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第31話「男部屋」
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烏丸はまた鋼星の道案内に従って大きな建物の前に馬車を止めた。鋼星は安いホテルがあると言っていたがそこに鎮座する建物は7階建てのシゼナで泊まったホテルとは見栄えが大分違っており、フォンツの高貴な街並みに溶け込むにふさわしい佇まいをしていた。
ケーロスが引く馬車を止めてホテルの中に入っていくとフロントの地面は大理石でできておりシゼナのときは木材を敷き詰めたような作りだったためそれに比べると明らかに雰囲気が如実に感じられる程、このホテルは豪奢な作りになっていることがすぐに分かる。
「絶対ここ宿泊費安くないだろ。鋼星がご主人様? とやらに宿泊費出してもらえないのか」
武闘会の話し以来竜太は少しばかり鋼星に当たりが強くなっているようだが当然のことながら鋼星は竜太の変化など余り気にしていない様子だった。それでも、鋼星は何とかできないか少し考え込んでいるところを立華が更に追い打ちをかけた。
「そうですね。帰りのこともありますし予想外の出費はできるだけ避けたいのですが…」クリクリとした瞳で上目遣いをしながら鋼星を見つめる。
「ま、シゼナでおごってもらったお礼だ、俺から頼んでみるわ」
鋼星はそう言うとフロントの受付に領収書を鋼星が使える貴族の名前であるディアス宛に記入してもらい立華が今回の宿泊費を払い、結局鋼星の雇い主に払ってもらうことになった。
フロントで会計を済ませてシゼナ同様男女に分かれて部屋の鍵をもらう。
部屋に向かうエレベーター内では運転席で二人で話したことで仲良くなったと思っている鋼星は相変わらず烏丸を口説いていたが烏丸はまるで断るだけのロボットのように無気質に返答し、鋼星の頼みをすべて拒絶し続けた。
しかし、鋼星は「へへへ」とまるで何もなかったかのように開き直り、まるで鉄のようなメンタルを持っている鋼星に楓は苦笑を浮かべた。
エレベーターは到着の音を鳴らして彼らが泊まる部屋があるフロアにゆっくりと静止した。
シゼナの時同様ここも隣同士で部屋を取り男女に別れて部屋に入ることになった。
どさくさに紛れて鋼星が烏丸の部屋に入ろうとしたが立華が溜息を吐きながら鋼星の耳たぶを引っ張って男部屋に強制的に放り込んだ。
「いいかげんにしてくださいよ。手応え無いのはわかったでしょ?」
立華が烏丸を口説き続けた鋼星にストレートに現実を告げると鋼星は「だよなぁー」と頭を掻いて肯定していた。
「よし! ヘコんだ時は体を動かすのが一番! 外行くぞ、お前ら準備はいいな?」
鋼星のあまりの切り替えの速さに楓と竜太はぎょっとして2人は視線を合わせた。
「暇だしノッてやるよ。なあ楓」
竜太は乗り気の様子だった。
この時、楓は以前特訓したときの事を思い出してふと思った。
あの時、竜太はあんなに鋼星にやられてたのに怖くないんだな。
もしかして、ヴァンパイアとしてのセンスが違うから戦うことに意欲的なのかな。
と言っても、武闘会もあるし、僕自身もっと強くならないいといけないからつべこべ言ってられないよな。
「そうだね。鋼星のおかげでなんとか戦えるようになったし、もっと強くならないとね。でもさ、鋼星…」
途中まで言いかけた時、鋼星は楓の方を振り返った。
「どうした?」
「僕らまだ弱いけど流石に殺すまでやらないよね?」
楓は恐る恐る鋼星の真意を確かめるように訊いた。
しかし、楓の心配はどうやら杞憂だったようだ。
「もうやんないって。あれは、俺の戦いに対する情熱を知ってもらいたかったからやっただけだよ」
鋼星はおどけたように笑いながらそう言った。
楓は鋼星の言ったことで安堵したのか色白い頬を歪めて笑みを浮かべた。
やっぱり僕が考えすぎてただけかな。
ただ、鋼星は何を考えてるのかよくわからないけど僕たちの事を鍛えてくれているのは事実だし、こう言ってるから信じてもいいかも知れない。
「では、頑張ってきてくださいねー。僕は部屋でのんびりしてるんでー」
