偽王子は竜の加護を乞う

和泉臨音

文字の大きさ
19 / 55
本編

(19)やすらぎ

しおりを挟む

 竜の加護を得るために強くなろうと思ったとき、俺は悩まず剣を学ぼうと思った。

 理由は簡単だ。剣を自分の身体のように自在に扱うセダー兄上や、王宮騎士たちが俺にとっては「強さ」の象徴だったからだ。

 その裏に、どんな恐怖や責任があるのかなんて、今まで気付いていなかった。
 死を目の前にしたら恐怖する、それすらも俺は理解も想定もしていなかった。
 王宮で俺は本当に大事に育ててもらっていたんだと思う。

 指示を出し決断をすることも、俺は王子として当たり前に行う事だと思っていた。
 さすがにその場で生死の判断をする時は判るが、決断した物事の先で、人の生死が関わる可能性があることを考えたことがなかった。

 魔族の討伐をする時、王宮では俺達王族の決断が優先される。実行する騎士たちは俺達の決断に従ったという大義名分で自分の心を守るのだろう。意にそぐわなくても命令だ、逆らえないから仕方なかったと。
 そして俺達は直接手を下さないから実感がない。とても安泰だ。だから残酷な命令や決断ができる。
 多くの者はそうやって心との折り合いをつけて、剣を握っているのだろうと納得した。

 冒険者すべてがそうかはわからないが、少なくともレーヴン達は、決断する責任も実行する責任もメンバー全員で平等に分担しているのだろう。実際はレーヴンが決断をしているように見えたが、グリムラフもホルフも決定をレーヴン一人の責任とはしていない。王族として育った俺には持ちえない感覚だった。

 この旅において、レーヴンは俺に王族ではなく旅の仲間の一人として参加すればいいと、教えてくれたのだと思う。
 本物の王子でない俺には、なんともありがたい申し出だと思うのは自嘲だろうか。

 だけどレーヴンのその態度に、このまま他国に行って冒険者として生きるのもいいかもしれないと思えるほど、俺の心が救われていたのは確かだった。


 目が覚めると俺は一人でベッドに寝ていた。ちなみに昼前に寝たはずなのに夜中だった。
 ベッドの横の椅子にレーヴンは座っていて、地図を広げてなにやら唸っていたが、俺が目を覚ますとすぐに気付いてくれて準備してあった軽食を勧めてきた。
 眠れなかったのが嘘のように爆睡していたのか、レーヴンが離れたのも気付かなかった。ちなみに彼の寝癖は直っていたので、この部屋を出ていた時もあったのだろう。

 俺は起き上ると、今後の進路などをレーヴンと打ち合わせした。なんでも村長から山を越えずにこのまま村の街道を行き、竜の渓谷へ向かうルートもあると教えてもらったそうだ。三日位多く時間がかかるが、その方が平野を行けるので俺の足の負担にならないのではないかと提案された。
 俺はどちらがいいのだろうかと、山道や森の中を歩くことを想像してみたら、ぞくりと背筋が冷える感覚に襲われた。それを見たレーヴンが「街道を行こう。今無理する必要はない」と安心させるように微笑んでくれた。
 眠れない症状も意識すると焦ってしまうから、気にしない方がいいと言われた。誰かが傍に居て眠れるならそれで対応すればいいと。大したことでもないように言うレーヴンに、俺はとても安堵していた。

 その後、寝るまで傍に居てくれると言ったが俺はすぐには眠れず、なんとはなしにレーヴンの小さい頃の話を聞いた。
 母上の故郷では母上が王妃になられたこともあって、国営施設は資金が潤沢に貰えていたんだそうだ。なのでレーヴン達の孤児院も四季折々の祭りも祝えたし、服も一人三着持っていた、と嬉しそうに話してくれた。
 俺は服を何着もっていたか……気にした事がなかった。どう反応したものかと思ったが、いつもの無表情のまま「そうか」と返すことしかできなかった。

 俺は話を聞いていただけだったが眠れなかったので、試しにレーヴンに「一緒に寝てくれ」と依頼した。
 このままだとレーヴンも寝ないで朝になってしまう。それはよくない。
 なんだか複雑そうな顔をされたので「レーヴンが抱いてくれたら眠れると思う。試してほしい」と言ったら、何故かレーヴンは真っ赤な顔になって、テントの時のように毛布の上から俺を抱きしめて寝かしつけてくれた。

 驚くことに、これで俺は眠る事が出来た。
 レーヴンの身体からは、こう、眠くなる成分でも出てるんじゃないだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました

岩永みやび
BL
公爵家の次男ウィルは、王太子殿下の婚約者に手を出したとして犬になる魔法をかけられてしまう。好きな人とキスすれば人間に戻れるというが、犬姿に満足していたウィルはのんびり気ままな生活を送っていた。 そんなある日、ひとりのマイペースな騎士と出会って……? 「僕、犬を飼うのが夢だったんです」 『俺はおまえのペットではないからな?』 「だから今すごく嬉しいです」 『話聞いてるか? ペットではないからな?』 果たしてウィルは無事に好きな人を見つけて人間姿に戻れるのか。 ※不定期更新。主人公がクズです。女性と関係を持っていることを匂わせるような描写があります。

異世界転生したと思ったら、悪役令嬢(男)だった

カイリ
BL
16年間公爵令息として何不自由ない生活を送ってきたヴィンセント。 ある日突然、前世の記憶がよみがえってきて、ここがゲームの世界であると知る。 俺、いつ死んだの?! 死んだことにも驚きが隠せないが、何より自分が転生してしまったのは悪役令嬢だった。 男なのに悪役令嬢ってどういうこと? 乙女げーのキャラクターが男女逆転してしまった世界の話です。 ゆっくり更新していく予定です。 設定等甘いかもしれませんがご容赦ください。

ルピナスの花束

キザキ ケイ
BL
王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。 ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。 想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。

目覚めたらヤバそうな男にキスされてたんですが!?

キトー
BL
傭兵として働いていたはずの青年サク。 目覚めるとなぜか廃墟のような城にいた。 そしてかたわらには、伸びっぱなしの黒髪と真っ赤な瞳をもつ男が自分の手を握りしめている。 どうして僕はこんな所に居るんだろう。 それに、どうして僕は、この男にキスをされているんだろうか…… コメディ、ほのぼの、時々シリアスのファンタジーBLです。 【執着が激しい魔王と呼ばれる男×気が弱い巻き込まれた一般人?】 反応いただけるととても喜びます! 匿名希望の方はX(元Twitter)のWaveboxやマシュマロからどうぞ(⁠^⁠^⁠)  

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます

muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。 仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。 成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。 何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。 汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。

処理中です...