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第97話「連堂VSパッチ①『寡黙な男』」
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場所は地下世界アガルタ。そして、時間は地上に合わせて真っ暗闇に包まれた夜。モラド派のヴァンパイアたちは進行してくるALPHAの大群に懸命に応戦していた。
両軍の力は拮抗しており、結果はこの範囲の隊を率いている大将の力量次第で決着が突きそうな、そんな緊張感が周囲に漂っていた。
両軍が戦っているここは、いくつかの小さな山があり、隊を分けてそれぞれが応戦している。
その中で、モラドNo.2連堂京介はその山の洞窟に数名の隊員を連れて、足音を立てずに息を殺しながら調査に向かっていた。
暗闇に包まれる洞窟。人間の視力では真っ暗闇で何も見えないところでも、ヴァンパイアは明かりを付けた状態のように明瞭に状況を認識できる。
連堂の視線の先にいつの間にか現れたのかというほど、音もなく一人のヴァンパイアが突然姿を表した。辺りは大小さまざまな大きさの岩があり身を隠す場所が多くあるにも関わらず、そのヴァンパイアは隠れる素振りも、驚いた様子もなく平然と横穴から現れて一人で道の真ん中に堂々と姿を見せる。はなから隠れようということさえ考えていなかったのか金属を地面に擦りながら近づいている。
「…」
何も言わない。
そのヴァンパイアは、2m以上ありそうな身長と同じくらいの大きな鎌を片手に持っていた。体格は、まるで鎌と同じように、かなりの細身。そして、白いお面をしている。そのお面は黒い三日月のような目と口だけが書かれており、表情がやけににこやかである。
そのヴァンパイアのもう片方の手には、連堂が別働隊として命令を出したはずの隊員の首が3つ髪を鷲掴みにされて握られている。首の断面はその大きな鎌で刈り取ったのか、歪みがなくかまぼこでも切ったみたいに綺麗な切り口をしていた。3つの生首は褐色を失い青白く、血を垂れ流している。
連堂の後方にいる隊員は仲間を失った怒りのあまり腰から刀を抜いて、前方の鎌を持ったヴァンパイアに向ける。しかし、連堂はそれを手で制した。その代わり、連堂は青く輝く刀を鞘から取り出して刃先を正面の敵に向けた。もう片方の手に持っていた刀の鞘を放り投げる。
そして、連れてきた隊員に注意を促した。
「やつはNo.2のパッチだ。お前たちが戦えば足手まといになる。下ってろ」
必要最低限にそれだけを言うと、隊員たちは目の前にいるのが、ALPHAのNo.2だと知ってから、真剣な顔つきに変わり、頬には汗をにじませている。
連堂は構えた刀を再び握り直して、無言で地面を蹴り上げる。音がよく響くこの洞窟では、靴が砂利をこする音が明確に聞こえた。
その刹那、暗闇の中にオレンジ色の火花が散った。その火花が暗闇を照らして、連堂とパッチの刃が交わったことを距離を置いて見ている隊員たちは理解した。
仮面の下の表情はどうなっているのだろうか? それはパッチにしかわからないことだが、それでも黒いタンクトップを着ているパッチの腕の筋肉は震えるほど張っており、連堂の一撃に対して力を込めていることがわかった。大きな鎌を持つためにしている革製のグローブをした手は一度開いてから、再び強く握りしめた。
大きな鎌と太刀に込められた力がぶつかり合う。
そして、連堂は仮面に描かれた三日月のような目を見て問う。
「その3人をやったのはお前だな?」
「…」
連堂が問いかけたが、無言でいるパッチは笑っているのか喜んでいるのか仮面の下の表情はわからない。
パッチは手に持っていた3つの首を後方へ放り投げた。連堂はそれを見て少しだけ広角を上げる。
