エスとオー

ケイ・ナック

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魚雷娘

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朝晩がすっかり寒くなった頃、王崎から呼び出しがあった。

タクトに乗って行ってみると、
「次の日曜、女の子を紹介するから」
ということだった。

オレは不安と期待の入りじった思いで、王崎に言った。
「それで、どんななんや?」

「いや、オレもまだ良く知らんのや。日曜にユキが連れてくることになってるんやけど」

「ふーん、そうか。でもドキドキすんなぁ」
オレはわくわくして、そう言った。

「まぁ、そうあせんなや」

その後、オレは新しいジーンズとスニーカーを買いに行った。

ジーンズもスニーカーも、仕事でぼろぼろになっていたからだ。

なんとなく、自分の生活に大きな変化がおとずれそうな予感がしていた。

そう、大きな変化・・・。

オレの想像とは、かなり違っていたけど、新しく出会った女の子は、明らかに大きな変化をもたらした。




日曜日、ユキが連れてきた娘と会った。

しかし、どこで会って、どんな話をしたのかは、今はあまり覚えていない。

ただ、ミユキという、その女の子の印象だけは強烈に記憶している。

自己主張が強く、初対面でもはっきりものを言うタイプの女の子だった。

「わたしは、だらだらして、ぐうたらな人は嫌いなんよ。 あんたはどうなん?」

歳は、ひとつ下だけど、相手はそんなことまったく気にしていないようだった。

「それに、ケチな男はあかんわ」


話が合った、という印象はない。

女性に奥手なオレが、はっきりものを言う女の子に合わせていた、という感じだった。

しかし、なぜか次のデートの約束だけはませていた。

いや、違う。

オレの方から、次の約束を切り出したわけではない。

確か、このようなことを言われて帰ってきた。

「アキラ君、映画好き? ほんなら次は映画やね」

このようにして、ミユキとのつきあいが始まった。





仕事という歯車と、友人という歯車。

その二つの歯車に、彼女という歯車がくわわった。

もちろん、仕事へのやる気は倍増した。

「おまえ、最近なにかええことでもあったんか? えらい浮かれとるけど」
森さんが怪訝けげんな顔をして言った。

鈴木さんは何も言わなかったけど、オレに意味深いみしんな笑顔を送ってきた。

やはり女のかんするどいようだ。


自分では気づいていなかったけど、オレはかなり浮かれていたようである。

これまで、目の前のことしか考えずに生きてきたけど、ほんの少しだけ先のことが気になるようになった。

ただし、先のことといっても、希望がすべてではない。

この先どうなるのだろう、という不安な気持ちもあった。

何か、得体えたいの知れないものと共存しているような気がした。

でも、やっと彼女ができたことで、ほかの友人と対等になった気がした。

オレはひさしぶりに江洲田に会って、自慢してやろうと思った。




「話は聞いてるよ」と、会うなり江洲田が言った。

江州田は、インスタントコーヒーを入れたマグカップをオレに渡しながら、
「活発な娘らしいな」
と言った。

江洲田のにやにや笑いが気になったが、オレは気にせずこう言ってやった。

「おまえも早く彼女見つけろや。まぁ、ひまつぶしにはなるからよ」
オレはマグカップを受け取り、熱いコーヒーをすすった。

江州田はオレの嫌味いやみには反応せず、
「いや、今はそんな暇はないわ。もうすぐ寮に行くからな」と言った。

江洲田の船出は、一刻一刻と近づいていた。

ほんとにこいつはオレらの前からいなくなるのだろうか。

オレには彼女がいるから、別に寂しくなんてないけど、何かぽっかり穴がきそうな気がした。


それに、こいつのバイクは誰が面倒みるんや?

どうせ、半年かそこらで根を上げて帰ってくるんやないか?

そうや。またすぐにバイクに会いたくて帰ってくるやろ。

「でもなぁ江洲田、バイクが恋しくなって、おまえすぐに帰ってくるんやないのか?」

「あぁ、あのバイクか? あれはもう人にゆずったわ」
江洲田は、そっけなくそう言った。

オレは言葉が出なかった。

あれだけ時間と金をかけていたバイクを、そんなにあっさり手放せるのか。

こいつにとって、船に乗るということは、そんなにも大きな希望なのか。

彼女ができたことで浮かれている自分が、とても子供に思えてくるのだった。

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