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第13話 北の穀倉地区ドンスタン
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「――おい。馬車を準備すると言っていたよな?」
次の日の朝、準備が出来たとの知らせに俺は領主邸の前広場に出て唖然とする。
「言った通り馬車の準備をしたが、何が気に入らないんだ?」
「確かに馬車はある。だが、それを扱う御者が居ないじゃないか!」
「それについてはすまないと思っている。だが、馬車を御者付にすれば護衛が必要になる。行きはグランが同行しているので問題ないが、帰りはそうはいかない。グランが自分で御者をすれば全て解決だ」
「馬車はどうするんだよ? 俺がそのまま貰っても良いのか?」
「構わないよ。馬車も今回の報酬の一部と考えてくれていい」
「なるほどな。だが、俺が御者をするのにこんな大きな馬車は必要ないから荷車部分は収納して馬に直接乗って行くぞ」
俺はそう言って馬から馬車の荷車部分を外すと魔法鞄に収納した。
「おいおい、冗談だろ? その魔法鞄はどれだけ荷物が入るんだよ」
馬車の荷車部分が魔法鞄に吸い込まれていくのを目の前で見たゼオンが呆れた声で言う。
「魔法鞄の容量は魔力の多さで決まるって前に説明しただろ? 俺はハーフエルフだからな。人族とは桁が違うと思ってくれ」
「まったく、羨ましいほどの魔力量だな。まあ、男爵領のことは宜しく頼むよ。俺もこっちが落ち着いたら一度顔を出すようにするからさ」
「そうしてくれ。まあ、さっさと問題を解決して美味い酒でも飲みながらのんびり待っているさ」
俺は荷車を外され身軽になった馬に乗りゼオンたちの見送りを受けてドンスタン地区を目指す旅に出発をする。
「――目的地まで馬車だと一週間といったところだろうが、馬乗りだから半分程度の日数で行けるだろう」
俺は相棒となった馬と共に一路ドンスタン地区へと向かった。魔法従魔のハビルも飛ぶのが面倒なのか俺の後ろにちゃっかりと乗っていた。道中は穏やかで魔獣の姿もなく、旅は順調に進んで行く。やがて、幾度かの野営を経て今回の目的地となるドンスタンの町が見える丘まで辿り着いた。
あれがドンスタンの町か。魔獣が出没する町にしては外壁が低すぎる気がするが、ちゃんと機能しているのだろうか? 俺は馬を操りながら町の入口にあたる門の前に辿り着く。そこでは二人の兵士が門を守っており、俺の姿を見て声をかけてきた。
「――見ない顔だが、何処から来た?」
特に威圧的な態度ではなく、警備上で日頃見ない顔の旅人や商人が来た時は声をかけるといった日常行動だと見て取れたので俺は素直に答えてやる。
「アビルボーザからだ。この町の領主様に渡すものがあるんだが、何処に行けば会える?」
「男爵様に? いきなり現れて領主様に会いたいと言っても簡単に会えるものじゃないぞ。どうしてもと言うなら正式な手続きをしてからにするんだな」
「そうか。侯爵閣下からの手紙を届けに来ただけなんだが、門兵に追い返されたと侯爵閣下に報告してもいいか?」
正式な手続きとやらを踏んでも良かったが、どうせ面倒な書類をいくつも書かなければいけないのだろう。そんな時間の無駄をするくらいならゼオンの名前を使ったほうが楽だよな。
「なっ! 侯爵閣下からだと!? それは本当か?」
「蝋封の印を見れば分かるだろ? それで、どこに行けば領主様に会えるんだ」
「これは、間違いなく侯爵家の印。わかりました。すぐに面会の手続きをさせていただきます」
門兵は即座に伝令を走らせ、俺は迎えに来た使者と共に男爵家の屋敷に案内された。
「――そなたが手紙を届けてくれた者か?」
屋敷の応接室にて待っていると少しやつれた表情の中年男性が渡した手紙と共に部屋へ入って来ると俺に問いかけた。
「はい。先日、国王様より叙爵されたゼオン侯爵閣下よりドンスタン男爵へ渡すようにと預かって来ました。内容は存じ上げていません」
