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本編
(28)想い
しおりを挟む俺が冒険者ギルドでレーヴン達を探す時、力になってくれたのは第二王子のラヴァイン兄上だ。冒険者ギルドへの依頼の仕方などを教えてくださった。
セダー兄上が冒険者としてキルクハルグのみで活動されていたのに対して、ラヴァイン兄上は他国でも冒険者として活動されている。ちなみに現在進行形だ。
そんな経緯もあって、俺が王宮騎士とではなく冒険者と対面の儀を行うことに、父上や兄上達からはあまり問題視されなかったのだ。
もう数年前だが、何にでも優れているセダー兄上に対して、冒険者の共通ランクが自分の方が上になったと大喜びして俺達に報告、いやあれば自慢だったな、していたラヴァイン兄上をいまでも覚えている。
嫡子で王太子でもあるセダー兄上は他国での活動は制限される。兄弟全員それをもちろん知っていて、だからセダー兄上の共通ランクはブロンズを超える事は絶対にないのだけど、それでもみんなでラヴァイン兄上を褒めたたえた日が懐かしい。
優しい父上、母上、兄上たち。キルクハルグの王家の一員に、俺はなりたかった。
みんなの顔を思い出せば、嬉しいような悲しいような気持ちになる。
みんなの中にレーヴンが加わるのは嬉しい。
一緒に旅をして実感した。レーヴンはとても素敵な人だ。大好きな兄上たちと共にいる姿を想像すれば、満たされた気分になる。
だけど俺はそんな大好きな人たちと一緒にはいられない、そう思うと悲しくなった。
さらに彼らを、知らなかったとしても俺はずっと王子だと欺き続けていたのだ、その罪は重いだろう。
「ヴェル、入っていいか?」
ノックの音がしてレーヴンが入室の許可を求めてきた。
ルハルグ様に使用の許可をいただいた家は、サロの村の宿屋より大きい建物だった。
一階はサロンと食堂が一緒になった大きな部屋と厨房で、二階は四部屋になっており、二人部屋が二つと四人部屋が二つあった。
「どうぞ」
俺はレーヴンに入室の許可を与えてから、ふと動きを止めた。
現在俺はまだ湿っている服の着替えを行っている。
エールックたちと合流して、運んでもらっていた俺の着替えを受け取ったからなのだが、うっかり下着も脱いだ状態で許可を出してしまった。
「しつれ……おわああっ!! なんでまた脱いでるんだよ!!」
入口から見れば背を向けていた状態だから良かったかもしれない。
俺は人目に肌をさらすことに抵抗はないが、王子であるレーヴンに対してこの格好で会うのはどう考えても不敬だ。
レーヴンはいつぞやと同じく見てはいけないと思っているのか、扉を慌てて閉めればぐるっとこちらに背を向けて扉の方を向いた。
「すまない。ちょっと待ってもらえるか」
俺は出来るだけ急いで着替えをするが、どうもレーヴンからすると遅かったらしく何度か「まだか……」と焦れたように声をかけられてしまった。
「もう大丈夫だ。待たせて悪かった」
着替えを終えれば俺はレーヴンに声をかける。ほっとしたように息をついてからレーヴンがこちらを振り返った。
「その、王子っていうのは人前で着替えるものなのか?」
ほんのりと赤い顔をしながらそう尋ねて来たレーヴンを思わず見つめ返す。
「そんなわけないだろう」
「だ、だよな。よかったーっ。……ん? じゃあなんでヴェルは俺の前で着替えてるんだよ?」
「それはたまたま俺が脱いでいる時にレーヴンが入ってくるんだ」
「いやいや、俺ちゃんと入室の確認してるよな??」
「してるな」
「じゃあ、断れよ!」
「? 見られても俺は気にしないから、ああいや、レーヴンがそう言うなら次は気を付ける。不快な物を見せて申し訳なかった」
「あ、いや………………不快ではないけど」
「ん? すまない、聞き取れなかったが、なんと言ったんだろうか?」
レーヴンがなにかごにょごにょ言っていたが聞き取れず、聞き返したが「なんでもない!」と真っ赤な顔で言われてしまった。
王子になったら人前で着替えないといけないと、王子の行動について勘違いして照れているんだろうか。
「なんでもないならいいが。ああ、この話し方もまずいな。レーヴン様、なにかご用件があればお伺いいたします。お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした」
レーヴンは王子だ。俺はただの、下級貴族の……いや、俺の存在はきっと認めてもらっていないだろうから、俺こそ孤児という立場だろう。
俺は基本的な礼節をもって、お辞儀をした。
王子に対しての礼としては正しくはないが、いきなりかしこまり過ぎても気分が悪いだろう。
「やめてくれヴェル、今まで通りでいい。俺だって今は王子って呼んでいないし……」
「そうですか。では、今まで通りにする。王子と俺を呼ぶのはもう必要ないし、好きに呼んでくれてかまわない」
「……ヴェルは知ってたんだな。自分が王子じゃないって」
「ああ」
レーヴンは村を出てから、そう、俺と添い寝をしなくなった辺りから俺を王子と呼ばなくなった。ただ愛称で呼ばれた。もちろんエールックは嫌な顔をしたが、俺は王子と呼ばれないのが少し嬉しかった。
王子でない存在の俺も、認めてもらえている気がしたのだ。それにレーヴン達の仲間になったような、親しくなれた気がした。
「それで、何か用があってきたんだろう?」
「あー……まあ、そうだな」
レーヴンはそういうと二つあるベッドの一つに座った。そして俺に隣のベッドに座るよう示す。俺はそれに従ってレーヴンの正面に腰かけた。
「王子としての細かい礼儀作法は王宮に行ってから学べば問題ない。一通りのことが済むまでは暫く王宮に居ないといけないとは思うが、第二王子ですら好き勝手に国を出ているんだ、第四王子なら行動が制限される事はほぼないと思う」
「え、あ、いや」
「王子になった後、どのような生活になるか知りたかったんじゃないのか?」
てっきり王子の生活について聞きに来たのかと思い、知りたそうなことを伝えたがそうではなかったようだ。
レーヴンは俺の説明を不思議そうに聞いていたかと思うと、視線を彷徨わせてから俺にもどし、見つめてきた。
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