「お前みたいな最低な奴は心置きなく殺せる」
それから、二人の会話はなかった。ただただ、暗闇の洞窟の中で青い刀と紫の鎌が交わり合っている。ひっきりなしに金属が弾ける音と火花をちらし、あまりの速さ、そして、力強さに連堂に制された隊員たちはただただ指を加えてみているしかなかった。いや、この戦いに参戦したらむしろ連堂の足を引っ張るということを彼ら自身理解していた。
お互いの身体能力はそこらへんのヴァンパイアとは比べ物にならなかった。連堂は側面の壁が地面になったように壁を伝って素早く、パッチの内側に入り込み、鎌の刃が届かない距離まで詰める。一方、パッチは大きな体と大きな鎌で連堂よりスピードが劣っている。
戦況は地形の形状を生かして連堂が押していた。パッチはどこに狙いを定めているのか、それともやけになったのか、鎌を両手で掴んでから左右に振り回し始めた。連堂が壁からジャンプしてから鎌を振り上げており、タイミングが全く合っていない。
連堂は壁を伝って、上からそして左から、右から、後ろからときには正面から攻撃を仕掛ける。パッチは連堂の素早さに鎌だけでは防ぎきれなかった攻撃を何発か食らっていた。
致命傷に至るほどの傷ではなかったため、血の跡だけ残して治癒しているが、それでもパッチはまだ、大きな鎌を上半身を振り回して鎌を振る。
連堂は、また壁を踏み台にしてパッチに攻撃を仕掛けたときだった。連堂が、踏み込んだその壁が発泡スチロールでも踏んだかかのように崩れ落ちた。踏み込んだ足が空振りした連堂は前のめりになった体で両手を地面に付き、バック転するように宙返りして体勢を立て直した。
それから、視線が安定して周りで何が起きているのかようやく気がついた。
やけに空間が広がっている。光が差さない真っ暗闇の洞窟のはずがやけに風通しが良い。
「なるほど」
二人が戦っている場所は山の中の洞窟…のはずだった。しかし、気がついてみれば、隣同士にあった洞窟という洞窟が壁が打ち破られたことで結合し、山の中にあるのは1つの大きな空洞になっていた。向こう側にある大きな穴からは光が差し込んで見える。
しばらくすると、地鳴りのような大きな音が洞窟内に響き始めた。
「崩れるぞ! 避難しろ!」
何が起きたのかわからず、連堂とパッチに巻き込まれないように身を持っていた隊員たちはキョトンとしていた。数秒間あって、隊員は連堂が言ったことをようやく理解した。
天井も見上げてみれば、蜂の巣のように穴だらけになっている。パッチが鎌を振り回して開けた穴だった。
パッチは鎌を持っていた手を握ってたり開いたりして、まるで準備運動は終わったとでもいうような様子だ。
「あいつ、連堂さんと洞窟じゃ不利だからって山ごと壊しやがった」
逃げながら隊員は吐き捨てるように言う。
「ちょっと、待てよ連堂さんのあの攻撃を受けながら洞窟を破壊することに集中してたってわけかよ。俺だったら一発食らっただけで即死だわ」
「それがALPHAのNo2なんだよ、やっぱり俺らが手を出しちゃいけねぇ相手だったんだ。さっさと逃げたほうがいい、パッチを前にして今、命があるのだって不思議なぐらいだ」
「ですね。ようやく出口です。なんとか僕らも逃げられそうですね」
「ああ、間違いないな」
「いやぁ、でも連堂さんのあの強さ目の前で見られたのはマジで感動したっす」
3つの首は切られたことも知らずに、首の断面を地面に付けて会話する。会話が切れたころに自身が死んだことをようやく理解した。
「クソ! 待て!」
連堂は頭上から落ちてくる瓦礫を避けるのに手間取っている少しの間でパッチは連堂の部下たちを処理した。
