勇者の保護者を辞めた賢者のセカンドライフは没落貴族の再建教師 〜引退賢者は100歳年下の貴族令嬢と共に内政復興を楽しむ〜

夢幻の翼

文字の大きさ
9 / 50

第9話 領主邸

しおりを挟む
「止まれ。ここは領主邸なるぞ。知らぬ者を通すわけにはいかん」

 門には当然ながら門兵が警備をしている。特に貴族が乗るような馬車で乗り付けたのならばともかく普通に三人で歩いて来たのだ、事情を知らなければ当然の対応だと言える。俺が感心しているとゼオンが彼らの前に出て身分を告げた。

「この度、国王様よりこのノーズ地方の領主に任命されたゼオンだ。身分の保証はこれでいいか?」

 ゼオンはそう言いながら国より受け取った侯爵家当主の証である短剣を彼らに見せる。

「こ、これは侯爵位の紋。大変失礼致しました、直ちに代官様へ取り次ぎをさせていただきます」

 門兵の一人が慌てて屋敷内へと走り込んで行くのが見える。侯爵家当主が突然現れたのだ、驚くのも無理はない。

「――お待たせしました。中へお入りください」

 数分後、先ほど屋敷に走って行った門兵が息を切らして駆け付けると大きく息を吐いてからゼオンに対して屋敷に案内するとして敬礼をする。

「ああ、案内を頼む。そして今まで領地を治めていた代官と話がしたいので面会を頼むよ」

「はっ! 代官様もそのつもりであります」

 極度の緊張を見せる門兵の男を先頭に俺たちは代官と面会をすることになったのだった。

「――こちらになります。代官様はすぐに参りますので少しだけお待ちください」

 俺たちが案内されて入った部屋は豪華な客間だった。恐らくだが、他の貴族などをもてなすために作られた部屋なのだろう。装飾品などが無駄に豪華で俺は思わずため息をついていた。

「貴族の屋敷は何処も同じなのだろうが、無駄に豪華だな。そういえばさっき訪れた教会も装飾品が目立っていたな」

「はあ。色々と正していかなければならない事があるようだな」

 貴族と一緒に教育を受けていたゼオンも根は平民の出であることから、貴族のメンツなどに関して知識程度しか持っていない。その感覚が今後のゼオンにとってプラスとなるかマイナスとなるかは部下が彼の方針に理解を示すかにかかっているだろう。

「大変お待たせ致しました。代官を務めさせて頂いておりますクローマと申します」
 そう言いながら部屋に入ってきたのは、高級そうな素材で作られたローブを纏った、壮年を少し超えたように見える男性だった。

「ゼオンだ。貴殿も知っているとは思うが、先日の魔族王との戦いに勝利し国王様より侯爵の爵位を賜った。その褒賞としてこのノーズ地方の管理も任された。そのことは書状に記してあったと思うが確認されたか?」

「は、はい。確認致しました」

「うん。ならば、この後の方針を決めたいと思う」

 ゼオンはクローマがうなずくのを見て口角を上げるとこちらの要求を口にする。

「まずは早急にこの領主邸を明け渡して頂く。聞くところによると貴殿は代官の身分でありながら領主が不在であることを理由に本来住まうべき代官邸ではなく領主邸を使用していたそうだな。これはなぜか問いたいが答えてくれるか?」

「は、はい。確かに代官邸も敷地内に存在しておりますが、公務は全てこの領主邸にて行っておりましたので効率を考えてそうさせていただいておりました」

「グラン、どう思う?」

 今のゼオンは侯爵家当主としての立場で俺に問いかけているのだ。その意図を理解した俺はわざとゼオンのそばに跪き、礼の動作をしてからその答えを話し出す。

「僭越ながら意見を申し上げる」

 俺はそう言ってから立ち上がるとクローマの前に出て彼の話の矛盾を指摘する。

「一見では間違っていない判断に聞こえるが、やはりそれはおかしいと言える。確かに領主邸にも執務室は存在するが高位の爵位を持つ者が領主となった場合、代官が置かれることは普通のことだ。領主邸の敷地内に代官邸があることがその証明となる。そして、代官が執務をする際には代官邸にて行い、最終的な報告のみ領主邸にて行うのが当然の流れとなる。つまり、代官邸には内政の執務を行う機能は十分に備わっており、領主邸にて執務をする必要性はないのです」

