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本編
(10)獣人狩り・4
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男は地の利があるのか迷わずに前進しているが、荷物を担いでいるというハンデがある。森の中は走りにくかったが追尾するのは難しくなかった。
あと、数メートルで追いつく。
剣を抜こうとした瞬間。
「……うわっ!!!」
ガンっ! とものすごい衝撃が右足に走り、そのまま足を取られて転倒した。
顔面から倒れないように利き腕でない左肩が下になるように体をひねる。
「…な、んだ?」
原因を見ればそれはすぐにわかった。
罠だ。
本来動物を捕獲するための物だろう、上下の歯のような形の金属に右足首をがっちりと噛みつかれている。
金属の歯についている鎖が地面に埋まっており、足を引っ張ってもガシャンガシャンと鎖の音がするだけで外れそうもない。金属の歯を切り刻めるかは微妙なところだが、風魔法で粉砕を試みる。
「<我は乞う、風の精霊、刃となって切り裂けっ> ……魔法が、発動しない??」
「何だ脅かしやがって、ガキじぇねえか」
数メートル先に居たはずの男の声がすぐ近くですると、右肩に足をかけられ蹴られて、仰向けにさせられた。
見上げれば男が立っていた。荷物はどこかにおろしていたのか、背負っていない。
いや、違う。こいつは追っていた男じゃ……ない。
「そいつら急に襲ってきたんですよ、獣人じゃねえのか?」
「どうみても、ヒトだな」
きっと俺が追いかけていた男も近くにいるんだろう。ソイツと話している。
俺を覗き込んできた男は50代かそんなものか、髭や髪も整えず泥なのか垢なのか判らないものをつけた汚らしい顔に下品な笑いを浮かべている。
「しかも、すげぇ綺麗なガキだな。こいつも高く売れそうだ」
「さっ……」
汚い手で顎を掴まれたそうになったので、振り払おうとした。が、身体が動かない。
いや、それどころか言葉も、出ない。
麻痺毒の類か。罠にかかった足も痛みがない。かなり食い込んでいたからあれが痛まないわけがない……罠に毒と魔法を封じる何かが仕込まれていたのだろう。
「おいおい、自分で追っかけてきといて、そんな驚くもんじゃねぇぞ」
「おわ、ほんとだ。こいつ女ですかね」
「いや、男だろ」
そういうと顎を掴んでいた手を離して俺の胸を鷲づかむ。
もちろん女性ではないからそこにふくよかな胸はない。掴めなかったからか、乱暴に俺の胸を叩く。顔の上を腕が通り、胸を触っているのは判るが……痛みを感じない。
体の振動、視界の揺れ方からすれば結構な殴打をされているはずだ。
「まっ平らだから男だ」
「胸がないからって男って決めるのは可哀想ですよ」
「じゃあチンコついてるか確認すりゃいいじゃねーか」
「あ、それはいい案ですね」
いい案もなにもあるか。こんな奴らの好きにされるわけにはいかない。
触られている感覚はないが生理的に凄く、気持ちが悪いし、不快だ。
この状態からすると追いかけているつもりで俺は完全に誘導されていたんだろう、仲間の元に。
いや、この右足の罠に、かもしれない。
どうにか抵抗をと思ったが、身体も動かなければ声も出ない。
「なんかこいつ、随分高そうな服着てますよ」
「お、ほんとだな。破らないで丁寧に脱がせよ。そしたら服も売れんだろ」
声が出れば、金を使って交渉する事も出来そうだが……胸を掴まれた時は少し触れられているという感覚があったが、今は完全に何も感じない。
どこか動けばと思ったが指もぴくりとも動かせない。
八方塞がりとはこのことか。でも、ここでこいつらを足止め出来ているのは良かったと思う。
俺の身体に興味があるのか、時間稼ぎには使えているようだ。こうなってしまうとレーヴン達が追いついてくれることを期待するしかない。
すぐに殺されないで済んでいるのは幸運だろう。
「……ぁっ」
「はは、怯えた顔、たまんないなこいつ。さっきの威勢はどうしたよ」
怯えたも何も顔の筋肉も動かない。俺の顔はいつもと変わらない冷ややかなもののはずだ。
その物言いからこいつらは嗜虐心が強いのだろうと判断する。それならまだしばらく俺をいたぶってくれるだろう。
髭面の男を見やれば、俺の視線が癇に障ったのか仰向けの身体の上から、踏みつけるように腹にドンっと蹴りを入れられた。身体がその衝撃でバウンドし息が詰まったが痛みはない。
俺の身体は完全に麻痺したようだ。随分と即効性の麻痺毒もあるものなんだな。
「おい、売り物にならなくなったらどうするんですか。あーやっぱり男か」
「今なら騒がれねぇし切っちまえよ、余計なもんついてねぇ方が高く売れる」
「結構優しいですね。ここで切ったら下手したら死にますよ。あっさり殺しちまうより、痛い思いさせてのたうち回らせて、生かしてやる方がいいじゃないかな。なあ、お前もその方がいいよな?」
どっちも嫌に決まっている。
俺を怯えさせたいのだろうが、あまりにも言動がお粗末すぎるな。……いやもしかしてただの本心なのか? そうだとしたらあまりにも下衆すぎるだろう。
「女は初モノの方が高く売れるけど、男は仕込んだ方がいいですよね」
ガシャンと足に食い込む罠の、鎖の音が響く。