すでにパジャマ姿の立華は手を振って3人が出ていくのを見送っていた。
「武闘会に出ないやつは呑気でいいよな」と竜太が言ったが鋼星はそれを聞いて首を横に降った。
「違うぞリュージ。お前はあいつより弱い。でも、あいつが怠けてる間にこうやって努力を積み重ねていずれあいつを超えていく存在になれるんだ。亀とうさぎの話と同じだぞ」
と鋼星は竜太の肩に手を置いたが竜太はそっとその手を振り払った。
「リュージじゃなくて竜太だっての。でも、それは正論だよな、もっと強くならないと自分の身すら守れないしな」
「良い心がけだ! そうと決まれば1秒でも惜しいぞ! 早く行くぞ2人共」
鋼星はまるで子分を二人連れた隊長のように大股で先を歩き、2人は引っ張らられるように後を追って部屋を出ていった。
1人部屋に残った立華は溜息を吐いてからつぶやいた。
「全く暑苦しいですね。烏丸ちゃんもそう思いませんか?」
立華が見つめる先のドアがガチャリを音を立てて開き烏丸が姿を表した。
「もう少し会話に加わっても良いんですよ」
「余計なお世話なんだけど」
「あらあら、いつまでその態度でいるつもりですか?」
「どうでも良いでしょ。じゃあ、私部屋戻るから」
「はーい、お疲れ様でーす」
立華はベッドに腰掛け足をぶらつかせながら部屋を出ていく烏丸を見送った。
それから数時間経ってから楓と竜太は鋼星との特訓を終えて部屋に戻ってきた。
3人が部屋に戻ってきてからはシャワーを浴びて、これから武闘会で戦うことは一旦忘れて束の間のまったりとリラックスした時間を過ごしていた。
そして、楓も竜太の二人共人間で言えば高校3年生の年齢になるため、高校生らしい会話が始まった。
「2人はさ彼女いるの?」
鋼星はおおっぴろげな性格からは容易に予想がつくほどに直球な質問が飛んできた。
そんな鋼星はニヤつきながら2人を交互に見た。
竜太は「今はいない」と淡々と答え楓はややあってから首を振ってから「いないよ」と答えた。
竜太はニヤニヤと楓の方を見てから楓の肩を叩いた。
「楓は彼女いないけど好きな人いるよな?」
虚を突かれたような表情を浮かべる楓は「え?」と返した。
「お、誰々? 俺も知りたいんだけど」と鋼星が前のめりになって食い気味に訊いてきた。
「俺はわかってるぜ。幼馴染だからお前の考えてることは全部わかんだよ」
竜太は得意げに自分で納得しているように頷いていた。
「それはどういうことかな?」
「いいよ、いいよ。3人は長い付き合いだもんな。そりゃ惚れてもしょうがないよ」
ニタニタと不敵な笑みを浮かべて、楓の色白い顔は少しずつ赤みを帯びてきて竜太の発言の真偽が明確になっていることがわかった。
顔を赤くした楓は恥ずかしそうにして竜太を睨んだ。
竜太は顔の前で手を振って楓に弁明する。
「ごめんごめん。楓ってなんかいじり甲斐あるじゃん? ついノリで」
楓は「たくっ」と唾を飛ばすように言い捨てた。
竜太は上半身を支えるように後ろに手をついて天井を仰いだ。
「それにしてもさ、アイツは今何やってんのかねぇ」
「もう会えないかもしれないんだよね」
竜太はハッとしたように思い出してから楓に言った。
「もしかして気に触った?」
楓は首を横に振ってから答えた。
「いや、大丈夫だよ。こうなったときから覚悟してたんだから」
楓は諦めに近い表情で言葉を落とすように静かにそう言った。
竜太と楓の間では少し気まずい空気が流れたが鋼星は全く気に留めていないようで更に質問を続けた。
「え? その子ってどこで知り合った子なの?」
楓は相変わらずの鋼星の鈍感さに眉をひそめるように苦笑した。しかし、鋼星の純粋な質問に答えようと視線を上に向けて「うーん」と考え込んだ。
「どこでって言われると…どうやって説明すればいいのかな」
またしばらく考え込んでから「僕らが人げ…」と言いかけた時、もう寝たと思っていた立華が楓の話を遮って割って入った。
「良いじゃないですか好きな人とどこで会っても。あんまり深堀りするのも野暮ってやつですよ」
そう言ってから立華は楓に目配せして急に会話を遮った立華の事を楓はキョトンとした顔で見つめていた。
「ちなみに鋼星くんは今、好きな人とかいるんですか?」
鋼星は当然のことのように胸を張ってその問いに答えた。