連堂はパッチを追いかける。そして、パッチと連堂は洞窟の外へ出た。すると、洞窟に入る前は、見上げるほど大きな山があったはずなのに、その山はただの瓦礫の山になってパッチや連堂と同じ身長ぐらいに土砂が堆積しているだけで、それは「山」という存在を保つことは出来ていなかった。
連堂が外に出ると、瓦礫の上に立って見下すようにパッチは連堂を見下ろしている。片手には、さっきまで連堂の護衛にいた隊員たちの首が、死ぬ直前の表情を固定したまま握られている。
護衛の隊員は全てパッチによって簡単に首を刈り取られた。元々単独行動していたパッチと連堂はこの時、初めて二人だけになった。
パッチは連堂をじっと見つめると、握っていた3つの首を後方に放り投げた。今度は、わざと見せびらかすように。肩をケタケタと揺らしている。その素振りからパッチの仮面の下が笑っていることを確信した。
「貴様ぁ!」
連堂は今度は壁無しで正面から、人間が肉眼で追うことが出来ないほどの連撃を繰り出した。刀が青く光っていなければ何をどうしているのかさえわからなかっただろう。
連堂の連撃をパッチは大きな鎌一本で防ぎ切る。その細い腕でその大きな鎌をどうやってそんなにも軽々と振り回しているのか不思議なほどだった。
剣を交える間、二人の間に会話はなかった。力む声すら聞こえない。地面がえぐられる音や金属がぶつかる音を除けばかすかに、僅かな呼吸音だけが聞こえるが、言葉のやり取りとして会話が行われることはなかった。
二人が打ち合いを初めてどれだけ時間が立っただろう。洞窟で遭遇した時は辺りがまだ暗かったはずだが、地下世界の空が薄っすらと明るみ始めた。洞窟の入り口では光が差し込んでいた地下世界アガルタでは、その光が無くなって辺りは暗闇に包まれ始めた。洞窟の中だから、アガルタの光の入と沈みは把握できないが外の景色は、暗闇から光りに包まれ、それからまた薄暗くなり始めた。
外の景色は時間とともに変化するが、パッチと連堂の責め合いは一向に変化はなかった。
常人ならば、普通のヴァンパイアならばとっくに体力を消耗してくたばっているであろうほどに戦い続ける二人。パッチは互角に渡りあうこの戦いに、この時始めて、お面がわずかに動いた。それは、面の下の表情が和らいだことによるものだった。
パッチと連堂が初めて顔を合わせたときよりも何故が二人の表情は楽しんでるように思える。連堂は額から血を流しているが、そんなことは気にしていなかった。それよりも、もっとパッチの武を体感したいという好奇心のほうが勝っているように思える。
表情から二人は出会ってから、会話をしたわけでもないのに刀を交えているだけで二人は満たされていく。
互いに肩を上下に揺らして体力を消耗していることがわかる。
「パッチよ。まさか、これで終わらないよな?」
その言葉を言い終わった後には、パッチの包帯巻きにされていた腕の包帯は解けた。包帯の下にあった肌は、痣だらけでヴァンパイアの治癒力を持ってしても完治していないひどい傷だった。それは、今までの戦績を物語る。
パッチは首を左右に曲げて、ポキポキと鳴らす。そして、やや中腰になってだらんと脱力したように腕をぶら下げて前傾姿勢になった。大きな鎌は地面に刃をこする。
パッチが本気になったことに連堂はフッと息を吐いて気合を入れ直した。刀を顔の前まで持ち上げると長い瞬きで精神を再度集中し、再び目を開いた時にはさらに鋭い眼光に変化した。気がつけばパッチの前方にいた連堂は、後方へと姿を移動していた。
連堂は自分の刀に付いたパッチの血液を汚いものでも薙ぎ払うように、振って取った。
しかし、切られたのにも関わらずパッチも声は出さないが仮面の下の表情は笑っているのだろう。首が弾むように顔が上下している。
