3 / 5
3.ああ、何て悪女だ
しおりを挟む目が飛び出そうなくらい驚いたメルティにキースリンデは更に熱のこもった表情で顔を近付ける。
「婚約者なのだから、問題無いだろう?」
明らかに『男』の顔をしたキースリンデが、のけ反ろうとしたメルティの後頭部を包むように手をまわし、啄むような口づけではなく、メルティを捕食してしまいそうに、深く口付けた。
「んんっ!!!」
口腔内に自分の舌ではない、何かが入り込み、歯茎を辿り隅々まで貪り尽くすように暴れまわる。飲み込み切れない唾液が口の端から落ちるのにも構えない程、激しい口付けにメルティは只目を白黒させるしか出来なかった。
い、息がっ!!死ぬ、私死にますわ──っ!!!
パニックになりかけた処でやっとキースリンデの唇が離される。肺に空気を取り込み、乱れた呼吸を繰り返していると、その様子を熱のこもった視線で見られていることに気がついた。
「キース…リンデ…殿下──?」
息も絶え絶えに名前を呼ぶと、切なそうに目を細められた。
「キースと、そう呼んでくれ。私もルティと呼ぶ。良いか?」
「ひぇ!!そんな恐れ多いですわ…!!」
それはヒロインが…キースリンデを攻略したときの台詞ではとメルティは驚きを隠せなかった。素直に頷かないメルティに少し不機嫌になったキースリンデはまたもやメルティの後頭部に手を添えて顔を近付ける。
「早く頷かないとこのまま、口付けするが、良いか?」
「わ!わかりましたわ!!ききき……キース様!!」
もうどうにでもなれと、初めて婚約者の愛称を呼ぶ。キースリンデは嬉しそうに微笑み、ちゅっとメルティの額に口付けた。
「では、ルティ、明日学園で待っている」
甘い声色で呟かれ、今度こそメルティは羞恥で顔を上げられなくなったのだった──
◆◆◆
キースリンデはロッズ公爵家から帰途につく馬車の中で、必死に猛る自身の雄芯を治めようとひたすら瞑想していた。
あれ程─……
嫌いだと、苦手だと思っていた婚約者に欲情している自分が居る。ましてや余りの可愛さについ手を出しそうになってしまった。
メルティの潤んだ瞳。
震えながらも初々しく口付けを受け入れる姿──
柔らかな口腔内…誘うような甘い香り
全てがキースリンデを虜にしていた。
メルティを全て自分の物にしたいと、誰にも望んだことのないような独占欲が湧く。一体この気持ちは何なのか─…
キースリンデは気が付いていた。
「ああ、何て悪女だ──」
そう言ったキースリンデの瞳は、今まで見たことないほど優しい色を灯していた──
◆◆◆
「あら、庶民がまだ学園にいらっしゃったの?図太い神経だこと」
学園に復学して初っ端からメルティはハンナへの『悪役令嬢』作戦を決行していた。勿論強めのお酒を一杯ひっかけている。
「ひ、酷いです。メルティ様」
うるうると涙を滲ませるハンナにメルティは更に詰め寄る。
「私が居ない間、キース様と何も無かったでしょうね。キース様は私の婚約者、それを理解なさってますわよねぇ?」
意地悪く微笑むメルティの言葉に、先ほどまでうるうるとしていたハンナが真顔になる。
「『キース様』って今呼びました?」
「っ!!!」
まずい!ヒロインの前でキースリンデ殿下を愛称で呼んでしまいましたわ!!
一瞬でメルティの顔は真っ青になる。真面目な性格故に、昨夜キースリンデを愛称で呼べるように練習したのが仇となった。しかし今は『悪役令嬢』なのだ。任務を全うしなければ。
「なぁに?婚約者の私が、キース様を愛称で呼んで問題でも?」
「有り得ない……」
今まで儚げな美少女にしか見えなかったハンナの表情が一瞬で険しく変化した。そしてメルティを睨みつけたのだ。
「悪役令嬢なんかに負けないわ!」
そう言って去っていくハンナの後ろ姿をメルティは呆然として見つめた。──今、『悪役令嬢』って聞こえたような……
まさか……彼女も異世界転生をしてきた同志なのだろうか!!
メルティはドキドキする胸に手を当てて、自分を落ち着かせた。
「だ、大丈夫ですわ…、私には命の水(強めのお酒)がありますわ!!」
祈るように強めのお酒が入った小瓶を握り締めた。まさか、その姿を物陰から誰かに見られていたことにメルティは気付かなかったのだった──
◆◆◆
キースリンデは人が変わったように悪女らしく振舞う婚約者を複雑な気持ちで見つめていると、後ろからハンナに話しかけられた。
「キースリンデ様、今お話しても良いですか?」
「ああ、構わないよ」
ニコニコと微笑むハンナが以前は可愛く感じたが、メルティと過ごすうちにハンナの笑顔に違和感を覚えるようになり、自然とキースリンデはハンナとの距離を取るようになったのだった。
「私、見ちゃったんです。メルティ様が怪しい薬を持っているところを。あれって、『媚薬』ではないでしょうか?もしかしたらキースリンデ様にご使用されているのではと思い心配になっちゃいまして」
ハンナの言葉にキースリンデは固まった。思い当たる節はあるのだ。嫌いなはずの婚約者に惹かれ、雄芯が疼く。この症状が全て媚薬を盛られていたからだとしたら……全て説明がつく。
「確認してみた方がいいのではないでしょうか?」
「そ……、そうだな。ありがとう、ハンナ嬢」
ショックを受けたようなキースリンデを見て、ハンナは口端を上げた。
「キースリンデ様、お可哀そうに。ハンナはいつでも味方ですからね。何でも相談してくださいね。いつでも待ってますから」
甘い声を上げてすり寄るハンナにキースリンデは貼り付けたような笑顔で応える。それに気付かずハンナは満足そうに微笑むのであった。
12
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
世話焼き幼馴染と離れるのが辛いので自分から離れることにしました
小村辰馬
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢、エリス・カーマインに転生した。
幼馴染であるアーロンの傍にに居続けると、追放エンドを迎えてしまうのに、原作では俺様だった彼の世話焼きな一面を開花させてしまい、居心地の良い彼のそばを離れるのが辛くなってしまう。
ならば彼の代わりに男友達を作ろうと画策するがーー
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
悪役令嬢ですが、兄たちが過保護すぎて恋ができません
由香
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・セレフィーナに転生した私。
破滅回避のため、目立たず静かに生きる――はずだった。
しかし現実は、三人の兄による全力溺愛&完全監視生活。
外出には護衛、交友関係は管理制、笑顔すら規制対象!?
さらに兄の親友である最強騎士・カインが護衛として加わり、
静かで誠実な優しさに、次第に心が揺れていく。
「恋をすると破滅する」
そう信じて避けてきた想いの先で待っていたのは、
断罪も修羅場もない、安心で騒がしい未来だった――。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる