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4.お酒の効力は切れたのかな?
しおりを挟む「キース様に呼び出されてしまいましたわ!」
メルティはドキドキしながら裏庭のガゼボでキースリンデを待っていた。昨日の口付けを思い出し、どうしても頬が赤らんでしまう。
お酒の力を借りた方がいいかしら…──
と小瓶を取り出した瞬間、その手を握り締められた。
「ひぇ!!?」
吃驚して顔を上げると、冷たい表情をしたキースリンデと目が合ったのだった。
「この小瓶に、何が入っているのだ?私に、何を盛ろうとした──?王族に薬を盛るとどのような罪に問われるのか、知らぬわけではないだろう?」
「はえ…──?」
何を言われているのか全く理解出来ないメルティは、ポカンと間抜けな表情でキースリンデを見つめ返した。
「私を……思うように操れて、楽しんでいたのか?」
「あの、キース様、何を言われているのか──」
白を切るメルティにキースリンデは怒りの表情を露にする。メルティから取り上げた小瓶を持ち上げると、音も無く隠密のような黒装束の男が現れてそれを受け取った。
そして一気に小瓶の中身を口に入れたのだった。
わ、私の命の水(強めのお酒)が───!!!!
メルティが心の中で叫んだと同時に、黒装束の男は首を傾げた。
「殿下、」
「何だ、やはり媚薬か?」
「……いえ、強めの酒っすね」
────………。
その場に何とも言えない空気が流れた。
「メルティ、私に媚薬を盛っていたのでは……」
「びび、やく!!?なっ!!そんな破廉恥なもの、知りませんわ!!」
キースリンデの言葉にメルティの頬は真っ赤に染まる。初心な反応にキースリンデは何だか毒気が抜かれてしまった。
「もう下がってよい。悪かったな」
「はっ!!」
黒装束の男が一瞬で消え、その場に二人っきりになってしまった。
「何故……、強めの酒など常備していたのだ?思えば学園でも酒の匂いをさせていたな」
「そ…、その……」
言い淀んだメルティにキースリンデが詰め寄っていく。後ずさりするが、ガゼボの柱に背がぶつかり、そのまま椅子へ座り込んでしまった。
逃げられませんわっ!!!!
覚悟を決めたメルティは、その重たい口を開いた。
「あの…、私、本当はあがり症で内気で…とても『悪役令嬢』を演じられる自信がなくて、その、強めのお酒を一杯ひっかけて、気分を上げてましたの」
「………は?」
本当に何を言っているのか分からないという表情のキースリンデに、メルティは前世の記憶が蘇ったこと、この世界が恋愛ゲームの世界であり、自分は『悪役令嬢』であることを打ち明けた。
「成程、全く理解し難い内容であるが、前世の『澪』の性格と、『メルティ』の性格が混ざり合い、今の性格になったということか」
「はい。もう以前の『メルティ』には強めのお酒が無いと戻れませんわ」
キースリンデは考え込むようにメルティをじっと見つめ、そして深いため息を吐いた。そして、何もかも─…吹っ切れたようにスッキリとした表情でふっと笑った。
「本当に…とんでもない悪女だ」
「ひぇ!?」
言葉とは裏腹にその瞳は優しく細められる。昨日のような甘い雰囲気を感じ取ったメルティは身の危険を察知し、身をすくめた。
「君のことは、以前は全く好ましく思っていなかった。婚約破棄出来ないものかと考えもしたのに──」
「そ、それは当たり前ですわ。ストーリーの展開上キース様は私を断罪して婚約破棄した後にハンナ様と結ばれる運命ですもの」
当然ですわ!とばかりに言い切ったメルティに、一瞬にしてキースリンデの表情は曇り、負のオーラが滲み出る。その豹変にメルティはまたもや息を呑み、背中に嫌な汗が流れ落ちる。
「君は私と婚約破棄を望んでいるのか?他の令嬢と結ばれても構わないと?」
「ひぇ!!!で、でも、それが……この恋愛ゲームの……!!」
メルティの言葉は続けられなかった。何故なら、キースリンデの唇がメルティに重ねられ、貪り尽くされるような口付けをされているからだ。
「っ!!!?」
クチュリと音を立て口腔内にキースリンデの舌が暴れまわる。甘い、胸が締め付けられるような刺激にメルティは混乱し瞳に涙が滲んだ。
「君は……、誰の婚約者なのだ?」
「……、キース、様……でしゅ…」
呂律が回らず、またもや噛んでしまったメルティは沸騰しそうなくらい顔を紅くする。それでも逃がさないとばかりにキースリンデは顔を近付けた。
「そうだ。君は私のもの。それを分からせてあげるよ」
「はえっ!!??」
いきなりキースリンデに横抱きにされ、ガゼボから連れ去られ王太子専属の馬車に放り込まれる。ずっと横抱きにされ、キースリンデの膝の上でメルティは緊張のあまりプルプルと震えてしまう。その姿さえ愉しそうに見つめるキースリンデに最早何も言えなくなってしまった。
気付いた時には、豪華な寝台に押し倒されていた──
「お酒の効力は切れたのかな?」
「ひぇ!!?キース様、これはどういう……」
とっくにお酒の効果は切れ、今のメルティは『悪役令嬢』の仮面を被ることは到底無理であった。何よりもキースリンデに押し倒されているというこの状況がもう容量オーバーである。
目をまわしそうなメルティを追い詰めるようにキースリンデはメルティのドレスに手をかける。
「君がもう逃げられないように、『既成事実』というものを作ろうかと思ってね」
「はえっ!!!???な、なんで──」
信じられない言葉を聞いた気がしてメルティは目を丸くする。
──今……キース様、『既成事実』って言っていたような、それって…まさか──
スルスルと解かれるドレスのリボンに胸元が露になり、メルティは現実に引き戻される。
「婚約破棄なんてしないよ。君は私のものだ」
「ええ!?あの、キース様……!!???」
捕食者の目をしたキースリンデにメルティはもう逃げられないことを悟る。
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