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第9話 領主邸
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「止まれ。ここは領主邸なるぞ。知らぬ者を通すわけにはいかん」
門には当然ながら門兵が警備をしている。特に貴族が乗るような馬車で乗り付けたのならばともかく普通に三人で歩いて来たのだ、事情を知らなければ当然の対応だと言える。俺が感心しているとゼオンが彼らの前に出て身分を告げた。
「この度、国王様よりこのノーズ地方の領主に任命されたゼオンだ。身分の保証はこれでいいか?」
ゼオンはそう言いながら国より受け取った侯爵家当主の証である短剣を彼らに見せる。
「こ、これは侯爵位の紋。大変失礼致しました、直ちに代官様へ取り次ぎをさせていただきます」
門兵の一人が慌てて屋敷内へと走り込んで行くのが見える。侯爵家当主が突然現れたのだ、驚くのも無理はない。
「――お待たせしました。中へお入りください」
数分後、先ほど屋敷に走って行った門兵が息を切らして駆け付けると大きく息を吐いてからゼオンに対して屋敷に案内するとして敬礼をする。
「ああ、案内を頼む。そして今まで領地を治めていた代官と話がしたいので面会を頼むよ」
「はっ! 代官様もそのつもりであります」
極度の緊張を見せる門兵の男を先頭に俺たちは代官と面会をすることになったのだった。
「――こちらになります。代官様はすぐに参りますので少しだけお待ちください」
俺たちが案内されて入った部屋は豪華な客間だった。恐らくだが、他の貴族などをもてなすために作られた部屋なのだろう。装飾品などが無駄に豪華で俺は思わずため息をついていた。
「貴族の屋敷は何処も同じなのだろうが、無駄に豪華だな。そういえばさっき訪れた教会も装飾品が目立っていたな」
「はあ。色々と正していかなければならない事があるようだな」
貴族と一緒に教育を受けていたゼオンも根は平民の出であることから、貴族のメンツなどに関して知識程度しか持っていない。その感覚が今後のゼオンにとってプラスとなるかマイナスとなるかは部下が彼の方針に理解を示すかにかかっているだろう。
「大変お待たせ致しました。代官を務めさせて頂いておりますクローマと申します」
そう言いながら部屋に入ってきたのは、高級そうな素材で作られたローブを纏った、壮年を少し超えたように見える男性だった。
「ゼオンだ。貴殿も知っているとは思うが、先日の魔族王との戦いに勝利し国王様より侯爵の爵位を賜った。その褒賞としてこのノーズ地方の管理も任された。そのことは書状に記してあったと思うが確認されたか?」
「は、はい。確認致しました」
「うん。ならば、この後の方針を決めたいと思う」
ゼオンはクローマがうなずくのを見て口角を上げるとこちらの要求を口にする。
「まずは早急にこの領主邸を明け渡して頂く。聞くところによると貴殿は代官の身分でありながら領主が不在であることを理由に本来住まうべき代官邸ではなく領主邸を使用していたそうだな。これはなぜか問いたいが答えてくれるか?」
「は、はい。確かに代官邸も敷地内に存在しておりますが、公務は全てこの領主邸にて行っておりましたので効率を考えてそうさせていただいておりました」
「グラン、どう思う?」
今のゼオンは侯爵家当主としての立場で俺に問いかけているのだ。その意図を理解した俺はわざとゼオンのそばに跪き、礼の動作をしてからその答えを話し出す。
「僭越ながら意見を申し上げる」
俺はそう言ってから立ち上がるとクローマの前に出て彼の話の矛盾を指摘する。
「一見では間違っていない判断に聞こえるが、やはりそれはおかしいと言える。確かに領主邸にも執務室は存在するが高位の爵位を持つ者が領主となった場合、代官が置かれることは普通のことだ。領主邸の敷地内に代官邸があることがその証明となる。そして、代官が執務をする際には代官邸にて行い、最終的な報告のみ領主邸にて行うのが当然の流れとなる。つまり、代官邸には内政の執務を行う機能は十分に備わっており、領主邸にて執務をする必要性はないのです」
「――だ、そうだが何か申し開きはあるかい?」
俺の指摘にだらだらと冷や汗をかきながら言葉を探すクローマだったが、下手な言い訳を重ねて墓穴を掘るよりはと潔く謝罪の言葉を述べる。
「申し訳ありませんでした。領主様が不在だということでせっかくあるものを使わないのは勿体ないと思い勝手に使わせて頂いておりました。今日中に荷物をまとめて代官邸へと移動しますのでご容赦ください」
