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第三章
98話
しおりを挟む今日のハロルドは白い騎士服を着ていた。ここ王城の警備兵の制服だ。今朝からサヴィト殿も同じ服を着ているし、警備兵も見かけてはいたので見知っているものだった。
本当にこの城で、働いているんだな。
「ふふ、カデル様にハリーの事、紹介出来て良かったです」
「いやまさか、ハロルドだとは思わなかった。そっか、だからアエテルヌムに来てたんだな」
「ああ、昨日は詳しく話せなくてすまなかった」
ハロルドが俺に頭を下げる。
「いいって、秘密事項なんだし」
「吹聴することでもないけど、別に秘密って事でもないよ。魔族は自分に関係のないことは興味がないし、王城から外部へ行く者も少ないから自然と噂は出回らないだけだね」
「えぇ? そうだったんですか??」
俺が気にしないように伝えると、オルトゥス王が意外な事を言った。
ハロルドも秘密事項だと思っていたらしく、驚いている。
「ああ、あまりエスカータやヒト族の国で広まるのは好ましくはないけど。クリスティアがとんだ悪女になってしまう」
「確かに……」
「魔族の王の他にも男がいる……悪女姫」
「もう、ハリーってば! そんな言い方をされたら傷つきますわ」
「あ、ごめん。ティーア」
なんだろうこれ……クリスティア姫とハロルドから、こう、花が飛んでくるっていうか。
オルトゥス王はそんな二人を微笑ましく見つめつつ、お茶を用意し、ハロルドにティーカップを差し出した。そしてさりげなく俺の空いているカップにもお代わりを入れてくれる。
……あれ、なんだかこれって前にもあったような?
俺は思わず自分の拙い記憶を思い出そうと、オルトゥス王の動作を目で追う。
「カデル? お菓子も食べたくなった?」
「へ? あ、いえ! すみません。ありがとうございます」
あまりにじっと見ていたせいか、オルトゥス王が魅惑的な声で魅惑的な提案をしてくれた。が、さすがにそこまでは図々しくはなれない。というか、多分、お菓子はこの状態じゃ喉を通らない。緊張とか色々落ち着かなくて。
お茶を煎れ終わると再びオルトゥス王が椅子に落ち着く。ふわりと甘い香りがした。
「そうそう、クリスティアとハロルドの婚礼をサヴィト達と一緒にやってはどうかと思うんだけど、どうだろう?」
「ええ、いいですわよね。ハリー」
「はい。よろしくお願いします」
俺は新しく入れてもらったハーブティーを見つめつつ、三人の話を聞く。あれ?
「サヴィト殿たちと一緒、ということは……」
「祝う者は多い方がいい。リベルタースの者たちも一緒に祝っていきなさい」
「それではわたくしからネスト様たちをご招待いたしますわね。そうだわ! わたくしカデル様たちの労をねぎらう会を行いたいと思っておりますの。王にもご参加いただけないでしょうか?」
「ああ、わかった。考えておくよ」
さすがクリスティア姫。さりげなく自分の要求を通すところがすごい。
姫の処世術にきっと俺は学ぶことが多いんだろうな。
「そういえば、カデル様たちのことハリーから聞いておりましたの。ですのでわたくしの護衛の候補をいただいた時、リベルタース伯爵様を指名させていただきました」
「え? そうだったんですか??」
俺たちリベルタース伯爵家に護衛の話が来たのって、周りまわればハロルドが関わっていたのか。単純にエスカータ国に近いからだと思っていた。
「ええ、今になって思えばあの時ティス様を選ばなくて、本当に、本当に良かったと思っております。ハリーには先見の才があるんだと実感いたしましたわ」
「クリスティアを射止めている時点で、ハロルドは他の者よりも凄い才覚を持っていると私は思うよ」
「いえいえいえ、そんな。……ありがとうございます」
慌てて否定はするが、最後には満面の笑顔で礼を述べるハロルドに場が和む。
穏やかな雰囲気の中、とりとめのない話をした。
「では、オレは勤務の時間となりますので、そろそろ失礼させていただきます」
「もうそんな時間なんだね。よろしく頼むよ」
「はいっ!」
ハロルドはポケットから銀の懐中時計を出すと時間を確認し、オルトゥス王に許可を取れば立ち上がる。
「わたくしもハリーと一緒に戻りますわ」
「あ、では俺も」
クリスティア姫も席を立ったので、俺も慌てて立ち上がる。
「カデルは少し、残ってくれるかい?」
「え?」
え? ええっと?
「それではオルトゥス王、色々とよろしくお願いいたします。もちろんサテンドラ様のこともお忘れなきように」
「ああ、判ってる。本当に君には敵いそうもないな、クリスティア」
「ふふ、勿体ないお言葉ですわ。カデル様、また夕食の時にお会いいたしましょう」
そういうとクリスティア姫はハロルドと腕を組み、魔法転移の扉に消えて行った。
え、っと?
「立っていないで座るといい。それとも、逃げ出したい、かな?」
「い、いえ!!!」
お察しの通りです。逃げ出したいです。
クリスティア姫……何で行ってしまったんだ……置いていかないでほしかった。
俺は心の中で嘆きつつも、再び椅子に座りなおすことにした。
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