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1話 封印石への道半ば
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「それにしても気前がいいよね。マイクさんは。本当に助かるよ。久しぶりにお肉を食べようかな?」
ディモは楽しそうに商店街を歩きながら普段は裏口からしか寄る事のない肉屋に足を運んでいた。普段はクズ肉を融通している店主は表から入ってきたディモに驚きながら声を掛ける。
「おや。どうしたい? 今日は表から入ってきたじゃないか?」
「そうなんですよ! ちょっとした臨時収入が入りそうなので奮発しようと思って」
久しぶりに普通に肉が食べられる事を嬉しそうに話すディモに、我が子を見るような視線で店主は微笑ましそうにしながら注文された肉を手渡す。
「親父さん! ちょっと量が多いよ!」
「いいよ。いいよ。臨時収入が入ったんだろう? じゃあ、今日は俺からも特別サービスだ! 他の店で好きな物を買ったら良いよ」
「ありがとうございます! また、戻ってきたら顔を出しますからね。その時はもっといっぱい買いますから!」
「ああ。期待して待ってるよ。気を付けてな」
店主の心遣いに感謝しながら料金を手渡す。注文した量の倍ほどもある肉を袋に入れながらディモは他の店に足取り軽く向かうのだった。
「いっぱい買えたな。よし! 肉の半分は燻製にしよう」
それぞれの店でサービスをしてもらったディモは、上機嫌に鼻歌を口ずさみながら燻製の準備を始めていた。普段は廃棄寸前の物を購入しているディモを商店街の店主達は不憫に思っており、普通に買い物をしてきたタイミングでサービスしようと考えていたのだった。
そんな事に気付いていないディモは目の前に並べられている食べ物に満足げな表情をすると、大量に購入した肉を燻製するための準備を始めた。慣れた手つきで燻しながら旅に必要な物を確認する。
「堅パンは三日分用意した。チーズも残っている分は持って行こう。それに燻製も大量に作れたし、後は木の実を一袋に皮袋には水と、特別にぶどう酒を入れておこう」
ディモは旅に必要な食料の他に外套や、つばの広い帽子、火打ち石や小型ナイフに護身用の杖を用意するのだった。
◇□◇□◇□
「忘れ物なし! 準備よし! 出発!」
戸締まりをしたディモは元気よく封印石に向かって旅立った。順調にいけば片道一日半の道のりであり、街道も整備され危険は少ないはずであった。
「えっ? なんで、こんなところにスライムが?」
森の中で突然落ちてきたスライムに仰天しながらも、なんとか回避したディモは慌てて杖を構える。スライムは攻撃が失敗した事に気付くと、身体を震わせながら近付いてきた。
「えい!」
震えながらスライムに杖を突き刺したディモだったが、ダメージを与えられなかったようで、逆に溶解液が手に当たり負傷してしまう。
「痛っ! これでどうだ!」
杖を連続で突き刺した攻撃は核に当たったようで、スライムはユックリと動きを止めた。荒い息のまま、しばらく様子を見ていたディモだったが、スライムを倒した事を確認すると膝をついて身体の力を抜いた。
「ふう。強敵だった」
大人なら余裕で倒せるスライムだが、ディモは未成年であり食生活の悪さから発育も良くなく、同年代と比べると小柄であった。将来は女性から熱い視線を注がれると商店街の奥さんから言われている母親似の容姿を苦痛で歪めながら、背負い袋から癒やしの魔石を取り出すと小さく口ずさむ。
「『我は癒やしを求め、その力を解放する』。ふう、痛みは治まったけど、なぜここにスライムがいるんだろう? 他にも居ないよね? 早く見晴らしの良い場所に移動して休憩したいな。あっ! このスライムは魔物屋さんで買い取ってもらおう」
