神剣少女は魔石を産み出す少年を愛でる

うっちー(羽智 遊紀)

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2話 少年は追い詰められ出会う

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 封印石と呼ばれる岩の周辺は塀と掘で囲われており、初めてその景色を見たディモは圧倒されてた。また四方にはディモの身長ほどの岩が設置されており、そこには巨大な魔石がはめられていた。

「あれが結界石かな? この腕章があれば通れるんだよね?」

 周囲には誰も居ない状態だが、ディモは恐怖を紛らわせるように呟きながら門に近付く。一瞬、身体を弾くような抵抗があったが、そのまま足を進めると抵抗はなくなり普通に歩けるようになった。

「よし。通れた。後は封印石にある紋章の色を確認すれば……」

 安堵した様子で扉を開けて中に入ったディモは紋章の色を見て硬直する。描かれていると聞いていた紋章は無く、扉のように封印石に穴が空いていた。

「あ、あれ? 封印の紋章は? なんで穴が空いているの? これって階段? ひょっとして降りて……。な、なに!」

 呆然とした表情で穴を眺めているディモだったが突然驚きの声を上げる。封印石の反対側。つまりディモが入ってきた門側から衝撃が届いたのである。慌てて門に向かったディモの目に入ったのは結界石を破壊しようとする魔物達であった。

「なにをしている!」

「あ? 人間が居るぞ。早く結界を破壊しろ! 魔王様の復活前夜際に相応しい血の海を作り出そうぜえぇぇぇぇ!」

 結界石を攻撃している魔物とは明らかに毛色の違う人型の魔物がディモを見付けると嬉しそうに絶叫する。自分を見詰める憎悪の視線にディモは後ずさりしながら門を閉めた。

「あれって魔族? どうする? どうしたらいい? 逃げる? どこに? 周りは魔物に囲まれてるって事だろ? 誰かに知らせないと! どうやって?」

 あまりの出来事にパニックになったディモが震えながら呟いていると、門の外でなにかが破壊された音がする。その直後に『でかしたあぁぁぁ! あと三つだ!』と魔族であろう声が聞こえてくる。絶望の表情を浮かべながらディモはその場で立ち尽くすのだった。

 ◇□◇□◇□

「あと二つだ! 早くしろ! 俺に血を見せろぉぉぉぉ!」

 魔族の男は嬉しそうに結界石が破壊されるのを眺めていた。 待ち望んでいた主の復活が近付いている。唯一、障害になると言われている神剣の破壊を命令された自分は名誉ある役割だと周りから言われていた。
 配下の魔物も現状出せるだけ用意してもらっており、失敗は許されないと張り切っていた。

「それにしても、まさか警備の者が一人しか居ないとはな。それもあんなガキだと? こっちは気合いを入れて来たってのによ。人間は一〇〇〇年で軟弱さに磨きが掛かったようだな。おい。あとどれくらい掛かる?」

 慌てて報告に来た魔物の答えに不機嫌そうな顔をしながら腕を振る。一瞬で首を飛ばされた魔物から血が噴き出す。その光景を見ていた他の魔物達の動きが止まる。その様子を見て鼻を鳴らしながら魔族の男は苛立たしそうに叫んだ。

「早くしろよ! お前らもこいつと同じようになりたいのか! 五分過ぎるごとにてめえらぶち殺すからな!」

 殺気を飛ばされた魔物達は恐怖に突き動かされるように結界石の破壊を始める。その様子をつまらなそうに眺めながら、封印石にいるであろう人間をどのように血祭りに上げるかを考えながら、魔族の男は口元を歪めた。

 魔族の男の声がディモにまで届く。地獄の死者のような声に彼の震えはさらに大きくなる。自分の身の安全を確保している結界石は残り二つとなっており、それが破壊されるのも時間の問題だった。混乱の局地の状態でディモは気絶しそうになっていた。

「もう駄目だ。このまま殺されるんだ。ははっ。運がいいと思ったんだよ」

 半笑いになりながら膝をついていたディモの右手が突然淡く輝き始める。

「えっ? こんなタイミングで?」

 身体中の魔力が右手に集まるのを感じ、ディモが拳を握ると光は収束していき、再び手を開くとそこには魔石が出来上がっていた。

「ははは。今まで一番良い魔石が出来た。これだったら最初に買い取ってもらった魔石よりも高くしてもらえたかな?」

 ディモの手には宝石と表現して良い魔石が光り輝いていた。今まで最高の魔石を産み出した事に呆然としながら呟いていると、結界石が破壊された音と魔物の歓声らしき叫び声が耳に届く。
 無理やり現実に引き戻されたディモは魔石を無意識にポケットに仕舞うと少しでも生き残る可能性を高めるために隠れる事を決めた。

「やっぱり、ここに入るしか無いよね」

 目の前で大きく口を開いている封印石の穴を怯えるように見ながら、ディモは大きく息を吸うと覚悟を決めて階段を降りていった。

 ◇□◇□◇□

「思ったより涼しい? それに懐かしい感じがする? なんでだろう?」

 最初は恐る恐る封印石に入ったディモだったが、気付けば落ち着いた表情で階段を降りていた。

 真っ暗だと覚悟を決めていた封印石の中だったが、不思議な光が灯されており周りをみる余裕があった。

「外の音も聞こえなくなったな。あれ? 行き止まり? ……。あっ! 扉がある」

 ディモの前には石の扉があり、軽く押すと耳障りな音を立てながらゆっくり開いた。

「お、お邪魔します~」

 及び腰になりながら、中に入ったディモは扉を閉める。一瞬真っ暗になった室内だったが、先ほどとは比べものにならない明るさが部屋を包んだ。
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