その途端、連堂の肩から血潮が勢いよく飛び散った。連堂は一瞬遅れて自分の身に起こっていることを理解した。身につけているスーツの肩口が破けて、傷口を押さえる。人間なら致命傷。ヴァンパイアの連堂は地面に膝を付いた。
両軍の力は拮抗しており、結果はこの範囲の隊を率いている大将の力量次第で決着が突きそうな、そんな緊張感が周囲に漂っていた。
両軍が戦っているここは、いくつかの小さな山があり、隊を分けてそれぞれが応戦している。
その中で、モラドNo.2連堂京介はその山の洞窟に数名の隊員を連れて、足音を立てずに息を殺しながら調査に向かっていた。
暗闇に包まれる洞窟。人間の視力では真っ暗闇で何も見えないところでも、ヴァンパイアは明かりを付けた状態のように明瞭に状況を認識できる。
連堂の視線の先にいつの間にか現れたのかというほど、音もなく一人のヴァンパイアが突然姿を表した。辺りは大小さまざまな大きさの岩があり身を隠す場所が多くあるにも関わらず、そのヴァンパイアは隠れる素振りも、驚いた様子もなく平然と横穴から現れて一人で道の真ん中に堂々と姿を見せる。はなから隠れようということさえ考えていなかったのか金属を地面に擦りながら近づいている。
「…」
何も言わない。
そのヴァンパイアは、2m以上ありそうな身長と同じくらいの大きな鎌を片手に持っていた。体格は、まるで鎌と同じように、かなりの細身。そして、白いお面をしている。そのお面は黒い三日月のような目と口だけが書かれており、表情がやけににこやかである。
そのヴァンパイアのもう片方の手には、連堂が別働隊として命令を出したはずの隊員の首が3つ髪を鷲掴みにされて握られている。首の断面はその大きな鎌で刈り取ったのか、歪みがなくかまぼこでも切ったみたいに綺麗な切り口をしていた。3つの生首は褐色を失い青白く、血を垂れ流している。
連堂の後方にいる隊員は仲間を失った怒りのあまり腰から刀を抜いて、前方の鎌を持ったヴァンパイアに向ける。しかし、連堂はそれを手で制した。その代わり、連堂は青く輝く刀を鞘から取り出して刃先を正面の敵に向けた。もう片方の手に持っていた刀の鞘を放り投げる。
そして、連れてきた隊員に注意を促した。
「やつはNo.2のパッチだ。お前たちが戦えば足手まといになる。下ってろ」
必要最低限にそれだけを言うと、隊員たちは目の前にいるのが、ALPHAのNo.2だと知ってから、真剣な顔つきに変わり、頬には汗をにじませている。
連堂は構えた刀を再び握り直して、無言で地面を蹴り上げる。音がよく響くこの洞窟では、靴が砂利をこする音が明確に聞こえた。
その刹那、暗闇の中にオレンジ色の火花が散った。その火花が暗闇を照らして、連堂とパッチの刃が交わったことを距離を置いて見ている隊員たちは理解した。
仮面の下の表情はどうなっているのだろうか? それはパッチにしかわからないことだが、それでも黒いタンクトップを着ているパッチの腕の筋肉は震えるほど張っており、連堂の一撃に対して力を込めていることがわかった。大きな鎌を持つためにしている革製のグローブをした手は一度開いてから、再び強く握りしめた。
大きな鎌と太刀に込められた力がぶつかり合う。
そして、連堂は仮面に描かれた三日月のような目を見て問う。
「その3人をやったのはお前だな?」
「…」
連堂が問いかけたが、無言でいるパッチは笑っているのか喜んでいるのか仮面の下の表情はわからない。
パッチは手に持っていた3つの首を後方へ放り投げた。連堂はそれを見て少しだけ広角を上げる。
「お前みたいな最低な奴は心置きなく殺せる」
それから、二人の会話はなかった。ただただ、暗闇の洞窟の中で青い刀と紫の鎌が交わり合っている。ひっきりなしに金属が弾ける音と火花をちらし、あまりの速さ、そして、力強さに連堂に制された隊員たちはただただ指を加えてみているしかなかった。いや、この戦いに参戦したらむしろ連堂の足を引っ張るということを彼ら自身理解していた。
