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恋のほころび
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「だから、アキラもその映画を観たいんやろ? なら、それでええやない!」
この娘には、ほんとペースを乱されてしまう。
繁華街で待ち合わせをして、ハンバーガーを食べて、何の映画を観るか話し合った。
オレは、「キャノンボール」というカーアクション映画が見たいと進言してみたけど、
「くだらない」と、すぐに却下された。
結局、ミユキに意見を押しきられ、「セーラー服と機関銃」という漫画チックな映画を観るはめになった。
映画を観賞中、オレの仏頂面などお構い無しに、ミユキはひとりで笑っていた。
そう、この娘は、オレが楽しいかどうかなんて、まったく考えていないのだ。
オレの意見なんて、まったく尊重しない。
それにオレのテンションが低くても、まったく気にしない。
なんて強引な女なんだ、と思った。
しかしオレは、自分がそれほど腹を立てていないことに気づいた。
この女のペースにはめられているのに、なぜオレはそれほど腹が立たないのだろうか。
この女のペースにはめられていて、男としての威厳など皆無である。
これでいいのだろうか。
しかし、腹が立たないのなら、それでいいのかもしれない。
これも恋愛なのかもしれない。
帰り道、ミユキがオレの腕にそっと手をまわした。
そうだ。
これも恋愛なのだ。
オレの仕事は、短距離輸送から中距離輸送になっていった。
朝から高速道路を走り、帰りが夜遅くになることもあった。
しかし、混んだ下の道を走るより、高速道路を走る方が楽だった。
それに、ラジオやカーステレオから流れる音楽を聴いて走るのも楽しかった。
走ってる時は、自分ひとりだけ。
隣にあいつがいたら、もっと楽しいドライブになるだろう。
でも、ひとりでいる時間が長ければ長いほど、休日に会える喜びが膨らんでいくのだった。
ミユキは自分勝手でわがままだけど、ひとりでいる時は、いつもあいつのことを想っていた。
今度会ったら、また意見のぶつけ合いをするだろう。
そして、どうせまたオレが折れるのだ。
くそったれ。ハハハ。
意見がぶつかって、仕方なく折れる。
それもいいな、とオレは思っていた。
こんな恋愛もあるのだ。
しかし今が、この恋愛のピークだとは、その時は気づいていなかった。
ひとりで恋愛の妄想に浸っていて、オレはあの娘の本当の部分をまだ知らなかったのだ。
「中村、おまえあの娘とはどうや? うまくいってるんか?」
ここは王崎の部屋。
「えらい活発な娘やったから、もうおまえが根を上げたんかと思ったんやけど」
エア・サプライの「LOST IN LOVE 」が大きなスピーカーから流れていた。
またステレオを買い換えたのか。
こっちはラジカセで我慢してるというのに。
「あぁ、ミユキか? あれは確かにいろいろ文句言ってくるけど、オレはあまり気にしてない。今のところ、うまくいってるみたいやわ。けっこう頻繁に会ってるし」
オレはすっかり彼氏気取りで、そう答えた。
「この前、給料入ったんで、スカートを買ってやったわ」
「そうか、そりゃ楽しそうやな」
いつもよりテンションの低い王崎の態度が気になったが、オレは浮かれていたので、あまり深く考えなかった。
それから、しばらく話をしていたけど、ユキが来たので、オレはタクトで帰ることにした。
その時、オレは知らなかったけど、オレが帰ったあと、王崎とユキは、こんな会話を交わしていた。
「ちゃんと中村くんに伝えた?」
「いや、あいつの嬉しそうな顔を見てたら、とても言えんかったわ」
「じゃあ、どうすんのよ? このまま放っておくわけ?」
「もうちょっと様子を見るしかないやろ」
「もう、あたし知らんよ!」
この娘には、ほんとペースを乱されてしまう。
繁華街で待ち合わせをして、ハンバーガーを食べて、何の映画を観るか話し合った。
オレは、「キャノンボール」というカーアクション映画が見たいと進言してみたけど、
「くだらない」と、すぐに却下された。
結局、ミユキに意見を押しきられ、「セーラー服と機関銃」という漫画チックな映画を観るはめになった。
映画を観賞中、オレの仏頂面などお構い無しに、ミユキはひとりで笑っていた。
そう、この娘は、オレが楽しいかどうかなんて、まったく考えていないのだ。
オレの意見なんて、まったく尊重しない。
それにオレのテンションが低くても、まったく気にしない。
なんて強引な女なんだ、と思った。
しかしオレは、自分がそれほど腹を立てていないことに気づいた。
この女のペースにはめられているのに、なぜオレはそれほど腹が立たないのだろうか。
この女のペースにはめられていて、男としての威厳など皆無である。
これでいいのだろうか。
しかし、腹が立たないのなら、それでいいのかもしれない。
これも恋愛なのかもしれない。
帰り道、ミユキがオレの腕にそっと手をまわした。
そうだ。
これも恋愛なのだ。
オレの仕事は、短距離輸送から中距離輸送になっていった。
朝から高速道路を走り、帰りが夜遅くになることもあった。
しかし、混んだ下の道を走るより、高速道路を走る方が楽だった。
それに、ラジオやカーステレオから流れる音楽を聴いて走るのも楽しかった。
走ってる時は、自分ひとりだけ。
隣にあいつがいたら、もっと楽しいドライブになるだろう。
でも、ひとりでいる時間が長ければ長いほど、休日に会える喜びが膨らんでいくのだった。
ミユキは自分勝手でわがままだけど、ひとりでいる時は、いつもあいつのことを想っていた。
今度会ったら、また意見のぶつけ合いをするだろう。
そして、どうせまたオレが折れるのだ。
くそったれ。ハハハ。
意見がぶつかって、仕方なく折れる。
それもいいな、とオレは思っていた。
こんな恋愛もあるのだ。
しかし今が、この恋愛のピークだとは、その時は気づいていなかった。
ひとりで恋愛の妄想に浸っていて、オレはあの娘の本当の部分をまだ知らなかったのだ。
「中村、おまえあの娘とはどうや? うまくいってるんか?」
ここは王崎の部屋。
「えらい活発な娘やったから、もうおまえが根を上げたんかと思ったんやけど」
エア・サプライの「LOST IN LOVE 」が大きなスピーカーから流れていた。
またステレオを買い換えたのか。
こっちはラジカセで我慢してるというのに。
「あぁ、ミユキか? あれは確かにいろいろ文句言ってくるけど、オレはあまり気にしてない。今のところ、うまくいってるみたいやわ。けっこう頻繁に会ってるし」
オレはすっかり彼氏気取りで、そう答えた。
「この前、給料入ったんで、スカートを買ってやったわ」
「そうか、そりゃ楽しそうやな」
いつもよりテンションの低い王崎の態度が気になったが、オレは浮かれていたので、あまり深く考えなかった。
それから、しばらく話をしていたけど、ユキが来たので、オレはタクトで帰ることにした。
その時、オレは知らなかったけど、オレが帰ったあと、王崎とユキは、こんな会話を交わしていた。
「ちゃんと中村くんに伝えた?」
「いや、あいつの嬉しそうな顔を見てたら、とても言えんかったわ」
「じゃあ、どうすんのよ? このまま放っておくわけ?」
「もうちょっと様子を見るしかないやろ」
「もう、あたし知らんよ!」
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