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第二話 皇子のお仕事
ハルガドはバルバラルキアに隣接する島国だ。文化の違いからバルバラルキア民はハルガドを未開の野蛮な国と下に見る傾向がある。
バルバラルキアは国内輸送も一部海上ルートを使用しているのだが、最近はハルガドとの海域あたりで頻繁に海賊も出るようになり、さらに印象が悪い。
実際問題としては海賊がハルガド民なのかバルバラルキア民なのか判っていないが、どちらにしても海上輸送の安全上、ハルガドとはできる限りの友好関係を築いておきたい。
定例会議でハルガドとの外交話が出た時、エルレから提案があったのがハルガドの独自文化で作られた多種多様なお茶やスパイスの輸入だ。相手を知らないから不気味がるのであって、きちんと交易をすれば皆の認識も変わるはずだという主張である。
ちなみに俺達は16歳から国の方針を決めるような会議に参加させられている。皇子とその婚約者というのもあるが、普通に俺達が優秀だからという理由が大きい。それはさておき。
大臣たちは難色を示した。それならば陶器や宝飾品のほうが良いのではという意見も多かった。ハルガドの工芸品は質が高く、すでに重用している貴族もいるので取引前例もある。安牌というやつだ。
しかしそれらの品では貴族や一部の金持ちにしか行き渡らない。ハルガドにも素晴らしい文化があることをバルバラルキア民の多くは体感できないのだ。
国民全体の意識を変えるなど難儀でしかないし、結局政治は一部の権力者が牛耳っている。民衆の意志など取るに足らないものと切り捨てるのは簡単だ。
だが両国の友好関係を長く築くためには多くの人の意識改革が必要だろう。その点で食料品を広めるというのは有効な手だ。
ただ、この案はあまりにも長期策であり権力者からすれば無駄が多い。高額取引をしてハルガドに恩を売ってバルバラルキアが優位に立ち、海賊討伐をハルガドに丸投げするという政策案もでた。それだとバルバラルキア民から見たらハルガド民同士で争っているようにしか見えず、風評被害も出るだろう。
エルレはそれを危惧し、根本的なハルガドのイメージ改善のため根気強く皆を説得していた。
立場を利用して強引に自分の案を押し通すことも出来なくないエルレだがそんなことはしない。多くの資料を用意して対策を練る姿に本当に頭が下がる。
そんなエルレの力になりたいと俺は思った。
だって変な誤解で嫌なイメージを持たれたままってのは悲しいものだ。
まあ、海賊があまりにも目に余るようであればわざと高価な品をおとりとして運び、俺が護衛について海賊を一網打尽にする手もある。バルバラルキアの皇族に刃を向けたのなら、どこの国の民であろうと死をもって償ってもらうしかないからね。誰にも文句は言わせない。あくまでもそれは最終手段だけど。
なので今はエルレの提案を進める手助けをすることにしたのである。
「ただの茶葉だと話題性が乏しいから、派手な方が良いだろう? エルレも興味があるみたいだったしね」
今回用意した花茶はいわゆる中国の工芸茶と似たお湯を注ぐと花のように茶葉が開く加工品だ。まずは王宮で使いまくって周知する。民に下ろすにはちょっと値が張るが、流行り物好きの貴族は飛びつくはずだ。
これでハルガド産茶葉の知名度をあげ、安価な普段遣い用のものの輸入を増やし市場に卸す。味も色も違うのでバルバラルキア産の紅茶とは競合しないので問題もない。
「僕のために……あっ」
呆然と花茶を見つめて呟いたエルレが慌てて口をつぐむ。
「ああ、エルレが喜ぶ顔が見たくて…」
「さすがヴェルダード殿下。もう入手経路を確立されたのですね」
俺の言葉を遮るようにエルレは言葉をかぶせると、お褒めの言葉とは裏腹にギッと俺を睨みつけてきた。
一生懸命俺を睨む姿も小動物が虚勢を張っているようで可愛らしいんだけど、少しばかり心は痛む。
「……ハルガドとの交易路は元々あるからさほど難しい話じゃないよ。ほら冷めないうちに味見してみて」
俺が苦笑すれば、エルレは居心地悪そうに俯くとフーフーとお茶を冷ましつつ飲み始めた。
マナー的には褒められたことではないが、この姿が可愛くてついつい熱々のお茶を提供してしまう。
はぁ、今日も俺の婚約者が最高にかわいいな。
「さっぱりしてて美味しいです。赤い花びらも、綺麗」
俺への確執より花茶へ興味が移ったのか、カップの中で赤薔薇のように花開くお茶っ葉に感動したエルレが顔を上げるとキラキラした瞳で俺を見つめる。
なにかを発見した時の驚きや喜びを全身で表すエルレの姿が俺は大好きだ。昔から変わらない純粋さがすごく愛しくて、少し頬が赤らむ姿は薔薇のように美しいと思う。
にこりと俺が微笑み返せば、バツが悪そうにエルレは視線をそらして再びお茶を飲み始めた。
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