お互いの身体能力はそこらへんのヴァンパイアとは比べ物にならなかった。連堂は側面の壁が地面になったように壁を伝って素早く、パッチの内側に入り込み、鎌の刃が届かない距離まで詰める。一方、パッチは大きな体と大きな鎌で連堂よりスピードが劣っている。
戦況は地形の形状を生かして連堂が押していた。パッチはどこに狙いを定めているのか、それともやけになったのか、鎌を両手で掴んでから左右に振り回し始めた。連堂が壁からジャンプしてから鎌を振り上げており、タイミングが全く合っていない。
連堂は壁を伝って、上からそして左から、右から、後ろからときには正面から攻撃を仕掛ける。パッチは連堂の素早さに鎌だけでは防ぎきれなかった攻撃を何発か食らっていた。
致命傷に至るほどの傷ではなかったため、血の跡だけ残して治癒しているが、それでもパッチはまだ、大きな鎌を上半身を振り回して鎌を振る。
連堂は、また壁を踏み台にしてパッチに攻撃を仕掛けたときだった。連堂が、踏み込んだその壁が発泡スチロールでも踏んだかかのように崩れ落ちた。踏み込んだ足が空振りした連堂は前のめりになった体で両手を地面に付き、バック転するように宙返りして体勢を立て直した。
それから、視線が安定して周りで何が起きているのかようやく気がついた。
やけに空間が広がっている。光が差さない真っ暗闇の洞窟のはずがやけに風通しが良い。
「なるほど」
二人が戦っている場所は山の中の洞窟…のはずだった。しかし、気がついてみれば、隣同士にあった洞窟という洞窟が壁が打ち破られたことで結合し、山の中にあるのは1つの大きな空洞になっていた。向こう側にある大きな穴からは光が差し込んで見える。
しばらくすると、地鳴りのような大きな音が洞窟内に響き始めた。
「崩れるぞ! 避難しろ!」
何が起きたのかわからず、連堂とパッチに巻き込まれないように身を持っていた隊員たちはキョトンとしていた。数秒間あって、隊員は連堂が言ったことをようやく理解した。
天井も見上げてみれば、蜂の巣のように穴だらけになっている。パッチが鎌を振り回して開けた穴だった。
パッチは鎌を持っていた手を握ってたり開いたりして、まるで準備運動は終わったとでもいうような様子だ。
「あいつ、連堂さんと洞窟じゃ不利だからって山ごと壊しやがった」
逃げながら隊員は吐き捨てるように言う。
「ちょっと、待てよ連堂さんのあの攻撃を受けながら洞窟を破壊することに集中してたってわけかよ。俺だったら一発食らっただけで即死だわ」
「それがALPHAのNo2なんだよ、やっぱり俺らが手を出しちゃいけねぇ相手だったんだ。さっさと逃げたほうがいい、パッチを前にして今、命があるのだって不思議なぐらいだ」
「ですね。ようやく出口です。なんとか僕らも逃げられそうですね」
「ああ、間違いないな」
「いやぁ、でも連堂さんのあの強さ目の前で見られたのはマジで感動したっす」
3つの首は切られたことも知らずに、首の断面を地面に付けて会話する。会話が切れたころに自身が死んだことをようやく理解した。
「クソ! 待て!」
連堂は頭上から落ちてくる瓦礫を避けるのに手間取っている少しの間でパッチは連堂の部下たちを処理した。
連堂はパッチを追いかける。そして、パッチと連堂は洞窟の外へ出た。すると、洞窟に入る前は、見上げるほど大きな山があったはずなのに、その山はただの瓦礫の山になってパッチや連堂と同じ身長ぐらいに土砂が堆積しているだけで、それは「山」という存在を保つことは出来ていなかった。
