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第11話 クナラ治癒院の開業
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工房に迎え入れた父にロイルが香茶を淹れてくれる。
横の休憩スペースのテーブルを挟んでふたりは向かい合わせに座ってお互いの顔を見た。
「あれからもう二年たったのか、早いものだ。サクラもまだ研鑚の余地はあるが一人前の錬金調薬師としてやってくれているようで安心したよ」
父はこちらの気持ちを知ってか知らずか暫く離れていただけの親子のような穏やかな会話を始めた。
「はあ? その未熟な娘を置いて他国へ行ったのは何処の誰でしたっけ? それがいきなり帰って来たとたんに父親づらするなんでどういう了見かしらね」
私は二年分の不満を前面に出しながら父にそう苦言を言う。
「――全てはお前のためだ」
父からの予想外の言葉に私はブチ切れて声を荒げて叫んだ。
「なに勝手な事を言ってるのよ! 私がどれだけ大変だったか分かってないでしょ! 何が私のためよ! 家を、錬金調薬師の道を捨てたアンタにはそんなこと言われたくないわ!」
私は肩で息をしながら全てを吐き出す。
「そうだな、そう言われても仕方ない。俺は自分の信念のもとでこの道を選んだ。いまさら許しを請うつもりはない。まあ、俺のやり方をしっかり見てるんだな」
クナラはそう言って出された香茶もそこそこに席を立って工房から出て行った。
そんな父親の不遜な態度に私は憤りを感じてその背中を睨みつけながらロイルに疑問を投げつける。
「そういえばお店の場所についてはギルドマスターが言いにくそうにしていたけど、ロイルはあの人から何か聞いた? ギルドマスターには帰れば分かるとだけ言われたけど」
その言葉にロイルは少し困った表情を見せて迷いながらも教えてくれた。
「この工房の向かい側の空き家で治癒院を開業すると言われていました」
「はあ。よりにもよって目の前で開業するとか完全に喧嘩を売ってると思って良いわよね?」
「お父様からすればお嬢様が目の届くところに居たいのですよ」
「やめてよ。私からは絶対に折れたりはしないからね」
ロイルからすれば雇われた主人はあくまで父であるので私を尊重してくれながらも父を無下には出来ないのだろうと思いながらも私の感情は穏やかではなかった。
◇◇◇
それから父の治癒院は一週間もしないうちに開業の日を迎えていた。
街全体でみても少ない治癒院の新たな開業に近隣の住民は興味津々で病気にかかった者は次々と父のもとを訪れていた。
「たった二年程の修行で取得したような治癒魔法なんてそれほどのものでは無いと思うんだけど、やっぱり治癒魔法は人気なのね」
特定の病気にしか効果の薄いポーションよりも万能で治療出来る治癒魔法の人気は凄まじいもので一瞬にして私の工房は閑古鳥が鳴き、父の治癒院は連日多くの患者が訪れているのを苦々しく眺めながら私がロイルに愚痴をこぼす。
「ちょうど良いではないですか」
「何がちょうど良いのよ!」
ロイルの言葉に私がすぐさま反論すると彼女は優しく微笑みながら私を諭してくる。
「いいですか。お嬢様はまだ上位の錬金調薬が出来ておりません。今の状態で患者が大勢来たとしても十分なポーションを渡すことは出来ないでしょう。この際ですからお父様への嫉妬はゴミ箱に捨ててしまってご自分のレベルアップをされた方が有意義な日々を送れると思いますが?」
「うっ……」
ロイルの正論に私はぐうの音も出ずに「わかったわよ」と言って工房へと戻った。
「とりあえず錬金レベルを上げないといけないから中級ポーションを作ることにするわね」
「中級ポーションですね。では、素材を準備しますので頑張ってくださいね」
私はロイルの準備する素材を確かめながら出来るだけ丁寧に調薬をしていく。
「これで三本目か。品質も安定して中級レベルは作れるようになってきたわね」
私は出来上がったばかりの中級ポーションを眺めながらふと思いついた事をロイルに話す。
「ねえ、ロイル。私には錬金調薬のスキルがあるじゃない?」
「はい、そうですね」
「スキルって一人に対して一つしか無いのかな?」
いつものただの愚痴とは違う真剣な顔で言う私にロイルも真面目に答えてくれた。
「以前もお話したと思いますが、スキルは先天性のもので血筋など家系からの遺伝によるものが大多数を占めると言われています」
「それに対して魔法は後天的だったわね」
「はい。現在、お嬢様には錬金調薬スキルが確認されていますが、それは錬金調薬師の家系であるために幼い時に確認しただけで複数スキルを持っていない証明にはなりません」
「それってどうしたら確認出来るの?」
「スキルの確認は専門のスキル鑑定士に頼むしかありません。彼らは国の専門機関に所属し、人々のスキルを有効に使えるように指導をしているのです。十歳の時に一度見てもらっているので今回新たに確認してもらうには料金がかかることと何も出ない可能性も十分にあることは認識してください」
ロイルはそう言うと工房の棚からケースに入った一枚の紙を取り出して私の前に置いた。
「これはお嬢様が十歳の時に鑑定してもらったものです。ここには鑑定調薬のスキル適性があると書かれています。この結果を持って再検査をお願いすることにしましょう」
「ただの思いつきなのに迷惑かけちゃうわね」
「気にされなくても大丈夫ですよ。万が一でも新たなスキルが見つかれば錬金調薬師としてだけでなく、新たなお嬢様が見つかるかもしれませんので」
ロイルはそう言うと使い残した素材の片づけをしながら明日の予定を決めてくれた。
「明日は工房を閉めて朝から行きますよ。お父様の治癒院があるので緊急の依頼も入らないでしょうから」