「――だ、そうだが何か申し開きはあるかい?」

 俺の指摘にだらだらと冷や汗をかきながら言葉を探すクローマだったが、下手な言い訳を重ねて墓穴を掘るよりはと潔く謝罪の言葉を述べる。

「申し訳ありませんでした。領主様が不在だということでせっかくあるものを使わないのは勿体ないと思い勝手に使わせて頂いておりました。今日中に荷物をまとめて代官邸へと移動しますのでご容赦ください」

 領主不在に少し調子に乗って勝手をしていたようだが、すぐに過ちを認めて謝罪するところは小物感満載で見ていて哀れになる。しかし、こういった輩は上役の目がない場所では大抵悪さをしているものだ。少し調べれば埃は出てくるだろう。

「では、そのように。明日より三日間で領内の状況把握をするので該当する資料を揃えておくように。その資料の精査はここにいる三名で行うものとする」

「は、はい。仰せのままに」

 クローマは深々と頭を下げるとそそくさと部屋を出て行き、すぐに代官邸への引っ越しを始めた。彼が出て行った部屋でそばにあったソファに座りながら大きな息を吐いたゼオンに俺は「お疲れ」と労いの言葉をかける。

「明日からの内政調査にグラン様はともかく、私も同席しても宜しいのですか?」

 先ほどまで黙って話を聞いていたローザがここで口を開く。彼女は聖女として教会の管理を担う役目があるので気になったのだろう。

「ローザも三日間は教会の受け入れ準備が終わらないんだ。それに、ローザの家は子爵家だろ? 子供の頃から夫が領地経営を担う立場であった場合にその補佐が出来るようにと教育を受けてきている筈だ。その視点からも意見を貰えたら助かる」

「その視点だと俺は不要だと思うが? なにせ、長く生きているだけで学院にも通っていないからな」

「なに惚けているんだよ。学院に行ってなくてもその辺の貴族よりずっと知識を持っているのは知っている。グランも表向き引退して暇だろ? ここは俺を助けると思って協力してくれ」

 自分でも言っていたが、ゼオンは勇者としての力とカリスマはあるが領地運営に関しては学院で貴族教育を受けただけの新米だ。あの代官がどんな内政をしていたかにもよるが、資料を見ただけでは理解出来ずに丸め込まれる可能性のほうが大きいだろう。

「わかりました。私で出来ることならば喜んで協力しましょう。但し、内政が落ち着いたら教会の洗浄も行いたいと考えておりますのでその時は領主としてお力添えをお願いしますね」

 ローザはゼオンの提案を了承すると自らの要望を微笑みながら返した。

「わかった。そっちは任せろ」

「面倒だが、侯爵閣下に恩を売るのも悪くない。こっちの問題が解決したら俺が住む家の斡旋を頼むぞ」

「そっちも了解だ。宜しく頼む。とりあえず、今日のところは客間に泊まってくれ。明日からが本番だからな」

 明日からの方針が決まった俺とローザはゼオンの勧めで領主邸の客間に泊まり、旅の疲れを癒したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界カードSHOP『リアのカード工房』本日開店です 〜女神に貰ったカード化スキルは皆を笑顔にさせるギフトでした〜

夢幻の翼
ファンタジー
自分のお店を経営したい! そんな夢を持つアラサー女子・理愛(リア)はアルバイト中に気を失う。次に気がつけばそこでは平謝りする女神の姿。 死亡理由が故意か過失か分からないままに肉体が無い事を理由に異世界転生を薦められたリアは仕方なしに転生を選択する。 だが、その世界では悪事を働かなければ自由に暮らして良い世界。女神に貰ったスキルを駆使して生前の夢だった店舗経営に乗り出したリア。 少々チートなスキルだけれど皆を笑顔にさせる使い方でたちまち町の人気店に。 商業ギルドのマスターに気に入られていろんな依頼も引き受けながら今日も元気にお店を開く。 異世界カードSHOP『リアのカード工房』本日も開店しています。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

魔法物語 - 倒したモンスターの魔法を習得する加護がチートすぎる件について -

花京院 光
ファンタジー
全ての生命が生まれながらにして持つ魔力。 魔力によって作られる魔法は、日常生活を潤し、モンスターの魔の手から地域を守る。 十五歳の誕生日を迎え、魔術師になる夢を叶えるために、俺は魔法都市を目指して旅に出た。 俺は旅の途中で、「討伐したモンスターの魔法を習得する」という反則的な加護を手に入れた……。 モンスターが巣食う剣と魔法の世界で、チート級の能力に慢心しない主人公が、努力を重ねて魔術師を目指す物語です。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...