魔王の花嫁の護衛の俺が何故か花嫁代理になった経緯について

和泉臨音

文字の大きさ
109 / 130
第三章

101.5話 幕間3(後)クリスティア視点

しおりを挟む

「嘘に決まっていますでしょう。ハリーが居れば十分ですわ」
「嘘、なのか?」
「そこでどうして、わたくしに取られるくらいならと奮起できませんの?」
「……それは昔、私が自分の気持ちを優先して、大きな失敗をしたからだ。だから強引にことを起こして苦しめたくない」
「そのお相手は、カデル様ですの?」
「? いや、違うよ」
「では無駄なご心配ですわ。それこそ前回の失敗のせいでカデル様をないがしろにしているのでしたら、カデル様に失礼です」
ないがしろになんてしてないさ」
「そうでしょうか? わたくしには表面だけで接しているように感じます。貴族の付き合い方ですわね。腹の中を見せあわない、探り合いの関係。相手の弱点がなければ仕掛けられない、そうではなくて?」

 わたくしの言葉にオルトゥス王が押し黙ります。

「あの方は、貴方の支配をうけません。本当に嫌な事は嫌と貴方に言うことが出来ます。貴方にとってはそれも救いなのでしょう? オルトゥス王、カデル様は苦痛もいとわず、欲しいものを掴もうと考える方です」
「ああ……そうだね。それは判ってる」
「カデル様のことです、伯爵にならなくても強くなると、仰ったのではなくて?」
「なんで、それを……っ?」
「わかりますわ、あの方はそういうお方ですもの。貴方の力ではなく自分の力で、貴方の隣に立ちたいと、そう考えてらっしゃるのではないでしょうか。だから魔族の王からの力添えは欲しくないのですわ」
「私の……となりに?」
「ええ」
「あんなに、怯えているのに?」
「そうですわね。高い崖の上に立つと身はすくみますが、そこからの景色を見たいと思う方も多いと聞きます。怯えて見えるからと、その気持ちを恐怖だけととるのは愚かですわ。少なくともカデル様は貴方にお会いしたくてここにいるのだと、わたくしは思っております」

 そもそもカデル様のあれは怯えではなく羞恥なのですけど。
 暗雲立ち込めていたオルトゥス王の雰囲気も少し明るくなった気がいたします。

 もう、本当にうだうだ言わずに押し倒してしまえばいいのに。そういうところはティス様の手の速さを見習っていただきたいですわ。
 これはカデル様の方を焚き付けて、王に告白させた方が話が早いかもしれません。
 わたくしはお二人を恋人にするため大作戦を考えることにいたします。そんなわたくしをオルトゥス王は顔を上げて見ました。

「クリスティア……君、いま何か良からぬことを考えなかったかい?」
「まあ、オルトゥス王は勘が大変よろしいんですのね」
「君は可愛く無害な淑女でいてくれ」
「お断りいたします。わたくしも数少ない貴方の意志にそむける者ですもの。自由にさせていただきますわ」

 わたくしの願いを叶えてくださったオルトゥス王が幸せになれるよう、わたくし、全力で応援いたします。

「オルトゥス王、一応確認させていただきますがサテンドラ様は夕食には戻られまして?」
「無理だ」
「そうだろうと思いましたわ。でもいつまでもカデル様に秘密を隠し通せるとお思いにならない方がよろしいかと」
「……わかっている」
 
 隠し事は時間が経つにつれて言い出しにくくなるもの。ですが、生きてきた時間が違い過ぎるオルトゥス王には王のお考えがきっとあるのでしょう。
 ……決して嫌われたくなくて、話していないのではないと信じております。

 わたくしはスカートをもたげて王に礼をすれば、自分の屋敷に戻ることにいたしました。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

猫の王子は最強の竜帝陛下に食べられたくない

muku
BL
 猫の国の第五王子ミカは、片目の色が違うことで兄達から迫害されていた。戦勝国である鼠の国に差し出され、囚われているところへ、ある日竜帝セライナがやって来る。  竜族は獣人の中でも最強の種族で、セライナに引き取られたミカは竜族の住む島で生活することに。  猫が大好きな竜族達にちやほやされるミカだったが、どうしても受け入れられないことがあった。  どうやら自分は竜帝セライナの「エサ」として連れてこられたらしく、どうしても食べられたくないミカは、それを回避しようと奮闘するのだが――。  勘違いから始まる、獣人BLファンタジー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

処理中です...