「そうか。手紙によればゼオン侯爵殿は魔王を討伐した勇者様だとのこと。その功績をもって侯爵の地位を授かったとあった。長くこのノーズ地域には上級貴族が不在で国が派遣した代官が治めていたのだが、ようやく国も管理に前向きとなってくれたようだ。このような人物を我が地に派遣してくれるとは、ぜひとも頼み申し上げますぞ」
男爵はひとつ息を吐き、ほっとした表情を見せる。
「それで、手紙にはなんと書かれていたのですか? 自分も詳しくは聞いていませんでしたので……」
ゼオンのやることだ、少し不安な気もするが基本的に嘘をつくことはしない奴だから何か手立てはあるのだろう。俺はそう判断して男爵の口が開くのをじっと待つ。
「なんと! 詳細を聞いておられないのですか? それは申し訳ありません。前に代官様へ要望していた陳情書に記載されていた内容の対応をして頂けるものと思っておりました」
「その内容とは『魔獣の駆除』ですか? それでしたら、ゼオン侯爵閣下より伺っていますが」
俺は先日ゼオンから聞いていた内容を思い出しながら男爵にそう問いかける。
「ええ。この地区で管理している農地を荒らす魔獣にはほとほと手を焼いておりまして、代官様に騎士団の派遣を陳情していたところなのです」
「……騎士団の派遣を陳情って、この町には騎士団は居ないのですか?」
俺の問いかけに疲れた表情を見せた男爵は信じられない事実を口にする。
「――領地の財政状況が悪くてな。騎士団の給与が払えず解散させたのだよ」
マジかよ。
「そ、そうだったのですね。ゼオン侯爵閣下から騎士団と連携して対処にあたるようにと聞いていたもので……」
「それが普通の反応だと思う。だが、そのくらい領内の財政は切実な状況だと思ってくれたらいい」
これは思っていたのと違う問題が山積みの予感がする。俺の希望である『酒を嗜みながらのスローライフ』は実現できるのか?
「財政難……か。そういえば、この地区は農業が主産業でエールの原料となるムーギが壊滅的被害を受けると税収が殆ど入らないと聞いたような気がするが、それは本当なのか?」
「正におっしゃるとおりです」
男爵は俺がなくて欲しいと願う希望を容易く砕いたのだった。
次の日の朝、準備が出来たとの知らせに俺は領主邸の前広場に出て唖然とする。
「言った通り馬車の準備をしたが、何が気に入らないんだ?」
「確かに馬車はある。だが、それを扱う御者が居ないじゃないか!」
「それについてはすまないと思っている。だが、馬車を御者付にすれば護衛が必要になる。行きはグランが同行しているので問題ないが、帰りはそうはいかない。グランが自分で御者をすれば全て解決だ」
「馬車はどうするんだよ? 俺がそのまま貰っても良いのか?」
「構わないよ。馬車も今回の報酬の一部と考えてくれていい」
「なるほどな。だが、俺が御者をするのにこんな大きな馬車は必要ないから荷車部分は収納して馬に直接乗って行くぞ」
俺はそう言って馬から馬車の荷車部分を外すと魔法鞄に収納した。
「おいおい、冗談だろ? その魔法鞄はどれだけ荷物が入るんだよ」
馬車の荷車部分が魔法鞄に吸い込まれていくのを目の前で見たゼオンが呆れた声で言う。
「魔法鞄の容量は魔力の多さで決まるって前に説明しただろ? 俺はハーフエルフだからな。人族とは桁が違うと思ってくれ」
「まったく、羨ましいほどの魔力量だな。まあ、男爵領のことは宜しく頼むよ。俺もこっちが落ち着いたら一度顔を出すようにするからさ」
「そうしてくれ。まあ、さっさと問題を解決して美味い酒でも飲みながらのんびり待っているさ」
俺は荷車を外され身軽になった馬に乗りゼオンたちの見送りを受けてドンスタン地区を目指す旅に出発をする。
「――目的地まで馬車だと一週間といったところだろうが、馬乗りだから半分程度の日数で行けるだろう」
俺は相棒となった馬と共に一路ドンスタン地区へと向かった。魔法従魔のハビルも飛ぶのが面倒なのか俺の後ろにちゃっかりと乗っていた。道中は穏やかで魔獣の姿もなく、旅は順調に進んで行く。やがて、幾度かの野営を経て今回の目的地となるドンスタンの町が見える丘まで辿り着いた。
