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本編
10話
それから一週間もしないでユーグリッドとレオンの結婚が決まった。
今回の責任をユーグリッドがとることになったといわれたが、レオンからすれば自分を研究所に残れるようにするために、ユーグリッドが犠牲になったとしか思えなかった。
「レオンが発情したのはαのフェロモンによって強制的に発情させられたからだ。……君の優秀さを妬んだ者が貶めるために画策した」
「ネックガードの効果実験ではなく、ですか?」
「本人たちはそう言っていたがな。もしそれが本当なら、あまりにも実験方法が稚雑だろう。魂胆は別だと透けて見える」
学校でも多少は感じていたことだ。優れているΩをαは認めたがらない。
だから強制的に発情させて逃げられないようにして襲うと言われている。だが実際は優秀な子を産ませるために番にしようとする行動ではないかという説もある。
まあどちらにしてもレオンにしてみれば身をもってΩとして生きる上での脅威を知れたし、襲われた時の明確な記憶もない。貞操にこだわりがあったわけでもないので時間が経てば割り切ることも出来た。
むしろ自分の管理下でそんな不祥事を起こしてしまったユーグリッドの姿のほうが、被害者のレオンから見ていても痛々しかった。目の下の隈は濃く、常に蒼白な顔をしていた。
美しいユーグリッドの面影は今はない。まるで屍人のようだ。
レオンは自分の身に起きたことよりも、ユーグリッドの今の姿を見る方が辛かった。
「その愚行を防げず、結果的にレオンを辱めたのは私だ。だから責任は取る。私の伴侶になれば自由に研究もできるし、番になれば……レオンに不埒な気を起こす者もいなくなるだろう」
Ωのフェロモンは番うことで変化し、番のαしか欲情させないものに変わる。それでも魅力のあるΩは狙われる事もあるが、その点レオンは心配する必要がなかった。
「あの……結婚はしなくても、いいんじゃないでしょうか?」
ベッドに座ったまま、レオンが出来る限り冷静にユーグリッドに意見をした。
カトラシアで結婚の意味は大きい。
しかもユーグリッドは侯爵家の嫡子だ。確かに伴侶となれば研究所だけにとどまらず、レオンの身分は高くなり、不埒なことを考える者はいなくなるだろう。
今回の事にかかわった研究員は薬草栽培地の山奥の研究所に左遷か、それを断った者は辞職をしたと聞いている。
被害者が平民で、加害者が貴族の場合は加害者に咎めのないこともある。レオンが襲われたことは隠されていたから、彼らが行ったのは危険な実験行為だけであったし、相手が貴族階級に属する者ばかりだと聞けば、研究所としては相当重い処罰を行ったと言える。
(みなさん貴族だったのに、俺が残る研究所には在籍しないようにしてくれたんだ)
この状況にするのも、もしかしたらすごく大変だったのかもしれない。だからと言ってレオンを貴族に迎え入れる必要までないんじゃないだろうか。
確かにユーグリッドの執務室で襲われたのだと思うが、部屋の鍵をかけた記憶もない。ユーグリッドは頑なに自分だと主張したが、本当は左遷されたαのいずれかに挿入されたのだろうとレオンは思っていた。
あの時、自分はユーグリッドの名を呼んで助けを求めた、はずだ。
実際、ユーグリッドに助けられたのは発情して半日も経っていなかったと聞いている。それならまだ自分は発情中だったはずなのだ。その誘惑に負けなかったと言うならば、ユーグリッドは最初から惑わされることもなかっただろう。
優しいユーグリッドが助けを求める相手を犯すなど到底考えられない。
だけど、その考察をレオンは誰にも言うことはできなかった。犯人を見ていたならいい、見ていない以上無駄な混乱を呼ぶことになる。それは罪を被ろうとしているユーグリッドの行為を無にしてしまう可能性だってあるのだ。
「……そんなに私が嫌か?」
「え? いえ、そんなことはないですけど……結婚しなくても番にしてもらえれば今回の様なことはおきな…」
自分のせいでユーグリッドが好きでもない相手と結婚するなんて、レオンは襲われたことよりも苦しくて、悔しかった。
責任というのなら番にしてもらって、研究所に置いてもらえればいい。見目が悪くて礼儀作法を学んでいない平民のΩなんて、側室にすらなれやしないのが普通だろう。
「私が番にした相手を娶りもしないような、いい加減な男だと君は思っていたのか」
ぶわりと風がおきて、だんっと壁に手を突く音がした。すぐ近くにユーグリッドの端正な顔がある。
ベッドの上部の壁に手を突き、それを背にして座るレオンに覗き込むようにユーグリッドは顔を近づけた。
キスをするような雰囲気ではない。
ユーグリッドの刺すような瞳と低い声にレオンは震えあがる。
無意識なのだろう。初めて感じるユーグリッドの強いαの威嚇が怖くてレオンの身体が小刻みに震える。
「ご……ごめん、ごめんなさぃ」
勝手に涙も出てくれば、ユーグリッドが諦めたように身体を起こした。レオンは怖くてユーグリッドを見ることが出来ない。
しばらくの沈黙の後、ユーグリッドは深い深いため息をついて告げた。
「君と結婚もするし番にもなる。だけど……子どもは産まなくていいから」
「えっ…」
レオンは元々子どもが嫌いなわけじゃない。
子どもを産むだけしか価値がないΩだと思われたくなかっただけなのだ。
(Ωの本能なのかな……ユーグリッド様に子どもは要らないって言われるのがこんなに、苦しいなんて…)
ただ番になるだけでいいと言った言葉と、自分の気持ちが矛盾しているのは判っている。
だけど、だけど。
大好きなユーグリッドとの子どもを望めるのだと判れば、浅ましく思ってしまったのだ。
……子どもを産みたいと。
自分の傲慢な気持ちが悲しくて、虚しくて、悔しくて。レオンの涙は、止まらなかった。
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