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1.そうだ、強めのお酒を一杯ひっかけよう!!
しおりを挟むメルティ・ロッズは突然この世界とは違う『日本』という国で若くして命を落としたアラサーOLだった前世を思い出した。
そして…転生したこの世界が、前世やり込んだ恋愛ゲーム『ハンナと7人の騎士ナイト~恋の迷宮に迷い込んで~』の世界であり、自分は所謂『悪役令嬢』的なポジションであることを、思い出してしまったのだ──
あああ、どうしましょう。
メルティは自室の鏡に映る自分を凝視しながらしゃがみ込んだ。
飯島澪いいじま みおという名前で生きたメルティの前世はとっても内気で、あがり症。人と話すのも苦手でコミュ障だったのだ。
そんな澪の過去を思い出したことで、メルティの性格にも影響が出てきていた。
メルティは絵に描いたような悪役令嬢だ。傲慢で癇癪持ち、プライドが高く主人公を虐めまくり、話を盛り上げる役どころである。公爵令嬢として育ち、今まで疑問も持たずに自分の好きなように振舞ってきたけれども…
澪の記憶を取り戻した今…穴に入って埋まりたいくらいメルティは後悔していた。なんで前世の記憶なんか取り戻してしまったのだろう。物語を盛り上げるには『悪役令嬢』は必須なのに…、その役割を演じ切るなんてとても無理だと、メルティは頭を抱える。
しかし…
恋愛ゲームをやり尽くしている澪の記憶が蘇ったメルティには分かる。メルティが居ないと物語が盛り上がらない処か…ストーリーが破綻してしまうということが!!
あああ、どうしましょう。
素面ではとても無理よ…!!
日本人の真面目な気質からか、『澪』がそうさせるのか、『悪役令嬢』を演じ切るというミッションをどうにか遂行させなければと脅迫概念に襲われる。
そ…そうだ、強めのお酒、強めのお酒を一杯ひっかけよう!!
アラサーOLの思考にどっぷり浸かり、藁にも縋る思いでメルティは強めのお酒を飲み干したのである──
◆◆◆
「あら?こんな処で庶民がうろついて…この学園の品位が下がりますわ、嫌ですわ、目障りなので消えてくださらない?」
太陽のように光る金色の髪をドリルのような縦ロールに決め、傲慢な笑顔を庶民の女、ヒロインであるハンナに向けているメルティの顔は、何故かほんのり赤く染まっていた。
「も、申し訳…ありません、メルティ様……」
怯えるような表情のハンナに、さらに顔を歪ませてメルティは詰め寄る。
「馴れ馴れしく呼ばないで頂戴。ああ、やだこれだから庶民は!私の影を踏むのも許しません事よっ!!」
ほーほっほっほっ──と悪役っぽい笑いを上げてメルティはハンナを嘲笑った。泣きそうになるハンナの目の前に、さっと背の高い美丈夫が現れ、冷たい視線でメルティを睨みつけた。
「メルティ…、何度も言うが君の行動は目に余る。ハンナ嬢に謝るんだ」
「あら、キースリンデ殿下。庶民をお庇いになるなんて、お優しいのですわね」
メルティを冷たい目線で見つめる男…キースリンデ・ブラディアスは、ブラディアス王国の王太子であり、メルティの婚約者である。
そして…恋愛ゲームの攻略対象である。ハンナと仲睦まじくしている姿を度々見かけるので、ハンナは王太子ルートを進んでいるのだとメルティは推測する。
「でも、殿下の婚約者はこの私。庶民に誤解されぬよう…殿下こそ態度を見直されては?そこの庶民も思い上がらないことねっ!」
「君という人は……何を言っても無駄みたいだな」
婚約者を見つめるには冷たすぎる視線にメルティは怯むことなくニッコリと意地悪く微笑み、二人の前から優雅に歩き去った──ように見せた。
「ひぃえぇぇぇぇぇ!!!こわかった、こわかったですわ…!!」
酔いが冷めるほど、メルティはビビっていた。木陰でブルブルと震えながら、自身の悪役令嬢っぷりを後悔する。
「あああ、何てことを言ってしまったのかしら。これで合ってる?大丈夫ですの?言い過ぎではなくて?」
『澪』の記憶を持ったメルティは小心者なのである。今まで何も考えずに発せられた罵声も、もうハードルが高すぎて言った後のダメージが大きすぎる。
「落ち着いて、私は『悪役令嬢』ですのよ、も、もう一杯命の水(強めのお酒)を…」
常備していたお酒の小瓶を必死に煽る。頭がぼうっとして、気分が上気してくるのが分かる。そして先ほどまで感じていた罪悪感が少し軽くなった。
キースリンデに冷たい視線を向けられて傷ついた心も──
◆◆◆
キースリンデはメルティが去っていった方向を見て怪訝そうに眉を顰めた。
「酒の…匂い──?」
先ほど向き合った際に、己の婚約者から強い酒の匂いが僅かにしたのだ。成人しているとは言え昼間から…あの女、飲酒しているのか?
キースリンデは呆れた思いで深いため息を吐いた。国のパワーバランスを考えた上での政略結婚相手として割り切ってはいるが、実のところ己の婚約者であるメルティを好ましくは思えていないのだ。
傲慢で癇癪持ち。未来の王太子妃には相応しくない。この数年でその気持ちは大きくなり、それとは逆に庶民であるハンナが気にかかるようになっていた。
素直で明るく…思慮深い。まるでメルティと真逆な彼女に惹かれてしまう自分が居た。一国の王太子としては許されないこの気持ちを押さえつつ、キースリンデはぐっと拳を握り締めた。
メルティと…どうにか婚約破棄できないものか…
そう思い、メルティの歩いていった方向に歩を進めると、急に物陰に彼女が蹲った。具合が悪くなったのかと慌てて近づくと─…
「あああ、何てことを言ってしまったのかしら。これで合ってる?大丈夫ですの?言い過ぎではなくて?」
頭を抱えて先ほどの行いを恥じているメルティの言葉が耳に入ったのだった──
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