視線を下半身に落とせば髭面の男ではない方、俺が追っていた男だろう、が俺の両足をつかみ、左足を高く持ち上げていた。
あと、数メートルで追いつく。
剣を抜こうとした瞬間。
「……うわっ!!!」
ガンっ! とものすごい衝撃が右足に走り、そのまま足を取られて転倒した。
顔面から倒れないように利き腕でない左肩が下になるように体をひねる。
「…な、んだ?」
原因を見ればそれはすぐにわかった。
罠だ。
本来動物を捕獲するための物だろう、上下の歯のような形の金属に右足首をがっちりと噛みつかれている。
金属の歯についている鎖が地面に埋まっており、足を引っ張ってもガシャンガシャンと鎖の音がするだけで外れそうもない。金属の歯を切り刻めるかは微妙なところだが、風魔法で粉砕を試みる。
「<我は乞う、風の精霊、刃となって切り裂けっ> ……魔法が、発動しない??」
「何だ脅かしやがって、ガキじぇねえか」
数メートル先に居たはずの男の声がすぐ近くですると、右肩に足をかけられ蹴られて、仰向けにさせられた。
見上げれば男が立っていた。荷物はどこかにおろしていたのか、背負っていない。
いや、違う。こいつは追っていた男じゃ……ない。
「そいつら急に襲ってきたんですよ、獣人じゃねえのか?」
「どうみても、ヒトだな」
きっと俺が追いかけていた男も近くにいるんだろう。ソイツと話している。
俺を覗き込んできた男は50代かそんなものか、髭や髪も整えず泥なのか垢なのか判らないものをつけた汚らしい顔に下品な笑いを浮かべている。
「しかも、すげぇ綺麗なガキだな。こいつも高く売れそうだ」
「さっ……」
汚い手で顎を掴まれたそうになったので、振り払おうとした。が、身体が動かない。
いや、それどころか言葉も、出ない。
麻痺毒の類か。罠にかかった足も痛みがない。かなり食い込んでいたからあれが痛まないわけがない……罠に毒と魔法を封じる何かが仕込まれていたのだろう。
「おいおい、自分で追っかけてきといて、そんな驚くもんじゃねぇぞ」
「おわ、ほんとだ。こいつ女ですかね」
「いや、男だろ」
そういうと顎を掴んでいた手を離して俺の胸を鷲づかむ。
もちろん女性ではないからそこにふくよかな胸はない。掴めなかったからか、乱暴に俺の胸を叩く。顔の上を腕が通り、胸を触っているのは判るが……痛みを感じない。
体の振動、視界の揺れ方からすれば結構な殴打をされているはずだ。
「まっ平らだから男だ」
「胸がないからって男って決めるのは可哀想ですよ」
「じゃあチンコついてるか確認すりゃいいじゃねーか」
「あ、それはいい案ですね」
いい案もなにもあるか。こんな奴らの好きにされるわけにはいかない。
触られている感覚はないが生理的に凄く、気持ちが悪いし、不快だ。
この状態からすると追いかけているつもりで俺は完全に誘導されていたんだろう、仲間の元に。
いや、この右足の罠に、かもしれない。
どうにか抵抗をと思ったが、身体も動かなければ声も出ない。
「なんかこいつ、随分高そうな服着てますよ」
「お、ほんとだな。破らないで丁寧に脱がせよ。そしたら服も売れんだろ」
声が出れば、金を使って交渉する事も出来そうだが……胸を掴まれた時は少し触れられているという感覚があったが、今は完全に何も感じない。
どこか動けばと思ったが指もぴくりとも動かせない。
八方塞がりとはこのことか。でも、ここでこいつらを足止め出来ているのは良かったと思う。
俺の身体に興味があるのか、時間稼ぎには使えているようだ。こうなってしまうとレーヴン達が追いついてくれることを期待するしかない。
すぐに殺されないで済んでいるのは幸運だろう。
「……ぁっ」
「はは、怯えた顔、たまんないなこいつ。さっきの威勢はどうしたよ」
怯えたも何も顔の筋肉も動かない。俺の顔はいつもと変わらない冷ややかなもののはずだ。
その物言いからこいつらは嗜虐心が強いのだろうと判断する。それならまだしばらく俺をいたぶってくれるだろう。
髭面の男を見やれば、俺の視線が癇に障ったのか仰向けの身体の上から、踏みつけるように腹にドンっと蹴りを入れられた。身体がその衝撃でバウンドし息が詰まったが痛みはない。
俺の身体は完全に麻痺したようだ。随分と即効性の麻痺毒もあるものなんだな。
「おい、売り物にならなくなったらどうするんですか。あーやっぱり男か」
「今なら騒がれねぇし切っちまえよ、余計なもんついてねぇ方が高く売れる」
「結構優しいですね。ここで切ったら下手したら死にますよ。あっさり殺しちまうより、痛い思いさせてのたうち回らせて、生かしてやる方がいいじゃないかな。なあ、お前もその方がいいよな?」
どっちも嫌に決まっている。
俺を怯えさせたいのだろうが、あまりにも言動がお粗末すぎるな。……いやもしかしてただの本心なのか? そうだとしたらあまりにも下衆すぎるだろう。
「女は初モノの方が高く売れるけど、男は仕込んだ方がいいですよね」
ガシャンと足に食い込む罠の、鎖の音が響く。
視線を下半身に落とせば髭面の男ではない方、俺が追っていた男だろう、が俺の両足をつかみ、左足を高く持ち上げていた。
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