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最終話【夢に見た理想のかたち】
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――新たな屋敷への引っ越しはすぐに終わった。
もともと仮の住まいであったので必要なものしか置いていなかった事、そして僕のチートな収納魔法のおかげで人手も不要というなんともあっさりとした引っ越しとなったのだ。
「本当にあっさりと終わりましたね」
ナナリーが呆気にとられながらも呟く。
「ええ、何度見てもチートすぎる魔法よね。
そういえば最初の頃はこれで依頼をこなして依頼料を稼いでいたのよね。懐かしい話だけど……」
リリスもため息をつきながら僕が次々と荷物を置いていく姿を眺めている。
「よし、これで全部かな?」
家具も全てそのままの形で収納されているので引っ越し先での作業も全てなにもないので初めは掃除道具を持っていたふたりも終わる頃にはお茶の準備をして見てるだけとなっていた。
「お疲れ様?」
リリスの言葉に「どうして疑問形なんだよ」と返す僕に「だって、魔法で出した荷物を設置していっただけで重い物ひとつ抱えてないじゃないの」と苦笑いをしながら言った。
「まあ、実際そうなんだけどね」
僕は頭を掻きながらリリスの渡してくれた紅茶のカップを受け取って口をつける。
「そういえば診療室の隣に調薬室も併設してあったけど機材は揃ってるの?」
「はい。薬師ギルドにお願いして調薬に必要な機材は全て調達して貰いました。
まだレベルの高い調薬は私では出来ませんから必要に応じてギルドから人を派遣して貰う約束になってます。
最終的には全て私が出来るようになれば良いのでしょうけどもう少し待ってくださいね」
ナナリーは自分の城である調薬室の新しい機材を撫でながらそう言った。
「医療と調薬か……。
なんだか前世の医療体制もそんなふうに分担されていたんだよな。
僕はもともと救急救命士であって医者ではなかったんだけど医療の詳しい知識も無いのに女性だけとはいえ、無制限に治療出来る事にきっと浮かれていたのだろう。
また、どんなに難しい治療が出来ても世界中の人を癒やす事は物理的に不可能だろうし、そんな事は誰も望んではいないのかもしれない。
ようするに僕の自己満足に過ぎなかったって事なんだな」
僕が自嘲気味に呟くと「そんな事はないと思うわ」と横で聞いていたリリスが反論してきた。
「確かにこれまでナオキのしてきた事はあなたがやりたいと思った事を女神様から授かった能力《スキル》で強引に皆に認めさせてきたふしはあるわ。
でも、そのおかげで人生そのものが救われた人も大勢いることもまた事実なの。
私もそうだし、ナナリーさんもそう。
あなたのやってきたことが決して無駄ではなかったのは私達が証明してあげるわ。
だから、これからもあなたの思うがままにやってみて。
もし、よからぬ方向にそれたら私がグーで目を覚ましてあげるから」
リリスはそう言うと右手の手のひらで握りこぶしを作りながら笑顔で僕に向って突き出した。
「わっ 私もずっと側で見てますから権利をください!」
ナナリーの叫びに僕は「……殴る権利を? うわっ 痛そうだな」と頬をさする真似をした。
「ち、違いますよ! 間違いを正す発言をする権利ですよぉ」
ナナリーは涙目になりながらそう言い直した。
「ははは、わかっているよ。
ナナリーもそんな時は遠慮なく言ってくれて構わないからね。
とにかく、明日からまた僕を必要としてくれる人達との面談を再会するよ。
基本方針は変わらず薬師ギルドで治療の難しい患者さんのみで先に面談してから治療にはいる流れでいくことになる。
まあ、前のように女性の胸を触らなければ治療出来なかった時に比べれば患者さんの精神的負担も軽減されたし、僕の心の緊張も軽減されたからね」
「――それって私が隣で見ていたから?」
リリスが意地悪な質問をしてきたので僕は「そんな事はないよ」とうそぶいた。
「うふふ。まあ、そういう事にしておいてあげるわ」
リリスの言葉にナナリーが「ナオキ様、触りたいのであればいつでも言ってくださいね」と大きな胸を強調しながら少し期待を込めてしれっと言った。
(――役割分担で出来る事を……か。
この世界に来るときに女神様にお願いした『人を治す奇跡の力』は確かに万能だったけど結局のところ僕ひとりではたいした事は出来なかった。
リリスに出合っていろいろと助けて貰って初めて治癒の魔法が意味を成した事からも独りよがりがいかに無駄になる行為だったかがよく分かった……)
「そうか……。これが本当に僕がやりたかった形だったんだな」
「え? なにか言った?」
リリスの問に僕は言葉を濁しながら「いや、そういえば新しい診療所の看板をどうするか決めてなかったよな」と返すと「そんなの決まってるじゃない」と言いきってスラスラと紙に書いて見せてくれた。
そこには……。
【患部に触れて怪我を治す治癒士があなたの全てを癒やします(但し女性限定)】
【病気のお悩みも薬師を交えて相談を伺います(但し女性限定)】
「――結局『女性限定』は外せなかったけど世の中は女性が元気になればつられて男性も元気になるものだよな」
「そんなものなんですか?」
「そんなものなんだよ。男はみんな見栄っ張りのカッコつけたがりばかりだからね」
その時、入口からダルマルの声が聞こえた。
「ナオキ様。薬師ギルドから緊急の依頼が来ているようです」
「分かった。すぐに対応するよ。
さあて、しっかり治してかっこいいところを見せるとするか。
