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第三章
70話
しおりを挟むたどり着いた王城はとても大きかった。
俺は話に夢中で景色を見ていなかったが王城には外と内という二つの城壁があって、外城壁の中には丘や森があり、内城壁の中は広い庭園になっていて、内城壁の中だけでヘルデの街に匹敵する広さなんだそうだ。きっと王城は立派なんだろうと思ってたけど、思った以上に立派だった。
馬車を降り目の前にそびえる城に入ると俺たちはクリスティア姫たちとは別の部屋へ案内された。姫たちはセルドレット殿が案内し、俺たちはサイガ殿が案内してくれている。
城はとても大きいが、区画ごとへの魔法転移の扉が用意されており移動はすごく楽だった。しかもこの魔法転移の扉、扉同士で繋がっており、好きな扉に出ることが可能という物凄く便利すぎる代物だ。
攻め込まれた時の防衛が甘くなるのではと俺は心配になったが、そもそも扉を通るには許可が必要で、その資格がないとただ扉をくぐって向こう側に出るだけになるんだそうだ。
「それにここまで攻め込まれた時点で、我らが勝てる相手ではないから気にする必要はないと王は言っていました」
サイガ殿が明るい声でなんとも不穏な事を教えてくれた。魔族の王の城の最深部まで来ることが出来る存在が相手では、転移魔法のひとつやふたつあってもなくても関係ないんだろう。
うん、正論だとは思うけど、思うんだけどね。
「うおー!すっごい景色っすね!!!」
「あそこに見える塔はウェスペルの魔法転移の塔でしょうか」
魔法転移の扉を抜けて、俺たちが案内された部屋は城にそびえる塔のひとつ。その上層階だった。
「そうです。そしてあちらに平地が見えるでしょう。あそこが街ですよ。夜の方が灯りが点くので街並みが判りやすいです」
テンション高く景色を見ているラッツェ達にサイガ殿が説明してくれた。
周りを見回せば城の塔はここから見える範囲で五つ。中央の塔はどの塔よりも高く、見上げても先端が見えない。
「おわっ……と、サテンドラありがとう」
調子に乗って上を見上げていたら、見上げすぎて後ろに倒れそうになった俺をサテンドラが支えてくれた。「気を付けてください。転びますよ」と首から下げている黒板に書いて見せてくる。
さっきまで俺がフラフラしてたから心配してくれているのか、紫の眼が様子を探るように見つめてくる。俺は安心させるようにサテンドラの肩を軽くたたいた。
「もう大丈夫だって。馬車に酔っただけだから」
クリスティア姫との会話は衝撃的だった。
でも、何が衝撃だったのか、正直自分自身で判ってない。なんだかすごいショックだった。ということは判るんだけど、自分の気持ちがさっぱりわからないのだ。
考えても判らない事は情報が足りない。そうサテンドラに言われた言葉を思い出し、情報が、俺の感情がはっきりするまで考えるのは止めることにした。
思考の切り替えは大事だ。なので今は気分も落ち着いている。
そんなことを改めて思っていたらサテンドラが何か包みを差し出してきた。
「なんだ? 飴?」
俺が聞くと「酔い止め薬です」と黒板に書いてにこりと微笑む。
渡された包みを開けてみると、甘い果実のような、美味しそうなにおいがする赤い透明な塊がいくつか包まれていた。
そういえば単純な俺は、昔からお菓子だといって苦い薬を食べさせられたりとサテンドラによく騙されていた。
たぶん今回もサテンドラの嘘だろう。子どもの頃とは逆でこれは薬じゃなくてきっとただの飴だ。
自分ではだいぶ落ち着いた気がしているけど、まわりに心配をかけるなんてやっぱり俺はまだ未熟だ。
「ありがとうサテンドラ。助かる」
今夜は絶対ゆっくり寝ようと決意しつつ、サテンドラから貰った飴をこっそり口に放り込む。
イチゴ味の薬は、とても優しい味がした。
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