勇者の保護者を辞めた賢者のセカンドライフは没落貴族の再建教師 〜引退賢者は100歳年下の貴族令嬢と共に内政復興を楽しむ〜

夢幻の翼

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第35話 洞窟の奥に住みし者

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「――こういった場所には予想以上の大物が居るのが相場だよな」

 時折現れる小型の生き物を払いながら、ゼオンが俺に話しかける。この先がどんな所と繋がっているかによるが、ゼオンの言っていることはあながち間違いではない。そもそもこんな洞窟は風の影響がほぼない為に、魔素が溜まりやすい。魔獣は魔素を好むので大きく育った魔獣が居てもおかしくはないのだ。

「そんなことを言っていると本当に馬鹿みたいに大型の魔獣と遭遇するぞ」

「ははは、そいつはいい。せめて準備運動になる相手だったらいいな」

 勇者をしていただけあって、ゼオンは全く動じることなく余裕をみせている。確かに伝説の魔獣であるならともかく、多少大きいだけの魔獣程度なら問題なく討伐出来るだろう。ゼオンの返答に俺も笑みを返して探索魔法の範囲を広げると奥に大き目の反応を感じる。

「言っている側から反応があったぞ。まあまあの魔力量だから中型以上の魔獣である可能性が高いな」

「そいつはいい。さて、どんな奴か拝みにいくか」

 少し進んだところで道が二股に分かれており、抜き身の剣を軽く振ったゼオンは俺に道案内をするように目配せをする。

「右だな。数十メートル先に広めの空間があるようだ。直前で光源ライトの魔法を最大威力で放り込むから五秒数えてから入るようにな」

「わかった」

 俺はゼオンが頷くのを確認すると光量を抑えた状態で薄暗い通路を進む。やがて目的の空間手前まで辿り着くとゼオンを手で制してから魔法の詠唱を始めた。

「暗き闇の中に灯る真白の光よ、魔力の尽きるまでその闇を消し去れ。――光源ライト

 詠唱を終えた俺は手の平に生まれた小さな光の種を薄暗い空間へと放り込む。次の瞬間、部屋の中で弾けた光に魔獣の声が響き渡る。

「ギュオオオオッ!」

 その声を聞いたゼオンは俺の言いつけを守り、五秒の間を置いてから明るくなった空間へと足を踏み入れたのだった。

◇◇◇

「――ははは。これは驚いたな」

 先に進んだゼオンの言葉に俺もその正体を見るために彼の横へ歩を進める。そこで見たものは大きな水の溜まり場だった。水辺には体長三メートルを超える大蜥蜴おおとかげが痙攣を起こしてのた打ち回っている姿が見えた。薄暗い洞窟の中で急に強烈な光が発生したために目を焼かれたのだろう。

「大蜥蜴か。しかしデカいな」

 ゼオンがそう呟きながらトドメを刺そうと大蜥蜴に近づいた時、こちらの気配に気が付いたのか大きな口をこちらに向けて大きく息を吸ったのが見えた。

「ゼオン! 横に飛べ!」

 ゴオーッ!

 俺の叫びに反応したゼオンは咄嗟に右へと大きく飛んだ。次の瞬間、ゼオンの立っていた場所は大きな炎に包まれていたのだった。

「ちっ! 普通の大蜥蜴かと思ったら火蜥蜴サラマンダーかよ!」

 先程までのた打ち回っていた為に火蜥蜴の特徴である背骨に沿うようにある真っ赤なラインが見えていなかったために油断したのだ。

「なんでこんなところに火蜥蜴が居るんだよ!」

「ゼオンが盛大なフラグを立てたからじゃないのか?」

 予想以上の相手に愚痴の一言も言いたくなった俺は魔法の準備をしながら軽口を返す。

「僕は今日の装備だと少々相性が悪いが、ゼオンの魔法でなんとかなりそうか?」

 確かにゼオンの装備は属性剣ではなく単なる鋼の剣だ。元々は魔角猪ホーン・ボアを討伐する予定だったので過剰な装備はして来なかったのだ。

「水を飲むために来ていたのだろうが、水辺に居たのが奴の運のつきだ。火蜥蜴は火にはめっぽう強いが大量の水が弱点でもある。水の中に叩き落とせば動きは極端に制限されるからその時にトドメを刺せばいい」

「僕は何をすればいい?」

 こういった時のゼオンは俺に指示を求めることが多い。一人でも戦える力はあるのだが、複数人で戦う場面では常に俺が司令塔となって戦略を立てていたせいで受け身になってしまったようだ。

「防御魔法をかけるので奴を翻弄してくれ。隙が出来たら魔法で奴を水たまりに叩き落とす。最後のトドメは任せるからな」

 俺はそうゼオンに告げると彼に耐火魔法を施すと直ぐに次の魔法詠唱を始める。ゼオンは自身に魔法が付与されたのを感じ取ると火蜥蜴に向けて一気に走り出して間を詰め、手にした剣で奴の身体を斬りつけた。

「グガッ!」

 ゼオンの剣は火蜥蜴の背に接触するが、その硬い鱗を切り裂くことは出来ずに浅い線状の跡が残るだけだった。攻撃を受けた火蜥蜴は興奮した様子で威嚇声を発して戦闘態勢を取る。

「ちぃ。やっぱり鋼の剣程度じゃ鱗には傷もつかないか」

 火蜥蜴の弱点は胸部だ。だが、胸部を攻撃するにはひっくり返す必要がある。それが叶わないなら玉砕覚悟で大きく開いた口内に剣を突き立てる必要がある。だが、当然火を吐く火蜥蜴の前に立つなど自殺行為だ。

「数秒でいい! 奴の目の前で気を引くんだ!」

 魔法のホールドが完了した俺はゼオンにそう叫ぶ。剣での攻撃が思うままにならないなら囮も仕方ないとばかりにゼオンは火蜥蜴の目の前に飛び出して剣を構える仕草をする。

「ブフゥ」

 いきなり目の前に現れたゼオンに火蜥蜴は荒い鼻息を吹いてから燃やし尽くそうとばかりに大きく息を吸い込む動作をした。
「ここだ! 土隆起マッド・アップ!」

 ズズン!

 息を吸い込むために火蜥蜴の身体が硬直したタイミングで俺はホールドしていた魔法を解放する。次の瞬間、火蜥蜴の立っていた地面が一気に隆起して奴の身体を空中へと跳ね上げた。

 ザバーン!

 隆起に角度をつけていたので火蜥蜴の身体は斜めに傾きながら水溜まりの中へダイブしたのだった。

「続けてこれでもくらうがいい! 凍結アイス!」

 俺は火蜥蜴が水中から腹を上にしたまま浮かび上がってきたのを見て水溜まりの表面を凍らせた。

 ビキビキビキ

「ゼオン! トドメを!」

「おおおおっ!」

 俺の凍らせた道の上を走り、ゼオンは一直線に火蜥蜴の胸部目掛けて剣を突き立てる。火蜥蜴の最大の弱点である胸部への一撃は先ほどの背とは違い易々と突き刺さり火蜥蜴の生命活動を止めたのだった。
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