「俺は出会った女の子はみんな好きだぜ。だから、今は烏丸ちゃんが好きだ」
立華は「ハハハ」と仮面を貼り付けたような苦笑いを浮かべた。
「そんな気がしましたよ。鋼星くん強いからモテそうですもんね」
鋼星は立華の一言に気を良くしたのか今まで付き合って女性の話や前回のルーロ武闘会で優勝した後にモテた話を得意げに話していた。
自分語りに酔っている鋼星を確認した立華は竜太と楓を捕まえて首を脇に抱えるようにして小声で言い聞かせた。
「いいですか。人間だったことは言わないでくださいよ。ヴァンパイアから人間になるには混血にしかできないことなんですからバレたら色々と面倒なんです」
立華はそれだけ言うと2人を元いた場所に放り投げるように腕を離した。
「さ、もう恋バナは良いでしょ? 僕はもう寝かせてもらいますよ」
そう言って立華は自分のベッドに潜り込み枕元にある部屋の電気のスイッチをオフにして部屋を真っ暗にした。
自分語りを楽しんでいた鋼星は視界が暗くなってようやく話すことを止めた。
立華が部屋の電気を消してから残りの3人も結局、ベッドに入り眠りについていた。
しかし、全員が寝静まってから数時間後、楓は目を覚ました。時計を確認してみると時間は深夜の2時を回ったところだった。
真っ暗闇の部屋の中で楓の赤い瞳だけが光を放つように開いていた。
そして、頭を掻いてからボソッと呟く。
「二人共いびきがうるさい…」
部屋の中ではシゼナのとき同様に竜太のいびきが轟音のように鳴り響いており、隣に眠る鋼星も地鳴りのようないびきを放っていて、この空間で安眠することは困難を極めた。一方、立華はいつの間に準備していたのか1人耳栓をしてスースーと気持ちの良い寝息を立てている。
楓は3人を起こさないようにゆっくりとベッドから降りて部屋の扉を慎重に開いた。
最上階に泊まっているため夜風を浴びようと考えた楓は屋上に続く階段を上り、屋上へ出る扉を開けると外から吹き込んでくる夜風が楓の頬を撫でる。
屋上は街灯が少なく薄い明かりが辺りを照らし出していた。そして、屋上の端の縁で足を投げ出して座り、空を見つめる少女が1人いた。
その少女は屋上のドアが開く音に気づき、ボーイッシュの黒髪を風になびかせて楓の方へ振り返った。
目が合った楓はつぶやく。
「烏丸さん」
ケーロスが引く馬車を止めてホテルの中に入っていくとフロントの地面は大理石でできておりシゼナのときは木材を敷き詰めたような作りだったためそれに比べると明らかに雰囲気が如実に感じられる程、このホテルは豪奢な作りになっていることがすぐに分かる。
「絶対ここ宿泊費安くないだろ。鋼星がご主人様? とやらに宿泊費出してもらえないのか」
武闘会の話し以来竜太は少しばかり鋼星に当たりが強くなっているようだが当然のことながら鋼星は竜太の変化など余り気にしていない様子だった。それでも、鋼星は何とかできないか少し考え込んでいるところを立華が更に追い打ちをかけた。
「そうですね。帰りのこともありますし予想外の出費はできるだけ避けたいのですが…」クリクリとした瞳で上目遣いをしながら鋼星を見つめる。
「ま、シゼナでおごってもらったお礼だ、俺から頼んでみるわ」
鋼星はそう言うとフロントの受付に領収書を鋼星が使える貴族の名前であるディアス宛に記入してもらい立華が今回の宿泊費を払い、結局鋼星の雇い主に払ってもらうことになった。
フロントで会計を済ませてシゼナ同様男女に分かれて部屋の鍵をもらう。
部屋に向かうエレベーター内では運転席で二人で話したことで仲良くなったと思っている鋼星は相変わらず烏丸を口説いていたが烏丸はまるで断るだけのロボットのように無気質に返答し、鋼星の頼みをすべて拒絶し続けた。
しかし、鋼星は「へへへ」とまるで何もなかったかのように開き直り、まるで鉄のようなメンタルを持っている鋼星に楓は苦笑を浮かべた。
エレベーターは到着の音を鳴らして彼らが泊まる部屋があるフロアにゆっくりと静止した。
シゼナの時同様ここも隣同士で部屋を取り男女に別れて部屋に入ることになった。
どさくさに紛れて鋼星が烏丸の部屋に入ろうとしたが立華が溜息を吐きながら鋼星の耳たぶを引っ張って男部屋に強制的に放り込んだ。
