エスとオー

KAZUNAKA2020

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恋のほころび

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「だから、アキラもその映画を観たいんやろ? なら、それでええやない!」

この娘には、ほんとペースを乱されてしまう。

繁華街で待ち合わせをして、ハンバーガーを食べて、何の映画を観るか話し合った。

オレは、「キャノンボール」というカーアクション映画が見たいと進言してみたけど、
「くだらない」と、すぐに却下きゃっかされた。

結局、ミユキに意見を押しきられ、「セーラー服と機関銃」という漫画チックな映画を観るはめになった。

映画を観賞中、オレの仏頂面ぶっちょうづらなどおかましに、ミユキはひとりで笑っていた。

そう、この娘は、オレが楽しいかどうかなんて、まったく考えていないのだ。

オレの意見なんて、まったく尊重しない。

それにオレのテンションが低くても、まったく気にしない。

なんて強引な女なんだ、と思った。


しかしオレは、自分がそれほど腹を立てていないことに気づいた。

この女のペースにはめられているのに、なぜオレはそれほど腹が立たないのだろうか。

この女のペースにはめられていて、男としての威厳いげんなど皆無かいむである。

これでいいのだろうか。

しかし、腹が立たないのなら、それでいいのかもしれない。

これも恋愛なのかもしれない。


帰り道、ミユキがオレの腕にそっと手をまわした。

そうだ。

これも恋愛なのだ。





オレの仕事は、短距離輸送から中距離輸送になっていった。

朝から高速道路を走り、帰りが夜おそくになることもあった。

しかし、んだ下の道を走るより、高速道路を走る方が楽だった。

それに、ラジオやカーステレオから流れる音楽を聴いて走るのも楽しかった。

走ってる時は、自分ひとりだけ。

隣にあいつがいたら、もっと楽しいドライブになるだろう。

でも、ひとりでいる時間が長ければ長いほど、休日に会える喜びがふくらんでいくのだった。

ミユキは自分勝手でわがままだけど、ひとりでいる時は、いつもあいつのことをおもっていた。

今度会ったら、また意見のぶつけ合いをするだろう。

そして、どうせまたオレが折れるのだ。

くそったれ。ハハハ。

意見がぶつかって、仕方なく折れる。

それもいいな、とオレは思っていた。

こんな恋愛もあるのだ。



しかし今が、この恋愛のピークだとは、その時は気づいていなかった。

ひとりで恋愛の妄想もうそうひたっていて、オレはあの娘の本当の部分をまだ知らなかったのだ。




「中村、おまえあの娘とはどうや? うまくいってるんか?」

ここは王崎の部屋。

「えらい活発な娘やったから、もうおまえが根を上げたんかと思ったんやけど」

エア・サプライの「LOST IN LOVE ロストインラブ」が大きなスピーカーから流れていた。

またステレオを買い換えたのか。
こっちはラジカセで我慢してるというのに。

「あぁ、ミユキか? あれは確かにいろいろ文句もんく言ってくるけど、オレはあまり気にしてない。今のところ、うまくいってるみたいやわ。けっこう頻繁ひんぱんに会ってるし」
オレはすっかり彼氏気取きどりで、そう答えた。

「この前、給料入ったんで、スカートを買ってやったわ」

「そうか、そりゃ楽しそうやな」

いつもよりテンションの低い王崎の態度が気になったが、オレは浮かれていたので、あまり深く考えなかった。

それから、しばらく話をしていたけど、ユキが来たので、オレはタクトで帰ることにした。


その時、オレは知らなかったけど、オレが帰ったあと、王崎とユキは、こんな会話を交わしていた。

「ちゃんと中村くんに伝えた?」

「いや、あいつの嬉しそうな顔を見てたら、とても言えんかったわ」

「じゃあ、どうすんのよ? このままほうっておくわけ?」

「もうちょっと様子を見るしかないやろ」

「もう、あたし知らんよ!」


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