「ひとこと多い気もするけどわかったわ。お願いねロイル」
こうして父のせいで暇になった私は新たなスキル適正を求めてスキル鑑定士の所へ行く事にしたのだった。
横の休憩スペースのテーブルを挟んでふたりは向かい合わせに座ってお互いの顔を見た。
「あれからもう二年たったのか、早いものだ。サクラもまだ研鑚の余地はあるが一人前の錬金調薬師としてやってくれているようで安心したよ」
父はこちらの気持ちを知ってか知らずか暫く離れていただけの親子のような穏やかな会話を始めた。
「はあ? その未熟な娘を置いて他国へ行ったのは何処の誰でしたっけ? それがいきなり帰って来たとたんに父親づらするなんでどういう了見かしらね」
私は二年分の不満を前面に出しながら父にそう苦言を言う。
「――全てはお前のためだ」
父からの予想外の言葉に私はブチ切れて声を荒げて叫んだ。
「なに勝手な事を言ってるのよ! 私がどれだけ大変だったか分かってないでしょ! 何が私のためよ! 家を、錬金調薬師の道を捨てたアンタにはそんなこと言われたくないわ!」
私は肩で息をしながら全てを吐き出す。
「そうだな、そう言われても仕方ない。俺は自分の信念のもとでこの道を選んだ。いまさら許しを請うつもりはない。まあ、俺のやり方をしっかり見てるんだな」
クナラはそう言って出された香茶もそこそこに席を立って工房から出て行った。
そんな父親の不遜な態度に私は憤りを感じてその背中を睨みつけながらロイルに疑問を投げつける。
「そういえばお店の場所についてはギルドマスターが言いにくそうにしていたけど、ロイルはあの人から何か聞いた? ギルドマスターには帰れば分かるとだけ言われたけど」
その言葉にロイルは少し困った表情を見せて迷いながらも教えてくれた。
「この工房の向かい側の空き家で治癒院を開業すると言われていました」
「はあ。よりにもよって目の前で開業するとか完全に喧嘩を売ってると思って良いわよね?」
「お父様からすればお嬢様が目の届くところに居たいのですよ」
「やめてよ。私からは絶対に折れたりはしないからね」
ロイルからすれば雇われた主人はあくまで父であるので私を尊重してくれながらも父を無下には出来ないのだろうと思いながらも私の感情は穏やかではなかった。
◇◇◇
それから父の治癒院は一週間もしないうちに開業の日を迎えていた。
街全体でみても少ない治癒院の新たな開業に近隣の住民は興味津々で病気にかかった者は次々と父のもとを訪れていた。
「たった二年程の修行で取得したような治癒魔法なんてそれほどのものでは無いと思うんだけど、やっぱり治癒魔法は人気なのね」
特定の病気にしか効果の薄いポーションよりも万能で治療出来る治癒魔法の人気は凄まじいもので一瞬にして私の工房は閑古鳥が鳴き、父の治癒院は連日多くの患者が訪れているのを苦々しく眺めながら私がロイルに愚痴をこぼす。
「ちょうど良いではないですか」
「何がちょうど良いのよ!」
ロイルの言葉に私がすぐさま反論すると彼女は優しく微笑みながら私を諭してくる。
「いいですか。お嬢様はまだ上位の錬金調薬が出来ておりません。今の状態で患者が大勢来たとしても十分なポーションを渡すことは出来ないでしょう。この際ですからお父様への嫉妬はゴミ箱に捨ててしまってご自分のレベルアップをされた方が有意義な日々を送れると思いますが?」
「うっ……」
ロイルの正論に私はぐうの音も出ずに「わかったわよ」と言って工房へと戻った。
「とりあえず錬金レベルを上げないといけないから中級ポーションを作ることにするわね」
「中級ポーションですね。では、素材を準備しますので頑張ってくださいね」
私はロイルの準備する素材を確かめながら出来るだけ丁寧に調薬をしていく。
「これで三本目か。品質も安定して中級レベルは作れるようになってきたわね」
私は出来上がったばかりの中級ポーションを眺めながらふと思いついた事をロイルに話す。
「ねえ、ロイル。私には錬金調薬のスキルがあるじゃない?」
「はい、そうですね」
「スキルって一人に対して一つしか無いのかな?」
いつものただの愚痴とは違う真剣な顔で言う私にロイルも真面目に答えてくれた。
「以前もお話したと思いますが、スキルは先天性のもので血筋など家系からの遺伝によるものが大多数を占めると言われています」
「それに対して魔法は後天的だったわね」
「はい。現在、お嬢様には錬金調薬スキルが確認されていますが、それは錬金調薬師の家系であるために幼い時に確認しただけで複数スキルを持っていない証明にはなりません」
「それってどうしたら確認出来るの?」
「スキルの確認は専門のスキル鑑定士に頼むしかありません。彼らは国の専門機関に所属し、人々のスキルを有効に使えるように指導をしているのです。十歳の時に一度見てもらっているので今回新たに確認してもらうには料金がかかることと何も出ない可能性も十分にあることは認識してください」
ロイルはそう言うと工房の棚からケースに入った一枚の紙を取り出して私の前に置いた。
「これはお嬢様が十歳の時に鑑定してもらったものです。ここには鑑定調薬のスキル適性があると書かれています。この結果を持って再検査をお願いすることにしましょう」
「ただの思いつきなのに迷惑かけちゃうわね」
「気にされなくても大丈夫ですよ。万が一でも新たなスキルが見つかれば錬金調薬師としてだけでなく、新たなお嬢様が見つかるかもしれませんので」
ロイルはそう言うと使い残した素材の片づけをしながら明日の予定を決めてくれた。
「明日は工房を閉めて朝から行きますよ。お父様の治癒院があるので緊急の依頼も入らないでしょうから」
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