47 / 50
第47話 子爵家の末路①
しおりを挟む
男爵家に三男を取り戻すために送り込んだ男たちが予定の日を超えても戻ってこないと、ルドリアス子爵は執務室で歯噛みをしていた。そんな時、執務室のドアが乱暴に開かれ、顔面蒼白の執事が飛び込んできた。
「だ、旦那様! これを!!」
執事が手にしていたのは貴族間のみでやり取りされる特別な封書。封蝋を確認すると新侯爵であるゼオン家のものだった。
「ゼ、ゼオン侯爵家だと!?」
ルドリアス子爵は手に汗をかきながら手紙の封を解き、中を確認する。その内容を読み進めるたびに子爵の顔色が悪くなっていく。
「侯爵様はなんと?」
子爵の顔色で大方の予想はつくが、執事は主人に問いかけた。
「終わりだ」
「は?」
「ルドリアス子爵家はもう終わりだと言ったのだ。新興貴族とはいえ、最上級にあたる侯爵家に喧嘩を売ったことになっておるのだ。どういい訳をしても下級貴族である我が家の主張が通るはずがない。やはり、あの馬鹿な三男の尻拭いなどするべきではなかったのだ」
ルドリアス子爵は手紙を読み終わると頭を抱えてその場に崩れ落ちる。その様子を見て執事が意見を述べた。
「旦那様。こうなってしまったからにはドンスタン男爵家に直接謝罪に訪れたほうが良いかと思います。こちらが謝罪の意思を見せれば取り下げていただけるかもしれません」
「我に格下の男爵家へ謝罪に向かえと申すのか?」
「今回は仕方ありません。家を継げない三男様からの案であったとはいえ、金銭的な支援をする許可を出したのは旦那様ですので。最終的な判断は子爵家当主である旦那様の責任と捉えられても仕方ありません」
「ぐぬぬ。こんなことで侯爵家に目を付けられたままでは非常に不味い。すぐに男爵家に伝書鳥を飛ばせ。向こうが話し合いの場を設けると返事があればすぐに出発をするぞ」
「はっ。すぐに手配いたします」
執事はそう答えると男爵家に向けて手紙を飛ばしたのだった。
◇◇◇
「――ルドリアス子爵家から正式に謝罪をしたいそうだ」
襲撃者たちをゼオンのもとへ送ってから十日あまり経った頃、男爵家に呼び出されたと思ったら一枚の手紙を見せられた。
「なるほど。ゼオンから子爵に警告状が届いたのだろう。それで慌てて謝罪を申し出て来たってところか。手紙を送ったゼオンにではなくてこっちに送ってくるとは余程ゼオンが怖いのだろう」
「それはそうでしょう。私よりも格上の爵位とはいえ、子爵家は下級貴族。ゼオン様は上級貴族の侯爵家ですから懐柔しやすいのはどうみても私の方でしょうから」
手紙を読む俺を見ながらドンスタン男爵が苦笑いを見せる。ようやく自領の経営が上向き始めた時に起こった問題に苦慮しているのだろう。
「それで、どうされるのですか?」
「本件はすでにゼオン侯爵様に一任の形としているのだが、子爵家の三男がこちらに軟禁状態のままだからな。少なくともきちんとした謝罪とともに引取りに来てもらわなければ困るのだよ」
「ああ、そうでしたね。軟禁状態とはいえ、ちゃんとした扱いをしているのだからその対価は取るべきですね」
先日、横暴な態度で取り押さえられた三男は未だ男爵家の軟禁部屋に拘束されている。子爵家との話がつかなければ返す義理もないが、交渉の切り札にはなると思って待遇は普通よりも良くしている。その分コストもかかるが、引き渡し時にふっかけてやれば問題ない。
「当然、そうするつもりだよ。せっかくの機会だ、領内の財政に貢献してもらうつもりだよ。それで、子爵を迎えるにあたってグラン殿に相談したいことがあるのだよ」
そう告げた男爵は俺にある依頼をしたのだった。
◇◇◇
――子爵家当主から連絡が入って二週間後。正規の道を通り男爵領まで辿り着いたルドリアス子爵は領主邸の前で冷や汗を流していた。そこにはズラリと立ち並ぶ騎士団兵士の列。その数、優に百人は下らないように見える。
「ば、ばかな。聞いた情報だと男爵家は財政難のために騎士団を解散していたはず。これだけの人数を雇い入れることなど不可能なはずだ」
左右にきちんと整列した騎士団兵士はその手に剣や槍を携えて来訪者の動向を注視している。
「これは、ルドリアス子爵様ですね。私は当男爵家の再建顧問を請け負っていますグランと申します。お見知りおきを」
俺は男爵本人には出迎えをさせずにゼオンに借りた騎士団と一緒に出迎えをした。向こうの方が家柄は上だが、今回は向こうが謝罪に来たのだ。わざわざこちら側がへりくだる必要はない。