癒やしの魔石が色あせていくのを眺めながら、他のスライムが居ないかと慌てて周りを見渡す。他に動きのある生き物が居ない事を確認したディモは、倒したスライムを袋に入れると移動を始めた。森を抜けてしばらくすると旅人達が利用する休憩所にさしかかる。
また、町にある魔物屋は討伐された魔物を買い取り、武器や道具を作る店であった。スライムも核を破壊された後は少し硬くなり様々な場所でクッション材として利用されていた。
「よし。ここで休憩しよう。誰も居ないみたいだね」
ここは旅人が共有で利用している休憩所であり、簡易なかまどや大木に雨よけなどが設置されていた。ディモは荷物を下ろすと晩ご飯の準備を始める。火打ち石を使ってかまどに火を灯し、燻製肉と堅パンをあぶりながら皮袋の水を飲んで一息吐いた。
「スライムが森に出るなんて。たまたまかな? それにしても帰りは気を付けないとね。直撃されたらひとたまりもないから」
袋に仕舞っているスライムに視線を投げながら一人呟く。魔物の中でもスライムは最弱と言われており、魔物狩りを生業としている者でなくても小遣い稼ぎとして討伐されていた。ディモにとっては強敵だったため、帰り道の森では十分に注意しようと考えながら、疲れた身体を休めるために早々に就寝した。
「んー! よく寝た! ちょっと油断しすぎかな?」
スライムとの激闘のため疲れ切っていたディモは、大きく伸びをしながら朝ご飯の準備を始める。水を湧かしながらジャガイモを乾燥させた塊を投入する。
「今日は豪華にしよう! 激戦をくぐり抜けた勇者へのご褒美で!」
ディモは嬉しそうに鍋の中身をかき混ぜながら燻製肉を細切れにして投入する。そこに堅パンも崩して入れると簡易シチューを完成させた。休憩所に食欲を刺激する匂いが充満する。ディモは完成した朝食を食べ満足した表情になると封印石に向かった。
その後は特に問題なく到着したディモは、目の前にそびえ立つ封印石の大きさと周囲に漂う空気に気圧されながらも、腕章に手を添えて気合いを入れると足を進めた。
ディモは楽しそうに商店街を歩きながら普段は裏口からしか寄る事のない肉屋に足を運んでいた。普段はクズ肉を融通している店主は表から入ってきたディモに驚きながら声を掛ける。
「おや。どうしたい? 今日は表から入ってきたじゃないか?」
「そうなんですよ! ちょっとした臨時収入が入りそうなので奮発しようと思って」
久しぶりに普通に肉が食べられる事を嬉しそうに話すディモに、我が子を見るような視線で店主は微笑ましそうにしながら注文された肉を手渡す。
「親父さん! ちょっと量が多いよ!」
「いいよ。いいよ。臨時収入が入ったんだろう? じゃあ、今日は俺からも特別サービスだ! 他の店で好きな物を買ったら良いよ」
「ありがとうございます! また、戻ってきたら顔を出しますからね。その時はもっといっぱい買いますから!」
「ああ。期待して待ってるよ。気を付けてな」
店主の心遣いに感謝しながら料金を手渡す。注文した量の倍ほどもある肉を袋に入れながらディモは他の店に足取り軽く向かうのだった。
「いっぱい買えたな。よし! 肉の半分は燻製にしよう」
それぞれの店でサービスをしてもらったディモは、上機嫌に鼻歌を口ずさみながら燻製の準備を始めていた。普段は廃棄寸前の物を購入しているディモを商店街の店主達は不憫に思っており、普通に買い物をしてきたタイミングでサービスしようと考えていたのだった。
そんな事に気付いていないディモは目の前に並べられている食べ物に満足げな表情をすると、大量に購入した肉を燻製するための準備を始めた。慣れた手つきで燻しながら旅に必要な物を確認する。
「堅パンは三日分用意した。チーズも残っている分は持って行こう。それに燻製も大量に作れたし、後は木の実を一袋に皮袋には水と、特別にぶどう酒を入れておこう」
