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第52話【薬師ギルドからの訪問者】
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次の日の朝、リリスは少し早めに起き出してきて昨夜出来なかった入浴をしながら身体の調子が良い事に驚き考え込んでいた。
(やっぱりナオキの治癒魔法には疲労回復の効果もちゃんとあるし、お肌の調子を整える効果も見られるようね。
ちょっと恥ずかしいけど毎日やってもらう価値は十分にあるわよね)
鏡に写る自分の顔や身体の肌の張り具合に満足しながらリリスはお風呂から上がった。
「ーーーおはよう。身体の調子はどうだい?」
ほんの少し前に目が覚めた僕は台所で紅茶を淹れてゆっくりとしていたところへ風呂上がりのリリスが少しばかりラフで胸元のはだけた格好で入ってきた。
「あっ、おはようございま……す」
まだ起きて来ていないと思っていた僕が台所に居た事に動揺したリリスは一瞬固まり、挨拶もそこそこに自分の部屋に飛び込んだ。
ーーー数分後、何事も無かったように平静を装ったリリスがオシャレな部屋着を纏って台所に戻ってきた。
「おはようございます。
昨夜は寝てしまってごめんなさい」
彼女の言葉に「昨日はお疲れ様だったね」と返す僕に「今日は凄く調子が良いみたいです。またお願いしますね」と頬を赤らめながらリリスは言った。
「あ、ああ。それは良かった。
さて、朝食を準備するとしようか、結局昨日の夕飯は食べてないからお腹が空いてるだろう?」
僕はそう言うと台所に立った。
「作ってくれるんですか?ありがとうございます。
じゃあ私は仕事着に着替えて来ますね」
「リリス、ちょっと待って」
たった今、わざわざきちんとした部屋着に着替えてきたのにもう仕事モードに入ろうとするリリスを引き止めた僕は「せっかく可愛い部屋着を着てきたんだからせめて朝食の間ぐらいは僕にも見せて欲しいな」とテーブルで待つように促した。
その後、簡単な朝食を作ってふたりで食べながら昨日見つけた薬師ギルドからの要望書をリリスに見せてどう対応するかを話し合った。
「何よこれ? 随分と一方的な言い分じゃないの。
怪我や病気を完全に治されたら薬が売れなくなって薬師が職を失うからどうにかしてくれって自分達の立場から言ってるだけで努力はしてるのかしらね?」
「まあ、正直言ってかなり厳しい状況なんだろうと思うよ。
女性であれば年齢に関係なく僕の治癒魔法で治してしまうから男性向きに販売する薬だけだと単純に今までの半分しか売れなくなったと言う事だろうし。
そのせいで薬師の半分が廃業に追い込まれるとなると何か対策をしていかないと駄目かもしれないな」
結局のところ結論は今日の診察が終わってから話し合う事にして診療所の開所準備を先にすることにした。
「では、お大事に……」
その日、最後の患者を見送ったリリスが診療所を閉めようとしていた時、後ろから声がかかった。
「すみません。この診療所の責任者の方はいらっしゃいますか?」
そこに居たのは黒っぽいローブを羽織った20歳くらいの女性だった。
「どちら様でしょうか?
本日の診察はもう終わりましたので治療依頼でしたら明日にご来所頂けたらと思います」
リリスは営業スマイルで女性に断りを入れた。
もちろん、彼女が治療依頼者ではないであろう事はリリスには分かっていたが敢えて業務定型文で返して相手の出方を見たのだ。
「いえ、治療依頼ではなくてこの診療所の責任者で治癒士の方にお話があり、取り次いで頂きたいのです。
あ、申し遅れましたが私は領都サナールの薬師ギルドのマスターをしている『ノーラ』と言います」
「はあ、私はこの診療所の受付兼事務全般を受け持っているリリスと言います。
今、彼は診療所の片付けで忙しいのですがどういったご要件でしょうか?」
リリスは毅然とした態度でノーラに向かい合った。
「いえいえ、たかが受付の方にお話をしても仕方のない内容ですので責任者にお取次ぎをお願いします」
ノーラも一歩も引かない。
薬師ギルドの代表として来たからには何が何でもナオキと話をして帰らなければ意味がないとばかりにリリスに詰め寄る。
一触即発の雰囲気に周りの空気が薄くなっているかのように感じられた時、診療所から声がかかった。
「リリス。せっかく向こうから来てくれたのだから話だけでも聞いてみよう。
但し、許容出来ない事は一切妥協するつもりはありませんけどね」
僕がそう伝えるとリリスがため息をついてから「分かりました。では応接室へどうぞ」とノーラを案内した。
「初めましてですね。
この診療所の治癒士を務めているナオキと言います。
こちらは事務、雑務の全般をお願いしているリリスです」
先にこちら側が自己紹介をする。
「領都サナール薬師ギルドのギルドマスターを務めているノーラです。
まずは話し合いの場を設けて頂きありがとうございます」
ノーラが僕に軽く頭を下げる。
彼女もギルドの代表として来ている手前、いきなり喧嘩腰での話し方はせずに礼儀をわきまえての会話を心がけているようだ。
