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宇陀の夏
しおりを挟むその日から、わたしとミツオはたくさん走りました。
夏、宇陀の丘を登ります。
がたがたの山道。
道いっぱいに生い茂った草に邪魔されながら、ミツオは懸命にペダルをこぎます。
はあはあと、ミツオの息づかいが聞こえてきます。
それまでは、あまり長い時間、自転車をこいだことがなかったミツオですが、わたしとの相性が良かったのか、ミツオの体力でも、がたがたの山道を登ることができました。
そしてミツオは、はあはあと、荒い息づかいをしていても、
「もうちょっとだネオ、がんばれ」と、わたしを励ましてくれました。
わたしは機械なので、疲れることはありません。
それに、苦しみや痛みもありません。
でも、ミツオはわたしを励ましてくれました。
小高い丘の上から空を見上げると、夏の太陽がこちらを見ていました。
太陽は、わたしたちに、
「もう降参だろう?」と、嘲笑っているようでした。
ミツオは暑さと疲労でくたくたでした。
でも、わたしもミツオも喜びいっぱいだったのです。
初めて自分ひとりだけで、いいえ、わたしたちふたりで、この丘を登りきったからです。
喜びは、もうひとつありました。
それは、帰り道は風を感じながらのんびりと走れるからでした。
山道を下る時、頭上にトンビが舞っていました。
ミツオとわたしは、がたがたの道をのんびりと、風を感じながら下りて行きます。
すーっと汗が冷やされ、暑さでくらくらしていたミツオの頭がすっきりしてきます。
頭がすっきりしてくると、登っていた時には気づかなかった音が聞こえてきます。
蝉の声、草木の擦れ合う音、遠くから聞こえてくる様々な音。
そして、トンビの声もはっきり聞こえました。
トンビは、
「良くがんばったな」と祝福の笛を吹いてくれました。
家に帰ると、ミツオの祖母が昼飯を用意してくれていました。
ミツオはとてもお腹が減っていたので、祖母が作ってくれた素麺を夢中で食べました。
あまりにも勢い良く素麺を食べている孫を見て、祖父母は顔を見合わせて笑いました。
その光景をそばで見ていたわたしも、少し微笑ましい気持ちになりました。
頭上では、またしてもトンビが舞っていました。
もしかしたら、トンビはわたしたちとお友達になりたかったのかもしれません。
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