リリス、ナナリー。これからもサポート宜しく頼むよ」
そう言った僕の心は晴天の青空のように澄み渡っていた。
ー 完 ー
もともと仮の住まいであったので必要なものしか置いていなかった事、そして僕のチートな収納魔法のおかげで人手も不要というなんともあっさりとした引っ越しとなったのだ。
「本当にあっさりと終わりましたね」
ナナリーが呆気にとられながらも呟く。
「ええ、何度見てもチートすぎる魔法よね。
そういえば最初の頃はこれで依頼をこなして依頼料を稼いでいたのよね。懐かしい話だけど……」
リリスもため息をつきながら僕が次々と荷物を置いていく姿を眺めている。
「よし、これで全部かな?」
家具も全てそのままの形で収納されているので引っ越し先での作業も全てなにもないので初めは掃除道具を持っていたふたりも終わる頃にはお茶の準備をして見てるだけとなっていた。
「お疲れ様?」
リリスの言葉に「どうして疑問形なんだよ」と返す僕に「だって、魔法で出した荷物を設置していっただけで重い物ひとつ抱えてないじゃないの」と苦笑いをしながら言った。
「まあ、実際そうなんだけどね」
僕は頭を掻きながらリリスの渡してくれた紅茶のカップを受け取って口をつける。
「そういえば診療室の隣に調薬室も併設してあったけど機材は揃ってるの?」
「はい。薬師ギルドにお願いして調薬に必要な機材は全て調達して貰いました。
まだレベルの高い調薬は私では出来ませんから必要に応じてギルドから人を派遣して貰う約束になってます。
最終的には全て私が出来るようになれば良いのでしょうけどもう少し待ってくださいね」
ナナリーは自分の城である調薬室の新しい機材を撫でながらそう言った。
「医療と調薬か……。
なんだか前世の医療体制もそんなふうに分担されていたんだよな。
僕はもともと救急救命士であって医者ではなかったんだけど医療の詳しい知識も無いのに女性だけとはいえ、無制限に治療出来る事にきっと浮かれていたのだろう。
また、どんなに難しい治療が出来ても世界中の人を癒やす事は物理的に不可能だろうし、そんな事は誰も望んではいないのかもしれない。
ようするに僕の自己満足に過ぎなかったって事なんだな」
僕が自嘲気味に呟くと「そんな事はないと思うわ」と横で聞いていたリリスが反論してきた。
「確かにこれまでナオキのしてきた事はあなたがやりたいと思った事を女神様から授かった能力《スキル》で強引に皆に認めさせてきたふしはあるわ。
でも、そのおかげで人生そのものが救われた人も大勢いることもまた事実なの。
私もそうだし、ナナリーさんもそう。
あなたのやってきたことが決して無駄ではなかったのは私達が証明してあげるわ。
だから、これからもあなたの思うがままにやってみて。
もし、よからぬ方向にそれたら私がグーで目を覚ましてあげるから」
リリスはそう言うと右手の手のひらで握りこぶしを作りながら笑顔で僕に向って突き出した。
「わっ 私もずっと側で見てますから権利をください!」
ナナリーの叫びに僕は「……殴る権利を? うわっ 痛そうだな」と頬をさする真似をした。
「ち、違いますよ! 間違いを正す発言をする権利ですよぉ」
ナナリーは涙目になりながらそう言い直した。
「ははは、わかっているよ。
ナナリーもそんな時は遠慮なく言ってくれて構わないからね。
とにかく、明日からまた僕を必要としてくれる人達との面談を再会するよ。
基本方針は変わらず薬師ギルドで治療の難しい患者さんのみで先に面談してから治療にはいる流れでいくことになる。
まあ、前のように女性の胸を触らなければ治療出来なかった時に比べれば患者さんの精神的負担も軽減されたし、僕の心の緊張も軽減されたからね」
「――それって私が隣で見ていたから?」
リリスが意地悪な質問をしてきたので僕は「そんな事はないよ」とうそぶいた。
「うふふ。まあ、そういう事にしておいてあげるわ」
リリスの言葉にナナリーが「ナオキ様、触りたいのであればいつでも言ってくださいね」と大きな胸を強調しながら少し期待を込めてしれっと言った。
(――役割分担で出来る事を……か。
この世界に来るときに女神様にお願いした『人を治す奇跡の力』は確かに万能だったけど結局のところ僕ひとりではたいした事は出来なかった。
リリスに出合っていろいろと助けて貰って初めて治癒の魔法が意味を成した事からも独りよがりがいかに無駄になる行為だったかがよく分かった……)
「そうか……。これが本当に僕がやりたかった形だったんだな」
「え? なにか言った?」
リリスの問に僕は言葉を濁しながら「いや、そういえば新しい診療所の看板をどうするか決めてなかったよな」と返すと「そんなの決まってるじゃない」と言いきってスラスラと紙に書いて見せてくれた。
そこには……。
【患部に触れて怪我を治す治癒士があなたの全てを癒やします(但し女性限定)】
【病気のお悩みも薬師を交えて相談を伺います(但し女性限定)】
「――結局『女性限定』は外せなかったけど世の中は女性が元気になればつられて男性も元気になるものだよな」
「そんなものなんですか?」
「そんなものなんだよ。男はみんな見栄っ張りのカッコつけたがりばかりだからね」
その時、入口からダルマルの声が聞こえた。
「ナオキ様。薬師ギルドから緊急の依頼が来ているようです」
「分かった。すぐに対応するよ。
さあて、しっかり治してかっこいいところを見せるとするか。
リリス、ナナリー。これからもサポート宜しく頼むよ」
そう言った僕の心は晴天の青空のように澄み渡っていた。
ー 完 ー
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