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番外編(レーヴン視点)・君の笑顔が咲く場所を俺は永遠に守ると誓う
(3)思惑
しおりを挟むそれから約半年後、ヴェルヘレック王子の依頼で冒険者ギルドに集まった。
他の同行者の事前情報はギルドから聞いていたのでお互い驚くことも無かったし、そもそも顔見知りだった。
俺がヨーシャーレンへ行く前に組んでいた孤児院の仲間。確かにこの二人も赤毛だ。
「レーヴン、おっひさー。シルバーになったって凄いねー」
「なんとかな。お前らも元気だったか」
「はい、変わりなく過ごしてますよ」
グリムラフは相変わらず女の子みたいに可愛いしぐさや顔をしている。
ホルフはフードをかぶり前髪を長くしているし眼鏡もかけているから今は顔が判りにくいが、孤児院では浮いてしまうくらい綺麗な顔をしていた。
うちの孤児院は国からの援助資金が潤沢で、子どもを売春宿や好色家な貴族に売ることも無かったんだけど、そうでなければこの二人は真っ先に孤児院からいなくなっていただろう。
二人と入り口で合流し、中に入ればすでに依頼人は来ていた。
冒険者ギルドにはそれこそ色々な奴がいる。見た目の美醜で目立つ奴も少なくない。
ヴェルヘレック王子もかなり目立っていた。
俺のこの時の第一印象は、陶磁器の人形、だ。
全体的に色が白くて、髪も金というには淡い色をしているし、淡い金のまつ毛に縁どられた瞳もベリドットの石のようだ。そしてなにより血色が悪く見えたし、顔も無表情。
飾り物の人形がそこにある。
触ったら冷たそうだし、ちょっとした刺激でヒビが入りそうに見えた。
ラビが心配するのも判った。これでよく初見の冒険者と旅をしたいと思ったもんだ。
その視線も言動も、とても冷ややかだ。挨拶をして握手を求めたが無視された。
まあ、それは予想通りだな、と思ったけど。
セダー王子からの情報で、もしかしたら一人王宮の者がついていくかもしれないと聞いていた。
その人物、エールック・シュタイン伯爵家三男、のお守りも面倒そうだな、と心の中でため息をついた。
アエテルヌムの国境を過ぎたころ、グリムラフが俺とホルフに話があると言ってきた。
「あの変態、やばいと思うよ」
「エールックさんがやばい、というのは、ヴェルヘレック王子への視線とかのことでしょうか?」
グリの言葉にホルフが答える。あの変態、でエールックのことだと共通認識になっているのもどうなんだろうな。
本日は野営で、テントでヴェルへレック王子が寝ており、その前でまるで番犬のようにエールックが寝ている。
「視線?」
「ええ、少し常軌を逸してると感じる時があります」
性的な被害に遭い易い二人は、そういった危険を敏感にかぎ分けることが多かった。
チームを組む時も野営をする場合などは慎重に相手を選んだ。それでも、夜中にホルフが仲間に襲われていたのを助けたこともある。そういう奴がいると旅の難易度が格段に上がるから勘弁してほしい。
「ヤるとき後ろからしかやらないし、ずーっと王子様の名前呼んで腰振るし、ぶん殴ってくるし、ほんとキモい。加虐趣味だよー絶対。あーやだやだこれだから貴族って嫌い」
「……おい、グリ」
「怪我はちゃーんと高い回復薬くれるから旅には問題ないよ」
「そうじゃなくて」
「これもれっきとしたお仕事です」
そういうとグリはポーチから布袋を取り出すと、じゃらりと幾つも宝石や金のネックレスを出した。
「随分、羽振りがいいんですね」
「シュタイン家の坊ちゃんだもん金持ちでしょ」
「お前ら二人で消えて何かしてると思ったら……」
グリが身売りをしているのは知っている。一応相手は選んでいるらしいし、金銭を授受しているのであればキルクハルグでも商売として認められてはいるから……本人がいいならいい。と俺は納得するしかない。
「あのままだと、いつ王子様のこと襲うか判らないね。……とりあえず気をつけといて。無事に竜の渓谷連れてかないと依頼料でないんだから」
「ああ」
「わかりました」
見ていれば確かにエールックの行動は不自然なことも多かった。
王子が嫌そうな顔をすればするほど、エールックは喜んでいた。
俺達に対して高圧的な物言いだが、ヴェルヘレック王子がいない時はそこまで威圧的でもなかった。
王子が俺達に近寄らないよう言い含めているのかと思ったが、後になって思えばヴェルの罪悪感を煽っていただけなんだろう。
俺達がヴェルヘレック王子と居る事によって虐げられる。それを見せていただけなんだ。
そんなストレスもあったし、絶対にベッド以外で寝たことはないだろうヴェルヘレック王子の疲労は明らかに濃くなっていった。
ホルフが気を配ってくれていたが、本人が無自覚だからか身体を労わろうとしない。
自分を過信して周りに迷惑をかける典型的なお坊ちゃま。自分は何でもできて足を引っ張っていないと信じている。
まったく面倒な依頼を受けてしまったと、ラビを恨めしく思った。
いつも通りグリがエールックを誘い出し、たき火の傍でうつらうつらと頭を揺らしているヴェルヘレック王子をしばし見つめる。
そんなとこで寝るくらいならとっとと横になればいいのに。
たき火のはじける音で目が覚めたのか、ゆっくりと瞳を開ける姿に一瞬、息を飲んだ。
陶磁器のように生気がないと思っていた王子に、生命が宿ったように見えたからだ。
単純にたき火の光で王子の顔が血色良く、赤らんで見えたからだけど。
「ヴェルヘレック王子、飲み終わっているならそのカップ片付けますよ」
「え? あ、ああ。いや、自分でやるから構わないでくれ」
ホルフの言葉に王子が答える。いつもなら冷たく無表情だが、今は寝起きだからか酷く恐縮した顔をしていた。思わずその様子を見つめる。
「なにか?」
俺の視線に気付いた王子が問いかけてくる。俺はとっさに王子を心配する言葉を発した。
王子は心配されるのが嫌なのか、否定をしたが面倒になったので強制的に休ませることにした。
もちろん、王子の体調を考えての行動だが、強引に抱き上げた身体はとても軽く暖かかった。
別にそれは何もおかしくない。王子は華奢だしヒトには体温がある。
だけど、なんというか、抱き上げるまで俺はずっとこの王子が陶磁器だと思っていたのだ。重たくて冷たいものだと。
テントに運び、なぜ身に合わない無茶をするのか聞いてみれば、自分のしたいようにしているのだと言い返してきた。
自分の力を誇示したいのに空まわっているのかと思っていたが、そうじゃない。
自意識過剰のお坊ちゃまだと思ったが、これではただの不器用な幼子だ。
思い出してみれば自分のことは自分でしようとするし、相手への気遣いもある。ちょっとした怪我でも治癒魔法をかけてこようとした。それは逆に王子の体力を削ってしまうから遠慮をする。そんな場面が多かった。
今も毛布を王子にしかかけなかったら「これだとお前は寒いだろう」と言ってきた。
疲労状態にあって相手を思いやるなんて、演技ではできないだろう。
単純に我慢強くて優しいだけなのか、と腕の中で大人しく眠る王子を見て俺は思った。
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