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22話 これからの教育方針をヘレーナは考える

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 森の主ベルンドが倒された事と、別の森ではあるが主《ぬし》であるシロツノとヘレーナの強さを感じた魔物達は遠くに逃げ去っており、野営場所は静寂に包まれていた。そんな静けさの中、焚き火たきびの炎を眺めつつ、幸せそうな顔で寝ているディモをヘレーナは微笑ましそうに見詰めていた。

「寝ている顔も可愛いね。ディモは。この寝顔も思い出としてしっかりと覚えておかないとね。それにしてもディモの特訓はどうしようかね? スライムが『強敵と書いてライバル』とか言うし、クマモドキにも苦戦するからね……。素振りをしている時の太刀筋は良いし、模擬戦をした時も特に問題はなかったからね。後は本人の自覚次第かね? どう思う? シロツノ?」

 今後の方針を考えながら、干し肉を齧ってかじっているとシロツノが近付いてきたので問い掛けてみる。こちらの言葉には反応せずに物欲しそうにしているシロツノを見て苦笑しながら、森の主ベルンドと一緒にいた魔物を食べる許可を与えた。嬉しそうに嘶きいななきながら器用に食べ始めたシロツノに語り掛ける。

「そうそう。明日から、ディモの基礎体力向上の訓練をしようと思う。シロツノは駄馬以外にもディモの乗馬として練習に付き合っておくれ。報酬は魔石と倒した魔物肉でいいかい? ただし! ディモを振り落としたり怪我をさせたら馬肉にするからね! それと、この後の見張りも頼むよ。私はディモと一緒に寝るからね」

「ひひん!」

 ヘレーナからの命令にシロツノは大きく頷きうなずきながら食事を続けた。一心不乱に食事をしているシロツノを見ながら夜の見張りを頼むと、嬉しそうな顔をしながらヘレーナはディモの横で添い寝を始めるのだった。

 ◇□◇□◇□

 夜の見張りを頼まれた我は、寝息を立てているディモとあるじであるヘレーナ様を横目で見ながら食事を続けていた。まさかディモの名前がディモだとはな。主がいつもカワイイディモと呼んでいたいから、それが名前だと思い込んでおったわ。
 それにしてもディモは不思議である。魔石を生み出す能力など見た事がない。我の森にも多くも魔物が居たが、体内に魔石がある魔物しかいなかった。我が知らないだけかもしれないが、人間は魔石を生み出す事が出来るのであろうか? あやつの生み出す魔石はどれも旨そうだが主は大事にしているようで恵んでくれん。少しくらいはいいであろうに……。

 ともあれ、明日からはディモの乗馬としての任務もある。魔力を魔石にする不思議な能力を持っているディモを振り落として怪我をさせると、バニクとやらの罰が主から与えられるそうなので十分に注意せねばな。ところでバニクとはなんであろうか?

 ◇□◇□◇□

「おはよう! シロツノ!」

「ひひん」

 翌朝、大きく伸びをしながら元気に挨拶をするディモにシロツノが返事をする。横で気持ち良さそうにしているヘレーナの寝姿を見て、微笑みながら布団代わりの外套を掛ける。小さく寝言を呟いているヘレーナを見ながらディモは朝食の準備を始めた。昨日、ヘレーナが倒した森の主のベルンドや他の魔物は影も形もなく、不思議そうにしながらも村で購入した食材を取り出しながら調理を始める。
 ちなみに、昨日の魔物はシロツノが夜の見張りの間で全てを食べており、この世界の魔物は他の魔物を食する事で力を付ける事が出来た。見る者が見れば、シロツノが昨日より魔力がみなぎっているのを感じたであろうがディモは全く気付かず、朝食の用意が終わると恒例となったシロツノをへのブラッシングを始めた。

「いい匂いだね」

「おはよう! お姉ちゃん! いつでも朝食を食べれるよ。すぐに準備するね」

「せっかくだから、すぐに食べようかね。それにしてもシロツノは生意気だね」

「ひ、ひひん?」

 眠たそうな顔をして起きてきたヘレーナがディモに挨拶をする。元気よく挨拶を返して朝食を勧めたディモに明るい返事をするが、シロツノを半目で睨みにらみだした。慌てたのはシロツノである。昨日、褒美としてもらったはずの森の主ベルントを始めとする魔物を食べ切った事を叱責されると思い、首を竦めすくめながら震えだした。

「ディモに朝昼晩とブラッシングをしてもらうなんて生意気なんだよ!」

「ぶるる? ひ、ひひん?」

 何を言っているのか理解できなかったシロツノが首を傾げると、ヘレーナは一瞬で間合いを詰めてたてがみを引っ張った。痛みのあまり悶絶しているシロツノにヘレーナは怒りが過熱したように顔を近づける。

「なんで、お前が毎回ブラッシングをされてるんだよ。私はディモにナデナデを毎回してもらってないぞ?」

「お姉ちゃん! やめてあげて! シロツノが可哀そうでしょ!」

「だ、だって……」

「言い訳しない!」

 怒っているヘレーナに怯えるシロツノ。それをみて慌ててディモが仲裁に入る。言い訳をしようとしたのを一刀両断でほほを膨らませながらディモは切り捨てると、おもむろにヘレーナの頭を何度も撫で始めた。思ってもいない行動にヘレーナが硬直しているとディモが満面の笑みを向ける。

「これからはシロツノの前にお姉ちゃんの頭を撫でてあげるね」

「う、うん。分かった」

 ディモからの笑顔と優しさの直撃を受けたヘレーナは赤面しながら小さく頷いた。
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