「いいかげんにしてくださいよ。手応え無いのはわかったでしょ?」
立華が烏丸を口説き続けた鋼星にストレートに現実を告げると鋼星は「だよなぁー」と頭を掻いて肯定していた。
「よし! ヘコんだ時は体を動かすのが一番! 外行くぞ、お前ら準備はいいな?」
鋼星のあまりの切り替えの速さに楓と竜太はぎょっとして2人は視線を合わせた。
「暇だしノッてやるよ。なあ楓」
竜太は乗り気の様子だった。
この時、楓は以前特訓したときの事を思い出してふと思った。
あの時、竜太はあんなに鋼星にやられてたのに怖くないんだな。
もしかして、ヴァンパイアとしてのセンスが違うから戦うことに意欲的なのかな。
と言っても、武闘会もあるし、僕自身もっと強くならないいといけないからつべこべ言ってられないよな。
「そうだね。鋼星のおかげでなんとか戦えるようになったし、もっと強くならないとね。でもさ、鋼星…」
途中まで言いかけた時、鋼星は楓の方を振り返った。
「どうした?」
「僕らまだ弱いけど流石に殺すまでやらないよね?」
楓は恐る恐る鋼星の真意を確かめるように訊いた。
しかし、楓の心配はどうやら杞憂だったようだ。
「もうやんないって。あれは、俺の戦いに対する情熱を知ってもらいたかったからやっただけだよ」
鋼星はおどけたように笑いながらそう言った。
楓は鋼星の言ったことで安堵したのか色白い頬を歪めて笑みを浮かべた。
やっぱり僕が考えすぎてただけかな。
ただ、鋼星は何を考えてるのかよくわからないけど僕たちの事を鍛えてくれているのは事実だし、こう言ってるから信じてもいいかも知れない。
「では、頑張ってきてくださいねー。僕は部屋でのんびりしてるんでー」
すでにパジャマ姿の立華は手を振って3人が出ていくのを見送っていた。
「武闘会に出ないやつは呑気でいいよな」と竜太が言ったが鋼星はそれを聞いて首を横に降った。
「違うぞリュージ。お前はあいつより弱い。でも、あいつが怠けてる間にこうやって努力を積み重ねていずれあいつを超えていく存在になれるんだ。亀とうさぎの話と同じだぞ」
と鋼星は竜太の肩に手を置いたが竜太はそっとその手を振り払った。
「リュージじゃなくて竜太だっての。でも、それは正論だよな、もっと強くならないと自分の身すら守れないしな」
「良い心がけだ! そうと決まれば1秒でも惜しいぞ! 早く行くぞ2人共」
鋼星はまるで子分を二人連れた隊長のように大股で先を歩き、2人は引っ張らられるように後を追って部屋を出ていった。
1人部屋に残った立華は溜息を吐いてからつぶやいた。
「全く暑苦しいですね。烏丸ちゃんもそう思いませんか?」
立華が見つめる先のドアがガチャリを音を立てて開き烏丸が姿を表した。
「もう少し会話に加わっても良いんですよ」
「余計なお世話なんだけど」
「あらあら、いつまでその態度でいるつもりですか?」
「どうでも良いでしょ。じゃあ、私部屋戻るから」
「はーい、お疲れ様でーす」
立華はベッドに腰掛け足をぶらつかせながら部屋を出ていく烏丸を見送った。
それから数時間経ってから楓と竜太は鋼星との特訓を終えて部屋に戻ってきた。
3人が部屋に戻ってきてからはシャワーを浴びて、これから武闘会で戦うことは一旦忘れて束の間のまったりとリラックスした時間を過ごしていた。
そして、楓も竜太の二人共人間で言えば高校3年生の年齢になるため、高校生らしい会話が始まった。
「2人はさ彼女いるの?」
鋼星はおおっぴろげな性格からは容易に予想がつくほどに直球な質問が飛んできた。
そんな鋼星はニヤつきながら2人を交互に見た。
竜太は「今はいない」と淡々と答え楓はややあってから首を振ってから「いないよ」と答えた。
竜太はニヤニヤと楓の方を見てから楓の肩を叩いた。
「楓は彼女いないけど好きな人いるよな?」
虚を突かれたような表情を浮かべる楓は「え?」と返した。
「お、誰々? 俺も知りたいんだけど」と鋼星が前のめりになって食い気味に訊いてきた。
「俺はわかってるぜ。幼馴染だからお前の考えてることは全部わかんだよ」
竜太は得意げに自分で納得しているように頷いていた。
「それはどういうことかな?」
