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2.この…可愛い生き物は一体何なんだっ!
しおりを挟むな…何…──?
キースリンデは己の耳を疑った。あの悪女であるメルティ・ロッズがこんな言葉を紡ぐはずがない。
しかし彼女はうるうると涙ぐみ、今まで見たことのない可憐な表情で、心底反省していた。
「落ち着いて、私は『悪役令嬢』ですのよ、も、もう一杯命の水を…」
自分に言い聞かせるようにそう呟き、懐から小瓶を取り出しそれを一気に飲み込んだメルティは、そのまま人が変わったかのような表情をして歩き出して行ってしまった。
その後ろ姿をキースリンデは呆然と見送るしか出来なかった。
◆◆◆
「あー…、頭痛い。さすがに連日は堪えますわね……」
酔っ払い親父の成れの果てのような状態でメルティは寝台へ横になっていた。
学園で悪役令嬢を演じるために、毎日強めのお酒を一杯ひっかけていたメルティは身体の限界を感じ、数日学園を休むことに決めたのだ。
もう寝て過ごそう。引きこもり万歳だ。
一日中寝台でゴロゴロして過ごし、頭痛も和らいでぐっすりと昼寝を堪能していた時だった──
何だか視線を感じ、薄っすらと目を開けると…目の前に綺麗な顔の美青年が目に入った。
「っ!!!!!で、殿下!?何故っ!!?」
そう、目に入ったのはキースリンデであったのだ。突然の訪問にメルティは飛び起きた。そしてお酒の入っていない今、『澪』の人見知りとあがり症が大いに発揮される。
真っ赤に染まった頬と少し潤んだ瞳、弱々しくキースリンデを見つめるしかできないメルティを見て、キースリンデは一気に固まった。
お互いに見つめ合ったまま、時間が経過し、何とかキースリンデが己を取り戻した。
「ぐ、具合が悪く学園を休んだと聞き、婚約者である手前…様子を見に来たのだ」
「しょ、しょうでしゅか!!」
噛んだ!!思いっきりっ!!メルティは自分の失態に更に顔を紅くさせ狼狽えた。こんなイケメン王太子と二人きりの空間に居るなんて、喪女であった『澪』には無理だ。『澪』の影響でメルティも緊張で震えあがる。
ついにキースリンデは自分の掌で両目を覆い、何かを考えだしてしまっている。
どうしましょうっ!!
悪役令嬢であるはずのメルティが、悪役令嬢に徹することができない。
ああ、お酒は…強めのお酒は何処ですの!?
焦るメルティのあわあわした様子も、キースリンデは直視出来ないでいた。
この…可愛い生き物は一体何なんだっ!!!!
キースリンデは目の前に居る嫌っていたはずの婚約者がいきなり可愛く思えてしまい、戸惑いを隠せなかった。
「め、メルティ…」
「ひゃいっ!!!」
上気した顔に潤んだ瞳。メルティの全てがキースリンデに熱を与える。雄芯が反応してしまい、キースリンデは勢いよく立ち上がって前屈みになる。
「で…殿下!?どうされたのでしゅか!?」
またもや噛んでしまったメルティに、キースリンデは心臓を一突きされてしまったかのような衝撃が胸を走る。
か…可愛い──
そんな在り得ない思考が頭を埋め尽くしたキースリンデは堪らずそのままメルティの部屋を飛び出してしまった。
部屋に残されたメルティは、やっと正常に呼吸が出来るようになった。
「あああ、緊張しましたわ…まさかキースリンデ殿下が突然いらっしゃるなんて…」
布団に顔を埋め、そのまま寝台へと倒れ込む。その夜、過緊張のため熱を出し寝込んだメルティは、数日学園を休むことになった。そして何故か毎日キースリンデがお見舞いに訪れるようになったのだった──
◆◆◆
「き、今日の具合はどうだ?」
「ひぇ…!!大丈夫でしゅわ!」
突然来訪するキースリンデに合わせて強めのお酒を一杯ひっかけることも出来ず、メルティは不甲斐ない姿をいつも晒してしまっている。
『悪役令嬢』らしからぬ姿にメルティは泣きたくなってしまう。もっと堂々とした姿でキースリンデと向き合いたいのに、どうしても緊張してしまうのだ。
学園に戻ったら絶対に『悪役令嬢』として汚名を返上する所存である!!
しかし最近、キースリンデの眼差しが刺すような冷たさから、氷も溶かしてしまうような熱いものに変わったような気がするのは…思い違いだろうか。
「医師から、学園へ復帰する許可が出たそうだな」
「ひゃい!明日より再び通えそうですわ!!」
「そうか──」
そう言って口角を上げ微笑むキースリンデにメルティは視線を奪われてしまった。──何て優しく微笑むのかしら…
何故だか緊張とはまた異なる胸の高鳴りにメルティは息まで苦しくなる。
「大丈夫か?顔が…赤い──」
心配そうにメルティを覗き込むキースリンデと唇が重なりそうなほど距離が近くなり、引き寄せられるようにそっと……二人の唇が触れ合った。
「っ!!!!!」
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