「う、うむ。出迎えご苦労。して、男爵と面会したいのだが案内してもらえるか?」
「どうぞ、こちらへ」
俺はわざとらしくお辞儀をすると澄ました表情で方向転換をして子爵当人を連れて屋敷の入口へと歩き出した。
「――こちらの部屋になります」
俺が案内したのは屋敷の応接室。そこにドンスタン男爵と娘のセシリアが待っていた。
「ようこそ、ルドリアス子爵。遠路はるばるお越しいただきありがとうございます」
「そんな挨拶はどうでもいいから、早々に本題へ入れ」
男爵が形式的ではあるが丁寧な挨拶をすると子爵は苛立ちを見せ、吐き捨てるように告げる。
「そうですか。そうおっしゃっていただけるならそうしましょう」
ドンスタンはそう告げると穏やかな表情で子爵家への要望が書かれた書類をルドリアスの前に差し出したのだった。
「だ、旦那様! これを!!」
執事が手にしていたのは貴族間のみでやり取りされる特別な封書。封蝋を確認すると新侯爵であるゼオン家のものだった。
「ゼ、ゼオン侯爵家だと!?」
ルドリアス子爵は手に汗をかきながら手紙の封を解き、中を確認する。その内容を読み進めるたびに子爵の顔色が悪くなっていく。
「侯爵様はなんと?」
子爵の顔色で大方の予想はつくが、執事は主人に問いかけた。
「終わりだ」
「は?」
「ルドリアス子爵家はもう終わりだと言ったのだ。新興貴族とはいえ、最上級にあたる侯爵家に喧嘩を売ったことになっておるのだ。どういい訳をしても下級貴族である我が家の主張が通るはずがない。やはり、あの馬鹿な三男の尻拭いなどするべきではなかったのだ」
ルドリアス子爵は手紙を読み終わると頭を抱えてその場に崩れ落ちる。その様子を見て執事が意見を述べた。
「旦那様。こうなってしまったからにはドンスタン男爵家に直接謝罪に訪れたほうが良いかと思います。こちらが謝罪の意思を見せれば取り下げていただけるかもしれません」
「我に格下の男爵家へ謝罪に向かえと申すのか?」
「今回は仕方ありません。家を継げない三男様からの案であったとはいえ、金銭的な支援をする許可を出したのは旦那様ですので。最終的な判断は子爵家当主である旦那様の責任と捉えられても仕方ありません」
「ぐぬぬ。こんなことで侯爵家に目を付けられたままでは非常に不味い。すぐに男爵家に伝書鳥を飛ばせ。向こうが話し合いの場を設けると返事があればすぐに出発をするぞ」
「はっ。すぐに手配いたします」
執事はそう答えると男爵家に向けて手紙を飛ばしたのだった。
◇◇◇
「――ルドリアス子爵家から正式に謝罪をしたいそうだ」
襲撃者たちをゼオンのもとへ送ってから十日あまり経った頃、男爵家に呼び出されたと思ったら一枚の手紙を見せられた。
「なるほど。ゼオンから子爵に警告状が届いたのだろう。それで慌てて謝罪を申し出て来たってところか。手紙を送ったゼオンにではなくてこっちに送ってくるとは余程ゼオンが怖いのだろう」
「それはそうでしょう。私よりも格上の爵位とはいえ、子爵家は下級貴族。ゼオン様は上級貴族の侯爵家ですから懐柔しやすいのはどうみても私の方でしょうから」
手紙を読む俺を見ながらドンスタン男爵が苦笑いを見せる。ようやく自領の経営が上向き始めた時に起こった問題に苦慮しているのだろう。
「それで、どうされるのですか?」
「本件はすでにゼオン侯爵様に一任の形としているのだが、子爵家の三男がこちらに軟禁状態のままだからな。少なくともきちんとした謝罪とともに引取りに来てもらわなければ困るのだよ」
「ああ、そうでしたね。軟禁状態とはいえ、ちゃんとした扱いをしているのだからその対価は取るべきですね」
先日、横暴な態度で取り押さえられた三男は未だ男爵家の軟禁部屋に拘束されている。子爵家との話がつかなければ返す義理もないが、交渉の切り札にはなると思って待遇は普通よりも良くしている。その分コストもかかるが、引き渡し時にふっかけてやれば問題ない。
「当然、そうするつもりだよ。せっかくの機会だ、領内の財政に貢献してもらうつもりだよ。それで、子爵を迎えるにあたってグラン殿に相談したいことがあるのだよ」
そう告げた男爵は俺にある依頼をしたのだった。
◇◇◇
――子爵家当主から連絡が入って二週間後。正規の道を通り男爵領まで辿り着いたルドリアス子爵は領主邸の前で冷や汗を流していた。そこにはズラリと立ち並ぶ騎士団兵士の列。その数、優に百人は下らないように見える。
「ば、ばかな。聞いた情報だと男爵家は財政難のために騎士団を解散していたはず。これだけの人数を雇い入れることなど不可能なはずだ」
