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第十五幕
しおりを挟むその後俺は一週間ほど寝込んだ。死んでなかった。生きていた。
カイも無事だった。しかし記憶が曖昧になっていてイワンに刺された二、三日前からの記憶がないそうだ。それならそれでよかったなと思った。魔物を口から吐き出すとか刺し殺されるとか、わりとおぞましい経験だ。知らないならその方がいい。
俺とカイのように魔物が体に入り込む事例は最近増えていて、その対策を第一特務隊も行っていた。ということを俺は全く知らなかったんだがミランダ王女が来たときに説明してたらしい、いやほんと聞いてなかった。
団内で魔物の調査とかした結果、あのワインレッドの封筒の送り主が魔物を市街に撒き散らしている犯人と判り、捕縛されたらしい。
あとそれとは別件で俺の控え室に鶏肉撒き散らしたり、細かく嫌がらせをしてきていた団員も処分された。
イワンは俺の護衛をしつつ、俺の周りの身辺調査などもしていたそうだ。ものすごく優秀すぎないか?惚れ直す。
そんなイワンの活躍を聞きつつも俺はカイを見習ってララの部屋でのことは記憶喪失になろうと心に誓った。
体がバキバキだし色々あれやこれやだが、どうにかなるだろうと思った。だって土下座してるイワンとか他のやつに知られるわけにいかないし、そこまで罪の意識にさいなまれて責任を取ると言われても困る。
俺は遠くから見守ってるだけでいいんだ。
「いい天気ですね」
「……そうですね」
なのに何故か俺の隣にはイワンが座っている。なぜだ? なぜなんだ??
ローズガーデンと呼ばれるここは、早くて一年後の予約しか取れないという人気のレストランだ。天気がよければ広いバラ園の中で食事が楽しめる。
まあつまりイワンは一年前から誰かを誘うつもりで予約してたんだろう。それに何故俺が呼ばれるのか。
俺たちの予約の時間まではまだあったのでバラ園のベンチに並んで座っている。これならイワンが視界に入らないからいい。いやなんか勿体ないな折角なら見たいけど。
あの事件から一ヶ月たち次の舞台の話が出始めた頃、イワンに食事に誘われた。あの日から俺がイワンと話すことはなかった。俺が寝込んでる間に事後処理を片付けて、俺の護衛の任務を終了させていたからだ。だからあのララの部屋での土下座がイワンを見た最後の姿だったりする。忘れるものかあの背筋の美しさを。あ、いや、記憶は失ったことにするが。
「そろそろ返事を聞かせてもらえないでしょうか」
心地のよい声に言われて俺は首をかしげる。
「返事とは何のことでしょう?」
「あのときのプロポーズの返事です」
「……記憶にないので、魔物を倒していただいた時にでもその話をされたんでしょうか?」
よしよし、このまましらを切り通すぞ!
表情筋を殺して答えた俺の前にイワンはベンチから立ち上がると跪いた。
「では改めてシャクナさん、貴方を愛しています。わたしの妻になってください」
この国では男を妻にする者もいるので、そこまで変な申し出ではない。
跪いて手を差し伸べる姿があまりにも様になっている。今にも抱き付きたい、が。
「お断りします」
俺は無表情のままはっきりと答えた。
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