イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音

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第九話 やっぱり相思相愛

 
 部下たちに拘束されていた獣人もいつの間にか少し離れたところへ逃げ延びていた。あの子の治療は後でするとして、まずは親玉の確保だ。
 また逃げられたら面倒だからな。

 状況がわかっていないのだろう、そのまま床に這いつくばり戸惑っている無様なレイリーとその部下たちのもとへ俺は歩み寄る。

「レイリー……話はすべて聞かせてもらった」
「その声は、ヴェルダード殿下! ボクを助けに来てくれたんですね!! そいつが、エルレが闇落ちしてボクたちを殺そうとしたんです!! どうぞお助けください!」

 視力はまだ回復していないが、俺の声のする方に顔を向け、レイリーが気持ち悪い笑みを浮かべてくる。
 部下たちもレイリーの声で俺の存在に気づいたのか、その場で頭を下げ始めた。

「話は後でゆっくり聞いてやるから安心しろ」
「はいっ!」

 本当になんというか、お目出度い頭をしていると言うか。
 炎の制御をレイリーは止めてしまったのか、火の勢いが増してきたので水魔法で屋敷を一斉消火する。
 気持ち的にはレイリー達もついでに消しさってしまいたいが、証人を亡くすと兄上に怒られそうなのでそこは我慢しよう。

「アッシュ! しっかりしろ!」
「グルルルルル…」

 エルレも俺の登場に感動してくれるかと思ったが、残念ながらそんなことはなかった。起き上がれば俺を一瞥しただけで、すぐに獣人のもとへ走っていってしまう。
 ……なんだかとても悲しいが、それでこそ俺の好きなエルレだ。焼き餅は焼くまい。

 獣人を心配するエルレの気持ちを優先してはやりたいが、レイリー達がいつ逃げ出すとも限らない。申し訳ないがエルレの力を頼らせてもらおう。
 決して二人の邪魔をしたいわけではない。うん。

「エルレ、悪いがレイリー達を隔離して拘束し……ッツ!!」

 闇魔法には別次元に人間を閉じ込めるという、拘束にも使えるし保護にも使える便利な魔法がある。文献から読み解くに、魔王になるとこの力で魔界を作ることが出来るらしい。

 その力を借りようと、倒れ込んだ獣人を抱きかかえるエルレの肩に手をかけようとした瞬間、犬族の牙が俺の腕にめり込んだ。

「アッシュ!!」
「っ……俺は大丈夫だ。この子も治してやるから心配しないでいい。エルレはレイリー達の方を頼む」

 ほうほう、この子は腹を刺され視界も奪われ息も絶え絶えだと言うのに、エルレを守ろうとしたのか。
 その根性は認めてやろう。
 だけど、俺がもし反撃していたら頭が吹き飛んでもおかしくないんだぞ。相手はちゃんと見て行動するよう学ばせないと、命がいくつあっても足りなくなるな。

「俺は、エルレや君の敵じゃない。よく頑張ったな、エルレを守って偉いぞ」
「グルルル……」
 
 俺は噛まれた腕を無理に引き抜かず、離してくれるのを待つ。
 その間に治癒魔法でアッシュと呼ばれた獣人の怪我を治していく。俺はチートなので手足が吹き飛んでも生やせるくらいの魔法が使えるので、腹が抉れてるくらいなら結構簡単に治せるのだ。

 しかしこれ、痛かったよな。俺がもっと早く来ていればここまで怪我はしなかっただろう。
 なんとなく罪悪感から、噛まれていない方の手でよしよしとアッシュの頭を撫でて労う。そうしていると俺が敵ではないと理解したのか、申し訳無さそうに牙がゆっくりと離れていった。
 そのあと恐る恐るといった感じではあるが、ペロペロと俺の傷口を舐めてくれている。

 この子、めちゃくちゃ良い子なのではなかろうか?

「ヴェルダード殿下……あの、申し訳ございませんでした」

 よしよしとアッシュの頭を撫でていれば、作業が終わったのだろうエルレが俺達のもとへ戻ってくると膝をつき頭を下げた。

「ああ、この子のことなら構わないさ。エルレを守ろうとしてくれた勇敢な子じゃないか。俺の傷もほら、この通り治ったし」

 チロチロ舐めてくれるのが可愛かったのだが、罪悪感を与えるのは可哀想なのでとっとと傷口を塞ぐことにする。
 チートって本当に便利だ。 

「アッシュのこともですけど、そうじゃなくて……僕が殿下を好きになったから……こんな……酷いことがっ、みんなも巻き込んじゃった……っ」
「それは違うよエルレ。悪いのは完全にレイリーだ。君はただの被害者だからね。ああちなみにこの屋敷に居た者たちはみんな無事だから、心配いらないよ」
「え……」
「君の惚れた男は出来る皇子なのでね。この程度は朝飯前さ」

 俺がおどけて見せれば、エルレの顔が歪み、泣き出しそうな顔になった。エルレは決して見目が良いわけじゃない、今なんてわりと不細工な顔になってると思うんだけど、なぜかとても可愛いって思う。
 
「それなら……もっと、早く来て、ください……みんな、死んじゃったかと、思って、僕が……魔王だから……」 
「それはまた随分と心優しい魔王様だね」

 アッシュをゆっくりと床に寝かせてやってから、エルレをそっと抱きしめる。
 エルレは俺の胸に顔を埋めて泣き出すかと思えば、グッと我慢しているようだ。

 こんな時に泣くことも出来ない不器用なエルレの背中を俺はゆっくりと撫でながら、チャンスとばかりに愛しい黒髪にキスの雨を降らせるのだった。

 
 その後、兄上の執拗な捜査によりアストラシス公爵夫人とレイリーの人身売買への関与と、レイリーによる度重なるエルレへの悪質な嫌がらせが発覚した。

 しかも、元々アッシュはレイリーが性奴隷として買い上げる予定だったらしい。それをエルレが横から掻っ攫ったので堪忍袋の緒が切れて今回の行動に至ったようだ。
 なんというか、わかりやすく悪役だった。

 公爵夫人は離縁され国外追放に、レイリーは処刑が決まった。人身売買だけなら高位貴族という立場上、命までは取られないで済んだかもしれないが、エルレの殺人未遂は許されるものではない。
 エルレは皇子の婚約者なので準皇族だし、なにより黒持ちだ。黒持ちを追い詰めるなど核兵器のボタンに指をかけたのと同意である。
 そんな危険因子がまたエルレの前に現れたら世界が破滅するかもしれない。そりゃ排除となるのは致し方ないだろう。

 決して俺が圧力をかけた訳では無いのだ。少し進言したけどもね。

 アストラシス公爵は愛しい家族の不祥事に心を病み、公爵位を返上して田舎へと移住した。
 そのためなんの因果か、将来的にアストラシス公爵を俺が継ぐことになってしまったのだが、まあそれはいい。

 そんなことより……俺はまだ皇子の身分なので皇宮内の一角に居を構えているんだが、執務を終えて部屋に戻ればベッドにエルレが恥ずかしそうに座っていた。

 その事のほうがよっぽど重大事案である。


 
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