左右にきちんと整列した騎士団兵士はその手に剣や槍を携えて来訪者の動向を注視している。
「これは、ルドリアス子爵様ですね。私は当男爵家の再建顧問を請け負っていますグランと申します。お見知りおきを」
俺は男爵本人には出迎えをさせずにゼオンに借りた騎士団と一緒に出迎えをした。向こうの方が家柄は上だが、今回は向こうが謝罪に来たのだ。わざわざこちら側がへりくだる必要はない。
「う、うむ。出迎えご苦労。して、男爵と面会したいのだが案内してもらえるか?」
「どうぞ、こちらへ」
俺はわざとらしくお辞儀をすると澄ました表情で方向転換をして子爵当人を連れて屋敷の入口へと歩き出した。
「――こちらの部屋になります」
俺が案内したのは屋敷の応接室。そこにドンスタン男爵と娘のセシリアが待っていた。
「ようこそ、ルドリアス子爵。遠路はるばるお越しいただきありがとうございます」
「そんな挨拶はどうでもいいから、早々に本題へ入れ」
男爵が形式的ではあるが丁寧な挨拶をすると子爵は苛立ちを見せ、吐き捨てるように告げる。
「そうですか。そうおっしゃっていただけるならそうしましょう」
ドンスタンはそう告げると穏やかな表情で子爵家への要望が書かれた書類をルドリアスの前に差し出したのだった。
31
あなたにおすすめの小説
追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜
たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。
だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。
契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。
農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。
そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。
戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
※本作は小説家になろうでも投稿しています。
【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~
御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。
十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。
剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。
十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。
紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。
十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。
自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。
その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。
※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~
たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。
たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。
薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。
仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。
剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。
ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる