廃棄自転車 ネオ

ケイ・ナック

文字の大きさ
5 / 6

最後の疾走

しおりを挟む





ミツオと出会って、一年がち、また暑い季節がやってきました。

出会った頃のミツオは、わたしに振り落とされないように、怖々こわごわしがみついていました。

しかし、一年も経つと、しっかり体力がつき、がたがたの山道でも、振り落とされそうになることはありませんでした。

ミツオが自分の力でわたしを走らせて、一年前よりも遠い場所まで行くことができました。

紫陽花あじさいの時期は終わり、肌をがすような陽射ひざしがやってきました。




その日は、家から少し離れた古墳こふんを見に行くつもりで走り出しました。

きびしい陽射しがミツオの肌をじりじりと焼いていきます。

そして時折ときおり、熱い風が吹き抜けていきました。

風が強く、低くたれ込んだ雲が勢い良く流れていきます。

ミツオとわたしは、薄暗いトンネルを通りました。

トンネルの中は、強い陽射しの影響をまったく受けません。

ずっといたら、体が冷えてしまうほど、トンネルの中はひんやりしていました。





わたしたちがトンネルの抜けた時、白かった雲が、かなり黒くなっていました。

そして、風の勢いも強くなっていました。

道端みちばたの草木が大きくれ出します。

風が道路を巻き上げ、砂埃すなぼこりちゅうを舞います。

ミツオは空を見上げ、その日初めて、不安を覚えました。





砂埃が舞う中、大粒おおつぶの雨が降り出し、ミツオとわたしはずぶ濡れになってしまいました。

空はすっかり暗くなり、時折、轟音ごうおんとともに閃光せんこうが走ります。

それでもミツオはペダルを一生懸命にこぎ、恐怖心を振り払いました。

あと少し行けば、誰かの民家に辿たどり着ける。

「あと少しだ、ネオ、がんばれ」

そう言ってミツオはペダルをこぎました。


そして、ゆるやかな坂道を下っていた時、わたしたちの視界は真っ白になりました。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

日露戦争の真実

蔵屋
歴史・時代
 私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。 日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。  日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。  帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。  日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。 ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。  ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。  深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。  この物語の始まりです。 『神知りて 人の幸せ 祈るのみ 神の伝えし 愛善の道』 この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。 作家 蔵屋日唱

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...