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第二章
49話
しおりを挟むサテンドラは黒板に文字を短く書く「この屋敷を怖がっている」と。俺が読んだタイミングですぐに消した。
食事の前に俺はそれとなく、サテンドラとサヴィト殿、クリスティア姫にもこの屋敷の感想を聞いた。
クリスティア姫とサヴィト殿は、外見とは違う綺麗な内部に驚いたがエスカータ城にいるようで安心すると答えた。内装がところどころエスカータ城と似ているそうだ。
サテンドラに至っては「いつも通りです」との答えだった。
この三人は不安や、違和感、監視されているという気持ちを抱いてはいなかった。
なぜそんなことを聞くのか? と尋ねて来たサテンドラに、俺はネストとメリー殿の事を話していた。
「具体的に起こる事は判りません。ただ気を付けてと言うしかないです。朝になれば問題は乗り切れます」サテンドラは黒板にそう書くと、俺と視線を合わせて頷いた。
「わかった。とりあえず無事に朝になる事を目指せばいいんだな」
例えば二人が我が王を害そうと城に向かおうとしたら、何としてでも朝まで引き留めればいい、ということだろう。
俺の言葉に再びサテンドラが頷くと今度はゆっくり「明日は王城に向かいますが半日もかかりませんし、城からここに迎えが来るのも昼過ぎでしょう。我々は朝日が昇ってから休むつもりで待機しましょう」と書いた文字を俺に見せる。
「迎え? え? そうなのか?」
サテンドラは再び頷くと黒板にチョークを走らせる「旦那様から聞いてませんか? ここに泊まると頼んでもないのに城から迎えが来るんですよ。あちらの準備が整ったら迎えが来る、という事なんでしょうね」先ほどよりも長い文面だし、見られても構わないのだろう。俺が返事をするまで黒板の文字は消さずにいる。
「聞いてない。まったく父さんもそういう大事なことはちゃんと教えてくれないかな」
突き詰めて確認しなかった俺も悪いんだけど、何か気を付ける事があるか聞いても「サテンドラに聞けばいい」で済ませてしまう父さんにも絶対問題はあったと思う。
食事の前に知ることが出来れば食事の席でみんなに伝えられたのに、と思った俺の心を読んだのか「先ほど姫とサヴィトにはアホ伯爵が言ったので知ってますよ」と書いて見せてくれた。
そして黒板をそのままにしているので、サテンドラ的にはアルトレスト伯爵に対して失礼な代名詞をつかっていることを知られても構わないという事なんだろう。うん、サテンドラも魔族っぽい性格してるよな。
とりあえず迎えが来ることは伝えておくかと、近くにいるネストたちへ顔を向けたら、ネストと目が合った。
クリスティア姫とミードミーはその横で楽しそうに話をしている。視線が合ったことにネストはバツが悪そうな表情になれば視線をクリスティア姫たちに戻した。
あきらかに、俺とサテンドラの様子を伺っていた、んだと思う。たまたまというか、女子の会話に入れないからこっちが終わるのを待っていたんだとは思うけど。なんとなくサテンドラの話を聞いた後だからか、ネストの行動に心がざわつく。
今夜もネストと同室だし、俺が気をつければ大事にはならないはずだ。何も起きていない今、心配をしても仕方ない。俺は気を取り直すと立ち上がり、クリスティア姫たちのテーブルへ移動した。
「お話は終わりましたの?」
俺が近寄る事には全員気付いていたが、最初に声をかけたのはクリスティア姫だった。
「はい、アルトレスト伯爵と話したことなどサテンドラに聞きました。明日、城から迎えがくるっていうのも俺は知らなくて、お伝えが遅くなってしまってすみません」
「え? そうなのか?」
俺の言葉にネストがさっきの俺とほぼ同じ反応をする。そうだよな、そういう反応になるよな。
「そうなんだってさ。だから明日は朝食後に出発の準備して、迎えを待つことにな……」
「カデル!!!!! 大変っす!!!! クリスティア姫も一緒に来て!!!!」
俺がネストとミードミーに説明しようとしたのと同時、サロンのドアが激しい勢いで開いたかと思うとラッツェが飛び込んできた。
「ラッツェ、どうした?」
その様子にネストとミードミー、クリスティア姫もソファーから立ち上がる。
「いいから!! 早く厨房に来て欲しいっす! メリー殿がっ」
「わかった俺が行く! みんなはクリスティア姫と来てくれ。ラッツェ案内しろ!」
クリスティア姫も急いで動き出したが、ドレスでは走る事は難しい。なのでクリスティア姫はサテンドラ達に任せることにして俺はラッツェと厨房に先行して向かう。
サテンドラの先ほどの言葉が、要注意人物の名前が頭をよぎる。
俺は一刻も早くメリー殿の様子を確認したかった。
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