領主不在に少し調子に乗って勝手をしていたようだが、すぐに過ちを認めて謝罪するところは小物感満載で見ていて哀れになる。しかし、こういった輩は上役の目がない場所では大抵悪さをしているものだ。少し調べれば埃は出てくるだろう。
「では、そのように。明日より三日間で領内の状況把握をするので該当する資料を揃えておくように。その資料の精査はここにいる三名で行うものとする」
「は、はい。仰せのままに」
クローマは深々と頭を下げるとそそくさと部屋を出て行き、すぐに代官邸への引っ越しを始めた。彼が出て行った部屋でそばにあったソファに座りながら大きな息を吐いたゼオンに俺は「お疲れ」と労いの言葉をかける。
「明日からの内政調査にグラン様はともかく、私も同席しても宜しいのですか?」
先ほどまで黙って話を聞いていたローザがここで口を開く。彼女は聖女として教会の管理を担う役目があるので気になったのだろう。
「ローザも三日間は教会の受け入れ準備が終わらないんだ。それに、ローザの家は子爵家だろ? 子供の頃から夫が領地経営を担う立場であった場合にその補佐が出来るようにと教育を受けてきている筈だ。その視点からも意見を貰えたら助かる」
「その視点だと俺は不要だと思うが? なにせ、長く生きているだけで学院にも通っていないからな」
「なに惚けているんだよ。学院に行ってなくてもその辺の貴族よりずっと知識を持っているのは知っている。グランも表向き引退して暇だろ? ここは俺を助けると思って協力してくれ」
自分でも言っていたが、ゼオンは勇者としての力とカリスマはあるが領地運営に関しては学院で貴族教育を受けただけの新米だ。あの代官がどんな内政をしていたかにもよるが、資料を見ただけでは理解出来ずに丸め込まれる可能性のほうが大きいだろう。
「わかりました。私で出来ることならば喜んで協力しましょう。但し、内政が落ち着いたら教会の洗浄も行いたいと考えておりますのでその時は領主としてお力添えをお願いしますね」
ローザはゼオンの提案を了承すると自らの要望を微笑みながら返した。
「わかった。そっちは任せろ」
「面倒だが、侯爵閣下に恩を売るのも悪くない。こっちの問題が解決したら俺が住む家の斡旋を頼むぞ」
「そっちも了解だ。宜しく頼む。とりあえず、今日のところは客間に泊まってくれ。明日からが本番だからな」
明日からの方針が決まった俺とローザはゼオンの勧めで領主邸の客間に泊まり、旅の疲れを癒したのだった。
門には当然ながら門兵が警備をしている。特に貴族が乗るような馬車で乗り付けたのならばともかく普通に三人で歩いて来たのだ、事情を知らなければ当然の対応だと言える。俺が感心しているとゼオンが彼らの前に出て身分を告げた。
「この度、国王様よりこのノーズ地方の領主に任命されたゼオンだ。身分の保証はこれでいいか?」
ゼオンはそう言いながら国より受け取った侯爵家当主の証である短剣を彼らに見せる。
「こ、これは侯爵位の紋。大変失礼致しました、直ちに代官様へ取り次ぎをさせていただきます」
門兵の一人が慌てて屋敷内へと走り込んで行くのが見える。侯爵家当主が突然現れたのだ、驚くのも無理はない。
「――お待たせしました。中へお入りください」
数分後、先ほど屋敷に走って行った門兵が息を切らして駆け付けると大きく息を吐いてからゼオンに対して屋敷に案内するとして敬礼をする。
「ああ、案内を頼む。そして今まで領地を治めていた代官と話がしたいので面会を頼むよ」
「はっ! 代官様もそのつもりであります」
極度の緊張を見せる門兵の男を先頭に俺たちは代官と面会をすることになったのだった。
「――こちらになります。代官様はすぐに参りますので少しだけお待ちください」
俺たちが案内されて入った部屋は豪華な客間だった。恐らくだが、他の貴族などをもてなすために作られた部屋なのだろう。装飾品などが無駄に豪華で俺は思わずため息をついていた。
「貴族の屋敷は何処も同じなのだろうが、無駄に豪華だな。そういえばさっき訪れた教会も装飾品が目立っていたな」
「はあ。色々と正していかなければならない事があるようだな」
貴族と一緒に教育を受けていたゼオンも根は平民の出であることから、貴族のメンツなどに関して知識程度しか持っていない。その感覚が今後のゼオンにとってプラスとなるかマイナスとなるかは部下が彼の方針に理解を示すかにかかっているだろう。
「大変お待たせ致しました。代官を務めさせて頂いておりますクローマと申します」
