勇者の保護者を辞めた賢者のセカンドライフは没落貴族の再建教師 〜引退賢者は100歳年下の貴族令嬢と共に内政復興を楽しむ〜

夢幻の翼

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第45話 ルドリアス子爵

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 陽が落ち、夜の時間が来た。こんな日に限って月の明りが良く見え、光源魔法ライトを使用せずとも移動するに支障がない夜だった。

「――残念ながら予想が当たったようだ」

「無駄に何日も待ちぼうけをさせられるより何倍もマシですよ」

「そうだな」

 センサー式の魔道具を作り上げた俺たちは人が通りそうな場所にそれらを仕込み待ち伏せをしていた。複数ある魔道具の一つに反応があった場所は通常の道ではなく少し大きめの獣道だった。

「まあ、まともな道を歩いていない時点で当たりだろうな」

 一つ目のセンサーに反応があった後、俺は自らの探索魔法でその集団にいる人数を把握。その先に設置してある罠の近くまで移動して遠巻きに潜んでいる状態だ。

「ドキドキしますね」

 罠の発動がぎりぎり視認出来る高所に陣取りながらセシリアがそう呟くのが聞こえる。自分も手伝った魔道具がちゃんと機能するかが気がかりなのだろう。

「心配するな。俺もちゃんと確認している」

 俺はセシリアの頭をポンと軽く触ると笑みを見せながら視線を魔道具の設置箇所へと移す。

「さあ、狩りの時間だ」

◇◇◇

 ――時は少し遡る。

 三男のロナンドを送り出したルドリアス子爵家だったが、男爵家との水面下での取引が不調に終わったことに憤慨して手紙を投げ捨てながら叫んでいた。

「全くあいつは何をやっているんだ!? 北の辺境にある貧乏男爵家程度に弱みを握られるとは、本当に役立たずめ! しかも、新たに任命された侯爵家にも状況を把握されおって。このままでは上級貴族間での交渉で我が子爵家にペナルティが課されることは想像に難くないぞ」

「お怒りは分かりますが、このままロナンド様を放置するわけにもいきません。今はまだ子爵家の面子を立てて口を閉ざされていると思いますが、ロナンド様が子爵家から見放されたと判断されればこちらの弱みを全て暴露されるかもしれません」

 ルドリアス子爵の隣で冷や汗を拭きながらそう進言する執事の男。子爵が今回の件を企んだ際に反対の意を唱えてからずっと消極的だと叱責され、それからは子爵の意見に逆らう気力を失っていた。

「そんなことはわかっておる。そんなわかり切ったことを言う暇があったら問題を打開する案のひとつでも出せ!」

「は、はい」

 執事の男は子爵の無茶振りにビクつきながらも現時点で選択できる案、消極的なものと攻撃的なものの二案を提示する。

「恐れながら提案します。今の時点で出来ることはふたつ。ひとつは西地区の寄り親である侯爵様に手土産を持参して協力を求めること。この際にはこちらには非がなく、相手側が旅の途中だったロナンド様を一方的に敵視して拘束したとして開放を求めて頂くこと」

「ふん。それが出来れば苦労はせん。で、もうひとつは?」

 消極的な案を聞いた子爵は鼻を鳴らして即座にそれを否定する。かなり傲慢な性格なのが分かる。

「こちらはあまりお勧めできませんが当方の暗部を使って男爵家を強襲し、その混乱を利用してロナンド様を奪還することです。ただし、この案を実行する時は相手を出来るだけ傷つけない必要があります。特に貴族家の者を殺めたりした場合は言い逃れが出来ませんし、完全に証拠を消す必要があります」

 男としては気が乗らないけれど主人の意向に沿った提案もしなければならない。苦悩の末に最低限守るべきものを伝えることしか出来なかった。

「――ふむ。以前、調べた時には男爵家には夫妻と娘が一人だけだったな? しかも財政が厳しくて騎士団も解散していたはずだ。少数精鋭で行けば目立たずに済むだろう。万が一の場合でも男爵家の三人を無力化して証拠を消せば言い逃れなどどうとでもなる。よし、奴を呼べ」

 執事の意見にニヤリとした子爵はここで大きな間違いを選択してしまう。それが今まで積み重ねてきたものを全て台無しにする選択だとは気がつきもせずに……」

 子爵家崩壊の時計は確実に進んでいた。

 ガサガサガサ――

 月明かりを頼りに薄暗い獣道を進む数人の黒い人影。子爵家の裏仕事を請け負う者たちが緊急の命を受けてドンスタン男爵領へと向かっていた。

「そろそろ領境だ。この森を抜けたらすぐに街の外壁が見えるはずだ。門から外れた場所に侵入出来る所があると報告を受けているのでそこから入って領主邸へ向かう。ターゲットの三男がどこに監禁されているかによるが、依頼主の要望で貴族家の者は殺すなと言われているので気をつけろよ」

 隊を束ねるリーダー格の男が部下に指示を促す。

「俺たちに頼んでおいて殺さずですかい? そいつはずいぶんと面倒な依頼っすね」

「まあ、そう言うな。いくら俺たちでも貴族に手を出せば後々面倒なことになるのはいつものことだ」

 男はため息をついて部下の意を酌んでやる。だが、受けた依頼だ。リスクがあるからと反故に出来るものではないので計画どおりに行うしかない。

「森の端が見えるぞ。気を入れ直せ」

 ピッ

 男が走りながら部下に言葉をかけた時、森では聞かない音が聞こえ、次の瞬間には左右に生えていた蔓植物の蔓が一気に襲って来たのだった。
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