連堂が外に出ると、瓦礫の上に立って見下すようにパッチは連堂を見下ろしている。片手には、さっきまで連堂の護衛にいた隊員たちの首が、死ぬ直前の表情を固定したまま握られている。
護衛の隊員は全てパッチによって簡単に首を刈り取られた。元々単独行動していたパッチと連堂はこの時、初めて二人だけになった。
パッチは連堂をじっと見つめると、握っていた3つの首を後方に放り投げた。今度は、わざと見せびらかすように。肩をケタケタと揺らしている。その素振りからパッチの仮面の下が笑っていることを確信した。
「貴様ぁ!」
連堂は今度は壁無しで正面から、人間が肉眼で追うことが出来ないほどの連撃を繰り出した。刀が青く光っていなければ何をどうしているのかさえわからなかっただろう。
連堂の連撃をパッチは大きな鎌一本で防ぎ切る。その細い腕でその大きな鎌をどうやってそんなにも軽々と振り回しているのか不思議なほどだった。
剣を交える間、二人の間に会話はなかった。力む声すら聞こえない。地面がえぐられる音や金属がぶつかる音を除けばかすかに、僅かな呼吸音だけが聞こえるが、言葉のやり取りとして会話が行われることはなかった。
二人が打ち合いを初めてどれだけ時間が立っただろう。洞窟で遭遇した時は辺りがまだ暗かったはずだが、地下世界の空が薄っすらと明るみ始めた。洞窟の入り口では光が差し込んでいた地下世界アガルタでは、その光が無くなって辺りは暗闇に包まれ始めた。洞窟の中だから、アガルタの光の入と沈みは把握できないが外の景色は、暗闇から光りに包まれ、それからまた薄暗くなり始めた。
外の景色は時間とともに変化するが、パッチと連堂の責め合いは一向に変化はなかった。
常人ならば、普通のヴァンパイアならばとっくに体力を消耗してくたばっているであろうほどに戦い続ける二人。パッチは互角に渡りあうこの戦いに、この時始めて、お面がわずかに動いた。それは、面の下の表情が和らいだことによるものだった。
パッチと連堂が初めて顔を合わせたときよりも何故が二人の表情は楽しんでるように思える。連堂は額から血を流しているが、そんなことは気にしていなかった。それよりも、もっとパッチの武を体感したいという好奇心のほうが勝っているように思える。
表情から二人は出会ってから、会話をしたわけでもないのに刀を交えているだけで二人は満たされていく。
互いに肩を上下に揺らして体力を消耗していることがわかる。
「パッチよ。まさか、これで終わらないよな?」
その言葉を言い終わった後には、パッチの包帯巻きにされていた腕の包帯は解けた。包帯の下にあった肌は、痣だらけでヴァンパイアの治癒力を持ってしても完治していないひどい傷だった。それは、今までの戦績を物語る。
パッチは首を左右に曲げて、ポキポキと鳴らす。そして、やや中腰になってだらんと脱力したように腕をぶら下げて前傾姿勢になった。大きな鎌は地面に刃をこする。
パッチが本気になったことに連堂はフッと息を吐いて気合を入れ直した。刀を顔の前まで持ち上げると長い瞬きで精神を再度集中し、再び目を開いた時にはさらに鋭い眼光に変化した。気がつけばパッチの前方にいた連堂は、後方へと姿を移動していた。
連堂は自分の刀に付いたパッチの血液を汚いものでも薙ぎ払うように、振って取った。
しかし、切られたのにも関わらずパッチも声は出さないが仮面の下の表情は笑っているのだろう。首が弾むように顔が上下している。
その途端、連堂の肩から血潮が勢いよく飛び散った。連堂は一瞬遅れて自分の身に起こっていることを理解した。身につけているスーツの肩口が破けて、傷口を押さえる。人間なら致命傷。ヴァンパイアの連堂は地面に膝を付いた。
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