魔王の花嫁の護衛の俺が何故か花嫁代理になった経緯について

和泉臨音

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第一章

19話

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 俺はうっかり話に夢中になっていて、二人の手合わせなど意識の外に追いやってしまっていた。
 クリスティア姫は俺と会話しつつも二人をしっかりと見ており、適切なタイミングで声をかけたのだろう。汗をぬぐいながら、サヴィト殿とアレンが俺たちの方へやってくるところだった。
 どちらの勝利で決着したのか、俺は完全に見損ねてしまった。

「ジークもアレン様もお見事でした。大丈夫だとわかっていても怪我をしてしまうのではないかと、見ていてはらはらしましたわ!」

 戦闘慣れしている俺よりも、クリスティア姫の方が周りの状況を把握していた……いくら政治とか恋愛とかの難しい話が苦手と言っても俺の不甲斐なさを感じる。護衛任務中は会話の内容、気をつけよう……。

「お二人とも熱心にお話ししてましたね。何か気になったことでもありましたか?」
「あら、アレン様はジークを相手にしていたのに、わたくしたちの様子を見ることもできるのですね。すごいですわ。これではジークが敵うはずがありません」

 アレンの言葉にクリスティア姫が感嘆の声をあげた。なるほどアレンの勝利で手合わせは終了したのか。
 クリスティア姫は俺の為にそれとなく会話に結果を入れてくれたのだろう。
 可愛いだけでなく聡明な姫だ。

 サヴィト殿は俺たちを交互に見て、なんの話をしていたか気になるといった顔をしているが言葉にはしなかった。

「カデル様がジークを強いと仰ってくださったの。わたくしとても鼻が高くなりました。なのでエスカータに居た頃のジークのお話とか、わたくしの事とかお話ししていたんですの」
「ヒト族の国はなんというか、ややこしくて途中からクリスティア姫の話題についていくのにやっとだったんだよ」

 クリスティア姫の言葉も、俺の言葉も嘘じゃない。ただ全部ではないだけだ。

 アレンは俺の言葉に妙に納得して、それじゃ仕方ないですね、とうっすらと微笑む。うん、俺が政治絡みの話が物凄く苦手なのを知っているから、気もそぞろになった理由は納得できるよな。だけどそんな憐れむような目を向けないで欲しい。適材適所ってものがあるんだからな、俺が得意とすることもあるからな。

「カデルさんの言う通りサヴィトさんは相当強いですね。人食鬼くらいなら複数同時に相手できますよ」
「アレンもそう思うよな。うん、それを聞いて安心した。これからの道中、何かあった時には共に戦って欲しいサヴィト殿」
「もとよりこの命、クリスティア姫に捧げております。カデル様たちと共に戦えるのは名誉です。ありがとうございます」

 一人でも護衛として実力のある方が同行してくれるのは本当に心強い。俺の言葉にサヴィト殿が嬉しそうに微笑む。
 あ、笑顔だとすこしクリスティア姫に雰囲気が似ているかもしれない。

「それでそのサヴィト殿……最初だいぶ俺のこと睨んでたと思うんですけど、何か俺、やらかしてましたか?」

 初日の殺気についてはメリー殿とかエスカータの再来とはまた別の理由だと思うんだよね。
 笑顔を見れたことに俺は気持ちが緩んだのは否めない。だけど今後共闘するのであれば不安要素はなくしておくに限る。

 俺はサヴィト殿の目をじっと見つめて返事を待った。
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