そう言いながら部屋に入ってきたのは、高級そうな素材で作られたローブを纏った、壮年を少し超えたように見える男性だった。
「ゼオンだ。貴殿も知っているとは思うが、先日の魔族王との戦いに勝利し国王様より侯爵の爵位を賜った。その褒賞としてこのノーズ地方の管理も任された。そのことは書状に記してあったと思うが確認されたか?」
「は、はい。確認致しました」
「うん。ならば、この後の方針を決めたいと思う」
ゼオンはクローマがうなずくのを見て口角を上げるとこちらの要求を口にする。
「まずは早急にこの領主邸を明け渡して頂く。聞くところによると貴殿は代官の身分でありながら領主が不在であることを理由に本来住まうべき代官邸ではなく領主邸を使用していたそうだな。これはなぜか問いたいが答えてくれるか?」
「は、はい。確かに代官邸も敷地内に存在しておりますが、公務は全てこの領主邸にて行っておりましたので効率を考えてそうさせていただいておりました」
「グラン、どう思う?」
今のゼオンは侯爵家当主としての立場で俺に問いかけているのだ。その意図を理解した俺はわざとゼオンのそばに跪き、礼の動作をしてからその答えを話し出す。
「僭越ながら意見を申し上げる」
俺はそう言ってから立ち上がるとクローマの前に出て彼の話の矛盾を指摘する。
「一見では間違っていない判断に聞こえるが、やはりそれはおかしいと言える。確かに領主邸にも執務室は存在するが高位の爵位を持つ者が領主となった場合、代官が置かれることは普通のことだ。領主邸の敷地内に代官邸があることがその証明となる。そして、代官が執務をする際には代官邸にて行い、最終的な報告のみ領主邸にて行うのが当然の流れとなる。つまり、代官邸には内政の執務を行う機能は十分に備わっており、領主邸にて執務をする必要性はないのです」
「――だ、そうだが何か申し開きはあるかい?」
俺の指摘にだらだらと冷や汗をかきながら言葉を探すクローマだったが、下手な言い訳を重ねて墓穴を掘るよりはと潔く謝罪の言葉を述べる。
「申し訳ありませんでした。領主様が不在だということでせっかくあるものを使わないのは勿体ないと思い勝手に使わせて頂いておりました。今日中に荷物をまとめて代官邸へと移動しますのでご容赦ください」
領主不在に少し調子に乗って勝手をしていたようだが、すぐに過ちを認めて謝罪するところは小物感満載で見ていて哀れになる。しかし、こういった輩は上役の目がない場所では大抵悪さをしているものだ。少し調べれば埃は出てくるだろう。
「では、そのように。明日より三日間で領内の状況把握をするので該当する資料を揃えておくように。その資料の精査はここにいる三名で行うものとする」
「は、はい。仰せのままに」
クローマは深々と頭を下げるとそそくさと部屋を出て行き、すぐに代官邸への引っ越しを始めた。彼が出て行った部屋でそばにあったソファに座りながら大きな息を吐いたゼオンに俺は「お疲れ」と労いの言葉をかける。
「明日からの内政調査にグラン様はともかく、私も同席しても宜しいのですか?」
先ほどまで黙って話を聞いていたローザがここで口を開く。彼女は聖女として教会の管理を担う役目があるので気になったのだろう。
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「その視点だと俺は不要だと思うが? なにせ、長く生きているだけで学院にも通っていないからな」
「なに惚けているんだよ。学院に行ってなくてもその辺の貴族よりずっと知識を持っているのは知っている。グランも表向き引退して暇だろ? ここは俺を助けると思って協力してくれ」
自分でも言っていたが、ゼオンは勇者としての力とカリスマはあるが領地運営に関しては学院で貴族教育を受けただけの新米だ。あの代官がどんな内政をしていたかにもよるが、資料を見ただけでは理解出来ずに丸め込まれる可能性のほうが大きいだろう。
「わかりました。私で出来ることならば喜んで協力しましょう。但し、内政が落ち着いたら教会の洗浄も行いたいと考えておりますのでその時は領主としてお力添えをお願いしますね」
ローザはゼオンの提案を了承すると自らの要望を微笑みながら返した。
「わかった。そっちは任せろ」
「面倒だが、侯爵閣下に恩を売るのも悪くない。こっちの問題が解決したら俺が住む家の斡旋を頼むぞ」
「そっちも了解だ。宜しく頼む。とりあえず、今日のところは客間に泊まってくれ。明日からが本番だからな」
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