あれがドンスタンの町か。魔獣が出没する町にしては外壁が低すぎる気がするが、ちゃんと機能しているのだろうか? 俺は馬を操りながら町の入口にあたる門の前に辿り着く。そこでは二人の兵士が門を守っており、俺の姿を見て声をかけてきた。
「――見ない顔だが、何処から来た?」
特に威圧的な態度ではなく、警備上で日頃見ない顔の旅人や商人が来た時は声をかけるといった日常行動だと見て取れたので俺は素直に答えてやる。
「アビルボーザからだ。この町の領主様に渡すものがあるんだが、何処に行けば会える?」
「男爵様に? いきなり現れて領主様に会いたいと言っても簡単に会えるものじゃないぞ。どうしてもと言うなら正式な手続きをしてからにするんだな」
「そうか。侯爵閣下からの手紙を届けに来ただけなんだが、門兵に追い返されたと侯爵閣下に報告してもいいか?」
正式な手続きとやらを踏んでも良かったが、どうせ面倒な書類をいくつも書かなければいけないのだろう。そんな時間の無駄をするくらいならゼオンの名前を使ったほうが楽だよな。
「なっ! 侯爵閣下からだと!? それは本当か?」
「蝋封の印を見れば分かるだろ? それで、どこに行けば領主様に会えるんだ」
「これは、間違いなく侯爵家の印。わかりました。すぐに面会の手続きをさせていただきます」
門兵は即座に伝令を走らせ、俺は迎えに来た使者と共に男爵家の屋敷に案内された。
「――そなたが手紙を届けてくれた者か?」
屋敷の応接室にて待っていると少しやつれた表情の中年男性が渡した手紙と共に部屋へ入って来ると俺に問いかけた。
「はい。先日、国王様より叙爵されたゼオン侯爵閣下よりドンスタン男爵へ渡すようにと預かって来ました。内容は存じ上げていません」
「そうか。手紙によればゼオン侯爵殿は魔王を討伐した勇者様だとのこと。その功績をもって侯爵の地位を授かったとあった。長くこのノーズ地域には上級貴族が不在で国が派遣した代官が治めていたのだが、ようやく国も管理に前向きとなってくれたようだ。このような人物を我が地に派遣してくれるとは、ぜひとも頼み申し上げますぞ」
男爵はひとつ息を吐き、ほっとした表情を見せる。
「それで、手紙にはなんと書かれていたのですか? 自分も詳しくは聞いていませんでしたので……」
ゼオンのやることだ、少し不安な気もするが基本的に嘘をつくことはしない奴だから何か手立てはあるのだろう。俺はそう判断して男爵の口が開くのをじっと待つ。
「なんと! 詳細を聞いておられないのですか? それは申し訳ありません。前に代官様へ要望していた陳情書に記載されていた内容の対応をして頂けるものと思っておりました」
「その内容とは『魔獣の駆除』ですか? それでしたら、ゼオン侯爵閣下より伺っていますが」
俺は先日ゼオンから聞いていた内容を思い出しながら男爵にそう問いかける。
「ええ。この地区で管理している農地を荒らす魔獣にはほとほと手を焼いておりまして、代官様に騎士団の派遣を陳情していたところなのです」
「……騎士団の派遣を陳情って、この町には騎士団は居ないのですか?」
俺の問いかけに疲れた表情を見せた男爵は信じられない事実を口にする。
「――領地の財政状況が悪くてな。騎士団の給与が払えず解散させたのだよ」
マジかよ。
「そ、そうだったのですね。ゼオン侯爵閣下から騎士団と連携して対処にあたるようにと聞いていたもので……」
「それが普通の反応だと思う。だが、そのくらい領内の財政は切実な状況だと思ってくれたらいい」
これは思っていたのと違う問題が山積みの予感がする。俺の希望である『酒を嗜みながらのスローライフ』は実現できるのか?
「財政難……か。そういえば、この地区は農業が主産業でエールの原料となるムーギが壊滅的被害を受けると税収が殆ど入らないと聞いたような気がするが、それは本当なのか?」
「正におっしゃるとおりです」
男爵は俺がなくて欲しいと願う希望を容易く砕いたのだった。
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