ここからはお互いの意地とプライドをかけた駆け引きが始まろうとしていた。
(やっぱりナオキの治癒魔法には疲労回復の効果もちゃんとあるし、お肌の調子を整える効果も見られるようね。
ちょっと恥ずかしいけど毎日やってもらう価値は十分にあるわよね)
鏡に写る自分の顔や身体の肌の張り具合に満足しながらリリスはお風呂から上がった。
「ーーーおはよう。身体の調子はどうだい?」
ほんの少し前に目が覚めた僕は台所で紅茶を淹れてゆっくりとしていたところへ風呂上がりのリリスが少しばかりラフで胸元のはだけた格好で入ってきた。
「あっ、おはようございま……す」
まだ起きて来ていないと思っていた僕が台所に居た事に動揺したリリスは一瞬固まり、挨拶もそこそこに自分の部屋に飛び込んだ。
ーーー数分後、何事も無かったように平静を装ったリリスがオシャレな部屋着を纏って台所に戻ってきた。
「おはようございます。
昨夜は寝てしまってごめんなさい」
彼女の言葉に「昨日はお疲れ様だったね」と返す僕に「今日は凄く調子が良いみたいです。またお願いしますね」と頬を赤らめながらリリスは言った。
「あ、ああ。それは良かった。
さて、朝食を準備するとしようか、結局昨日の夕飯は食べてないからお腹が空いてるだろう?」
僕はそう言うと台所に立った。
「作ってくれるんですか?ありがとうございます。
じゃあ私は仕事着に着替えて来ますね」
「リリス、ちょっと待って」
たった今、わざわざきちんとした部屋着に着替えてきたのにもう仕事モードに入ろうとするリリスを引き止めた僕は「せっかく可愛い部屋着を着てきたんだからせめて朝食の間ぐらいは僕にも見せて欲しいな」とテーブルで待つように促した。
その後、簡単な朝食を作ってふたりで食べながら昨日見つけた薬師ギルドからの要望書をリリスに見せてどう対応するかを話し合った。
「何よこれ? 随分と一方的な言い分じゃないの。
怪我や病気を完全に治されたら薬が売れなくなって薬師が職を失うからどうにかしてくれって自分達の立場から言ってるだけで努力はしてるのかしらね?」
「まあ、正直言ってかなり厳しい状況なんだろうと思うよ。
女性であれば年齢に関係なく僕の治癒魔法で治してしまうから男性向きに販売する薬だけだと単純に今までの半分しか売れなくなったと言う事だろうし。
そのせいで薬師の半分が廃業に追い込まれるとなると何か対策をしていかないと駄目かもしれないな」
結局のところ結論は今日の診察が終わってから話し合う事にして診療所の開所準備を先にすることにした。
「では、お大事に……」
その日、最後の患者を見送ったリリスが診療所を閉めようとしていた時、後ろから声がかかった。
「すみません。この診療所の責任者の方はいらっしゃいますか?」
そこに居たのは黒っぽいローブを羽織った20歳くらいの女性だった。
「どちら様でしょうか?
本日の診察はもう終わりましたので治療依頼でしたら明日にご来所頂けたらと思います」
リリスは営業スマイルで女性に断りを入れた。
もちろん、彼女が治療依頼者ではないであろう事はリリスには分かっていたが敢えて業務定型文で返して相手の出方を見たのだ。
「いえ、治療依頼ではなくてこの診療所の責任者で治癒士の方にお話があり、取り次いで頂きたいのです。
あ、申し遅れましたが私は領都サナールの薬師ギルドのマスターをしている『ノーラ』と言います」
「はあ、私はこの診療所の受付兼事務全般を受け持っているリリスと言います。
今、彼は診療所の片付けで忙しいのですがどういったご要件でしょうか?」
リリスは毅然とした態度でノーラに向かい合った。
「いえいえ、たかが受付の方にお話をしても仕方のない内容ですので責任者にお取次ぎをお願いします」
ノーラも一歩も引かない。
薬師ギルドの代表として来たからには何が何でもナオキと話をして帰らなければ意味がないとばかりにリリスに詰め寄る。
一触即発の雰囲気に周りの空気が薄くなっているかのように感じられた時、診療所から声がかかった。
「リリス。せっかく向こうから来てくれたのだから話だけでも聞いてみよう。
但し、許容出来ない事は一切妥協するつもりはありませんけどね」
僕がそう伝えるとリリスがため息をついてから「分かりました。では応接室へどうぞ」とノーラを案内した。
「初めましてですね。
この診療所の治癒士を務めているナオキと言います。
こちらは事務、雑務の全般をお願いしているリリスです」
先にこちら側が自己紹介をする。
「領都サナール薬師ギルドのギルドマスターを務めているノーラです。
まずは話し合いの場を設けて頂きありがとうございます」
ノーラが僕に軽く頭を下げる。
彼女もギルドの代表として来ている手前、いきなり喧嘩腰での話し方はせずに礼儀をわきまえての会話を心がけているようだ。
ここからはお互いの意地とプライドをかけた駆け引きが始まろうとしていた。
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