魔王の花嫁の護衛の俺が何故か花嫁代理になった経緯について

和泉臨音

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第二章

47話

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 屋敷の中はどこも光がキラキラしていたから外の暗さに気付いていなかった。確かに外は陽も暮れ暗闇が広がり始めている。
 
「すぐにご用意いたしますね。ここの隣の食堂に準備してよろしいでしょうか?」
「はい、よろしくお願いします」

 メリー殿の質問に俺は了承すると、俺はネストに厨房周りの様子を聞いた。

「水もあってパンも焼くだけになってたし他の食材もあった。なんというか、ここは掃除も完璧だしありがたいけど、こちらの様子を見られているみたいで……気味が悪い」
「ネストは繊細ですね」

 ネストはさっきメリー殿とサテンドラと厨房に行った時に確認したことを、思い出しつつ教えてくれた。が、途中からその顔にはなんとも言いようのない不安のようなものが見て取れた。
 ネストがそんな顔するなんて珍しい。その表情にミードミーも気付いたのかつぶやく。

「ぜーんぶやっておいてくれるなんて、楽が出来ていいって俺は思うっすけどね。さすが偉い人用の屋敷」
「視線を感じるのはこの屋敷の魔法のせいじゃないか? タイミングよく灯りが点いたりするだろ? 何かしらで人の動きを感知してるんだろうから、違和感を感じるんじゃないのか?」
「確かにそれもあると思うけど、なんだろな視線を感じるっていうか……」
「わかります。私もネスト様の仰るとおり、監視されているみたいで、少し怖いです」

 うーん、ネストとメリー殿が不安を感じているようだけど、ラッツェ、ミードミーはこの屋敷に不安はないようだ。むしろ双子はどこか楽しそうである。
 俺も不安感はないし、どちらかと言えばこの屋敷に入ってから守られているような、安心感さえ感じる。

「おれが繊細じゃなくてお前らが鈍いんだよ。それじゃ、おれの味方はアーニャちゃんだけみたいだし、夕飯の手伝いをしてくるよ。お前らはアルトレスト伯爵の相手しててくれ」
「待ってください、私も料理を手伝います。こちらは任せました、カデル、ラッツェ」

 メリー殿が立ち上がるとネストとミードミーも続いて立ち上がる。俺もできればそっちに行きたい。

「えっと? 俺もそっち手伝うよ」
「カデルは邪魔になりそうだから手伝いは結構です」
「み、ミードミーちょっとずるくないか??」

 絶対にアルトレスト伯爵から逃げたいからそっちを手伝うつもりだろ。

「カデル……諦めて俺とここでお茶するっすよ」

 俺が立ち上がろうとしたらラッツェに腕をつかまれ、引き戻された。ううう、本当にあの人の傍にはあまり居たくないんだよ。
 しかし俺の願いは聞き届けられずに、ラッツェとサロンに残る事になった。

 クリスティア姫、アルトレスト伯爵は楽しそうに談笑している。それにたまにサテンドラも黒板に文字を書き参加し、サヴィト殿も意見を求められているようだ。
 意識して聞けば会話の内容を聞けそうだったが、俺が知っておくべきことがあれば後でサテンドラが報告してくれるだろうから、あちらは任せておくことにする。

 俺はサロン内の調度や、ソファーなどを再度観察し、ため息をついた。座り心地も居心地もいい。外観からは古い屋敷だろうと思ったが、中は掃除も行き届いているし、家具は古いものなのだと思うが、窓枠にしても全てが新品のようだった。不思議な屋敷だ。

「あ、そういえば結局あの伯爵、ミードミーに名前きけてないっすよね。無視されるとかちょっと笑えるっすね」
「おまえ、相手は吸血鬼族だぞ。あんま変な事いうなよ。機嫌損ねて制裁されたらどうすんだよ」
「んー? そんときはそんときっすよ。自分より強い相手に殺されるなら仕方ないし。それよりも我慢して生きてる方がつまらないじゃないすか。それに俺よりカデルのがだいぶ失礼な事いってたっすよ」

 ラッツェはそういうと、俺ににっこりと微笑んだ。とても魔族らしいというかヒト族ほど社会性を考えない俺たちらしい考えだ。誰かのためというよりも自分がしたいことで行動を決めるという考え方。

「俺そんなに失礼だったか?」
「同レベルだから平気っぽいっすけどね。伯爵への対応じゃないっす」
「き、気を付ける。あー……そうだ、さっきは助かった、ありがとう」
「さっき?? ってなんすか?」
「わかんなきゃいいよ。とにかく俺が助かったんだ」
「意味わからないけど、わかったっす。俺の重要性に気付いたってことっすね。今更っすけど」

 ミードミーでなくラッツェがアルトレスト伯爵に名乗った時、俺は対応を切り替えられた。ラッツェからしたら何のことはないことだろうけど俺にはすごく重要なことだったから、一応礼は言っておくことにする。

「ああ、今後も大事な友達として頼りにしてる」

 俺がそういうと、ラッツェが飲んでいたお茶をのどに詰まらせたのかむせこんだ。
 ちょっと失礼じゃないかその態度。と思ったがこの話を長引かせるのも恥ずかしかったので俺は気づかないふりをすることにした。
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