘弁してくんね? 多分明日になれば帰ってると思うんだ。一応、手紙書いて門のところに置いといたから帰ってきたら気づいてくれると思う」
 鋼星は手を合わせて3人に頼み込む。
 すると、立華が2人を交互に見てから「ええ、構いませんよ」と言った後、鋼星は隣に座る烏丸にも手を合わせて烏丸は「大丈夫です」と一言言ってから鋼星を乗せて再度馬車を走らせた。
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