神剣少女は魔石を産み出す少年を愛でる

うっちー(羽智 遊紀)

文字の大きさ
9 / 38

8話 村での決着

しおりを挟む
 ヘレーナの勢いは暴風のようであった。彼女が通り過ぎた後は魔物が絶命しているか、致命傷を負ってのたうち回っていた。

「はっはっは! 弱いね! こんなもんかい! 『我が前には何者も立ち塞げない。我が前に道が出でき、進む場所が道となる』」

 ヘレーナの詠唱で目の前にいた魔物達が血を流しながら吹き飛ぶ。嵐のような竜巻に飲まれた魔物達は悲鳴も上げられずに倒されていった。高笑いをしながら魔物を切り伏せていくヘレーナに、魔物達は混乱状態で逃げ惑い始める。

「凄え。なんだ、あのデタラメの強さは」
「ディモが『お姉ちゃん』と言ってたな」
「でも、あいつは天涯孤独のはずだぞ?」

 ヘレーナの戦いを見ていた村人達が呆然と独り言のように呟く。非日常的な光景を眺めていた村人達の側にディモが通り掛かり全員に逃げるように伝えた。

「速く逃げて下さい! お姉ちゃんが魔物を倒している間に! 教会で他の方達と合流して魔物が全滅するまで待っていて下さい」

「逃げろって、ディモはどうするんだよ?」

「僕はけが人を治してから行きます!」

 当然のように言い切ったディモに、その場にいた村人達は唖然とする。体格で言えばディモが一番劣っており、自分の子供と同じ年に見える子供に逃げろと言われた村人達は互いに目を合わせて頷くと、傷の癒えた者を担いで教会に向かった。




「まだ魔物は残ってるみたいだね。あのゴーレムが司令塔だな。軽くひねるか」

 軽く駆け出しながら近くにいた魔物を倒す。その勢いで鬼人のごとく暴れ回っていたヘレーナだったが、急に立ち止まると首を貸しげる。思ったような動きが出来なくなり身体が震えだしたのである。その様子に気付いたディモが慌てた様子で近付いてきた。

「どうしたの! お姉ちゃん!」

「あっ。ディモ。ちょっと……。くっ!」

 膝をついたヘレーナにディモが慌てて駆け寄る。眉をしかめていたヘレーナだったが、理由が分かったようでディモに抱き付いてきた。

「えっ? え? な、なに? お姉ちゃん? どうしたの?」

「どうやら魔力切れみたいだね。ディモは魔石を生み出せないのかい?」

 困った表情で上目遣いに見てきたヘレーナにディモは思わず赤面する。だが、自分の能力が好きな時に使えない事を思い出して悲しそうな顔になった。

「ごめんなさい。僕は、この能力を自在に操れないの。こうやって魔力を集中させても……。あれ?」

 ヘレーナに魔石を生み出すスキルの説明をしながら泣きそうになっていたディモが、右手に魔力を通そうとすると突然輝き出す。いつものように魔力を握りしめるようにして手を開くと、そこには魔石が生れていた。

「なんだ。出来るじゃないか。この魔石を吸収したら……。駄目か。やっぱり私の活動時間は限られているみたいだね。夜になると人型が保てないのかもしれない。最初に会った時のように私を手に取って戦ってくれるかい?」

「いいよ! お姉ちゃんが前みたいに操ってくれるんだよね? 記憶はないけど僕頑張るよ!」

「いや。今回はディモの意識を残したまま身体を操らせてもらうよ。なぜか出来る気がするんだよね。じゃあ、魔物達がこちらを警戒して動かない間に始めようか?」

 ヘレーナの姿が一瞬揺らぐと剣の姿になる。ディモは真剣な表情で剣を手に取ると意識があるのにもかかわらず、身体は動かないくになった。


「じゃあ、二幕目を始めようかね。ディモは意識はあるかい?」

『あるよ。身体は動かないけど。しっかりとお姉ちゃんを応援するよ!』

「ははっ! それは心強いね! まずはディモは私の動きをしっかりと覚えるようにしておきな。さっき産み出してくれた魔石は上等だったよ。これでしばらくは戦えそうだね。早速行くよ!」

『うん!』

 ディモの身体を操りながらヘレーナはユックリと敵を倒し始める。まるで剣術のお手本のような動きで戦う姿は演舞を行っているようであり、逃げ始めていた村人達が歓声を上げながら応援していた。

『しっかりと私の動きを覚えるんだよ。最終的には私の助け無しで魔物と戦えるようになってもらうからね』

「分かったよ! お姉ちゃん」

 ヘレーナが動かす自分の身体を意識しながらディモは少しでも多くの事を学ぼうとした。魔物達の大半は逃げ始めており、ディモを始めとした村人達は戦闘の終わりを感じていた。だが、ヘレーナだけは剣を構えたまま前方に意識を向けており不思議に思い声を掛ける。

『どうしたの?』

「最後のボスが残っているよ。さっき、ゴーレムがいたと誰かが言っていただろ?」

 ヘレーナの声に反応するようにゴーレムが姿を現す。ユックリとした動きのように見えたゴーレムだったが、ヘレーナの姿を確認すると急に動きを速くして殴りかかってきた。

「いいねぇ! その動きはディモの練習にはもってこいだ!」

 寸前で攻撃を躱したヘレーナはいったん間合いを取る。そして剣を構え直すと真剣な表情で防御主体に切り替えた。ゴーレムは人型のような姿だが動きは人の動きではなく、見た目に惑わされると死角からの攻撃に晒される可能性があった。

『うわぁ!』

「相手の姿に惑わされたら駄目だよ! こういったゴーレムの姿は仮だから、どんな動きをするかは様子を見ながら確認するんだ。だが、完全に分かった気になっても駄目だよ。たとえば……。ほら!」

『にゃぁぁぁぁぁ!』

 突然、腕を投げつけてるトリッキーな動きでディモを翻弄するゴーレム。悲鳴を上げているディモが独力で戦っていたなら一瞬で挽肉になっていただろう。腕が立つと言われるレベルの兵士でも倒された可能性があるほど、この村を襲ったゴーレムは高性能だった。魔族男が別働隊として村を襲わせる為に用意したゴーレムであり、『魔物を率いて村を滅ぼせ』と命令されていた。

「そろそろディモ身体も悲鳴を上げてきたら止めを刺そうかね。いいかい。これから第一階位の魔法を使うからしっかりと感覚を掴むんだよ。『我は炎を求める。燃やせ。立ちふさがる敵を』」

 詠唱を唱えると剣に炎が纏われる。燃えさかる炎は波打っており、ディモの顔を美しく映し出していた。ゴーレムの動きを軽やかに躱しながら一瞬で懐まで入り込み、下からの蹴上げるようなすくい上げ攻撃で足を切断し倒れたところを動力となる魔石を破壊するのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...