ディモは旅に必要な食料の他に外套や、つばの広い帽子、火打ち石や小型ナイフに護身用の杖を用意するのだった。
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「忘れ物なし! 準備よし! 出発!」
戸締まりをしたディモは元気よく封印石に向かって旅立った。順調にいけば片道一日半の道のりであり、街道も整備され危険は少ないはずであった。
「えっ? なんで、こんなところにスライムが?」
森の中で突然落ちてきたスライムに仰天しながらも、なんとか回避したディモは慌てて杖を構える。スライムは攻撃が失敗した事に気付くと、身体を震わせながら近付いてきた。
「えい!」
震えながらスライムに杖を突き刺したディモだったが、ダメージを与えられなかったようで、逆に溶解液が手に当たり負傷してしまう。
「痛っ! これでどうだ!」
杖を連続で突き刺した攻撃は核に当たったようで、スライムはユックリと動きを止めた。荒い息のまま、しばらく様子を見ていたディモだったが、スライムを倒した事を確認すると膝をついて身体の力を抜いた。
「ふう。強敵だった」
大人なら余裕で倒せるスライムだが、ディモは未成年であり食生活の悪さから発育も良くなく、同年代と比べると小柄であった。将来は女性から熱い視線を注がれると商店街の奥さんから言われている母親似の容姿を苦痛で歪めながら、背負い袋から癒やしの魔石を取り出すと小さく口ずさむ。
「『我は癒やしを求め、その力を解放する』。ふう、痛みは治まったけど、なぜここにスライムがいるんだろう? 他にも居ないよね? 早く見晴らしの良い場所に移動して休憩したいな。あっ! このスライムは魔物屋さんで買い取ってもらおう」
癒やしの魔石が色あせていくのを眺めながら、他のスライムが居ないかと慌てて周りを見渡す。他に動きのある生き物が居ない事を確認したディモは、倒したスライムを袋に入れると移動を始めた。森を抜けてしばらくすると旅人達が利用する休憩所にさしかかる。
また、町にある魔物屋は討伐された魔物を買い取り、武器や道具を作る店であった。スライムも核を破壊された後は少し硬くなり様々な場所でクッション材として利用されていた。
「よし。ここで休憩しよう。誰も居ないみたいだね」
ここは旅人が共有で利用している休憩所であり、簡易なかまどや大木に雨よけなどが設置されていた。ディモは荷物を下ろすと晩ご飯の準備を始める。火打ち石を使ってかまどに火を灯し、燻製肉と堅パンをあぶりながら皮袋の水を飲んで一息吐いた。
「スライムが森に出るなんて。たまたまかな? それにしても帰りは気を付けないとね。直撃されたらひとたまりもないから」
袋に仕舞っているスライムに視線を投げながら一人呟く。魔物の中でもスライムは最弱と言われており、魔物狩りを生業としている者でなくても小遣い稼ぎとして討伐されていた。ディモにとっては強敵だったため、帰り道の森では十分に注意しようと考えながら、疲れた身体を休めるために早々に就寝した。
「んー! よく寝た! ちょっと油断しすぎかな?」
スライムとの激闘のため疲れ切っていたディモは、大きく伸びをしながら朝ご飯の準備を始める。水を湧かしながらジャガイモを乾燥させた塊を投入する。
「今日は豪華にしよう! 激戦をくぐり抜けた勇者へのご褒美で!」
ディモは嬉しそうに鍋の中身をかき混ぜながら燻製肉を細切れにして投入する。そこに堅パンも崩して入れると簡易シチューを完成させた。休憩所に食欲を刺激する匂いが充満する。ディモは完成した朝食を食べ満足した表情になると封印石に向かった。
その後は特に問題なく到着したディモは、目の前にそびえ立つ封印石の大きさと周囲に漂う空気に気圧されながらも、腕章に手を添えて気合いを入れると足を進めた。
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