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第一章
25話
しおりを挟むサテンドラは「姫と話す前に、オルトゥス王と騎士王エスカータについて、カデルがまとめてください」と黒板に書くと、自分はハーブティーを飲み始めた。
確かにエスカータ国と魔族の国では二人の物語が違って伝わっているかもしれない。話し合いの時に前提条件を確認するのは大事なことだ。
「では、魔族の国で伝わっているオルトゥス王とエスカータ王の話をしますね……」
オルトゥス王に出会った頃の騎士王エスカータは、今よりも小さい国の王子だった。
その頃は魔族がヒト族を狩り、ヒト族は昼夜問わず魔族の襲撃に怯え、隠れるように住んでいたという。
そういった時代に騎士王エスカータの生まれた国は強力な騎士団を作り上げて、魔族から国民を守っていた。
しかし、その国は小さく、どんなに尽力しても守り切れないヒトが多かったのだという。
若き王子エスカータは、魔族に対して戦う以外の対応は出来ないのかと考えた。だが魔族について彼は何も知らなかったから、案など出ようはずもない。
そこで魔族の多い地域に単身、調査に出かけた。それが今の俺たちの国の中心、ウェスペル付近だ。
調査に出かけたウェスペルの森で、王子エスカータはオルトゥス王に出会う。
オルトゥス王はヒト族と同じ容姿だったから、エスカータはオルトゥスを同胞だと思ったそうだ。
二人は何故か意気投合し、エスカータの悩みを聞いたオルトゥス王は魔族を統治し、ヒト族が安心して暮らせるよう協力することとなった。
これがアエテルヌム建国の話だ。
あまりにもヒト族が弱いことを不憫に思い、オルトゥス王は気に入ったヒト族の王子の願いを気まぐれで叶えた。
その見返りが盟約。エスカータ国の姫を200年に一度、もらい受けること。
「クリスティア姫が1200年目の、6人目の花嫁ですね」
俺の説明をサテンドラが「カデルにしては良くまとめましたね」と褒めてくれたので、ちょっと嬉しい。
「エスカータでは始祖エスカータ王が知恵を使い、オルトゥス王が魔族を統治するよう導いた、と言われています。オルトゥス王からそれについて特に異議はいただいていないので、気にもなさらない相違なのでしょうけど」
「さすがに気まぐれで助けてもらって、子孫を嫁がせるなんて話はエスカータ国では伝えられないと思いますよ」
「それもそうですわね。ただ、王家の一部、いえ、王になる者しか知らないオルトゥス王の伝承もエスカータには伝わっておりますの」
クリスティア姫が俺たちに教えてくれた話はこうだ。
3度目の花嫁の時、あろうことかエスカータ王は自分の娘でなく町娘を買い、その娘を自分の姫としてアエテルヌムへ送り出した。
しかしそれはオルトゥス王に見破られ、怒りを買ったエスカータ王とその妻と娘たちは一瞬にして命を絶たれたという。
そしてその王の弟が代わりに即位し、弟王の娘が改めて3度目の花嫁としてオルトゥス王に嫁ぎ、盟約は無事に果たされた。
「え……3度目っていうと600年前? にそんなことがあったんですか?」
「エスカータの公式な歴史では、その時の国王一族は流行病でなくなり、その後即位した弟王の第一王女も同じく流行病で亡くなったことになっています。もちろん、3人目の花嫁は兄王が送り出した姫ということになっておりますわ」
「サテンドラ、お前知ってたか?」
何でも知ってるサテンドラだから、知っていても驚かないぞと思って話を振ったが「そんな国家の機密を知ってるわけないでしょう」とあっさりした返事と呆れた視線を返された。
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