「いいよ、いいよ。3人は長い付き合いだもんな。そりゃ惚れてもしょうがないよ」
ニタニタと不敵な笑みを浮かべて、楓の色白い顔は少しずつ赤みを帯びてきて竜太の発言の真偽が明確になっていることがわかった。
顔を赤くした楓は恥ずかしそうにして竜太を睨んだ。
竜太は顔の前で手を振って楓に弁明する。
「ごめんごめん。楓ってなんかいじり甲斐あるじゃん? ついノリで」
楓は「たくっ」と唾を飛ばすように言い捨てた。
竜太は上半身を支えるように後ろに手をついて天井を仰いだ。
「それにしてもさ、アイツは今何やってんのかねぇ」
「もう会えないかもしれないんだよね」
竜太はハッとしたように思い出してから楓に言った。
「もしかして気に触った?」
楓は首を横に振ってから答えた。
「いや、大丈夫だよ。こうなったときから覚悟してたんだから」
楓は諦めに近い表情で言葉を落とすように静かにそう言った。
竜太と楓の間では少し気まずい空気が流れたが鋼星は全く気に留めていないようで更に質問を続けた。
「え? その子ってどこで知り合った子なの?」
楓は相変わらずの鋼星の鈍感さに眉をひそめるように苦笑した。しかし、鋼星の純粋な質問に答えようと視線を上に向けて「うーん」と考え込んだ。
「どこでって言われると…どうやって説明すればいいのかな」
またしばらく考え込んでから「僕らが人げ…」と言いかけた時、もう寝たと思っていた立華が楓の話を遮って割って入った。
「良いじゃないですか好きな人とどこで会っても。あんまり深堀りするのも野暮ってやつですよ」
そう言ってから立華は楓に目配せして急に会話を遮った立華の事を楓はキョトンとした顔で見つめていた。
「ちなみに鋼星くんは今、好きな人とかいるんですか?」
鋼星は当然のことのように胸を張ってその問いに答えた。
「俺は出会った女の子はみんな好きだぜ。だから、今は烏丸ちゃんが好きだ」
立華は「ハハハ」と仮面を貼り付けたような苦笑いを浮かべた。
「そんな気がしましたよ。鋼星くん強いからモテそうですもんね」
鋼星は立華の一言に気を良くしたのか今まで付き合って女性の話や前回のルーロ武闘会で優勝した後にモテた話を得意げに話していた。
自分語りに酔っている鋼星を確認した立華は竜太と楓を捕まえて首を脇に抱えるようにして小声で言い聞かせた。
「いいですか。人間だったことは言わないでくださいよ。ヴァンパイアから人間になるには混血にしかできないことなんですからバレたら色々と面倒なんです」
立華はそれだけ言うと2人を元いた場所に放り投げるように腕を離した。
「さ、もう恋バナは良いでしょ? 僕はもう寝かせてもらいますよ」
そう言って立華は自分のベッドに潜り込み枕元にある部屋の電気のスイッチをオフにして部屋を真っ暗にした。
自分語りを楽しんでいた鋼星は視界が暗くなってようやく話すことを止めた。
立華が部屋の電気を消してから残りの3人も結局、ベッドに入り眠りについていた。
しかし、全員が寝静まってから数時間後、楓は目を覚ました。時計を確認してみると時間は深夜の2時を回ったところだった。
真っ暗闇の部屋の中で楓の赤い瞳だけが光を放つように開いていた。
そして、頭を掻いてからボソッと呟く。
「二人共いびきがうるさい…」
部屋の中ではシゼナのとき同様に竜太のいびきが轟音のように鳴り響いており、隣に眠る鋼星も地鳴りのようないびきを放っていて、この空間で安眠することは困難を極めた。一方、立華はいつの間に準備していたのか1人耳栓をしてスースーと気持ちの良い寝息を立てている。
楓は3人を起こさないようにゆっくりとベッドから降りて部屋の扉を慎重に開いた。
最上階に泊まっているため夜風を浴びようと考えた楓は屋上に続く階段を上り、屋上へ出る扉を開けると外から吹き込んでくる夜風が楓の頬を撫でる。
屋上は街灯が少なく薄い明かりが辺りを照らし出していた。そして、屋上の端の縁で足を投げ出して座り、空を見つめる少女が1人いた。
その少女は屋上のドアが開く音に気づき、ボーイッシュの黒髪を風になびかせて楓の方へ振り返った。
目が合った楓はつぶやく。
「烏丸さん」
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