神剣少女は魔石を産み出す少年を愛でる

うっちー(羽智 遊紀)

文字の大きさ
23 / 38

22話 これからの教育方針をヘレーナは考える

しおりを挟む
 森の主ベルンドが倒された事と、別の森ではあるが主《ぬし》であるシロツノとヘレーナの強さを感じた魔物達は遠くに逃げ去っており、野営場所は静寂に包まれていた。そんな静けさの中、焚き火たきびの炎を眺めつつ、幸せそうな顔で寝ているディモをヘレーナは微笑ましそうに見詰めていた。

「寝ている顔も可愛いね。ディモは。この寝顔も思い出としてしっかりと覚えておかないとね。それにしてもディモの特訓はどうしようかね? スライムが『強敵と書いてライバル』とか言うし、クマモドキにも苦戦するからね……。素振りをしている時の太刀筋は良いし、模擬戦をした時も特に問題はなかったからね。後は本人の自覚次第かね? どう思う? シロツノ?」

 今後の方針を考えながら、干し肉を齧ってかじっているとシロツノが近付いてきたので問い掛けてみる。こちらの言葉には反応せずに物欲しそうにしているシロツノを見て苦笑しながら、森の主ベルンドと一緒にいた魔物を食べる許可を与えた。嬉しそうに嘶きいななきながら器用に食べ始めたシロツノに語り掛ける。

「そうそう。明日から、ディモの基礎体力向上の訓練をしようと思う。シロツノは駄馬以外にもディモの乗馬として練習に付き合っておくれ。報酬は魔石と倒した魔物肉でいいかい? ただし! ディモを振り落としたり怪我をさせたら馬肉にするからね! それと、この後の見張りも頼むよ。私はディモと一緒に寝るからね」

「ひひん!」

 ヘレーナからの命令にシロツノは大きく頷きうなずきながら食事を続けた。一心不乱に食事をしているシロツノを見ながら夜の見張りを頼むと、嬉しそうな顔をしながらヘレーナはディモの横で添い寝を始めるのだった。

 ◇□◇□◇□

 夜の見張りを頼まれた我は、寝息を立てているディモとあるじであるヘレーナ様を横目で見ながら食事を続けていた。まさかディモの名前がディモだとはな。主がいつもカワイイディモと呼んでいたいから、それが名前だと思い込んでおったわ。
 それにしてもディモは不思議である。魔石を生み出す能力など見た事がない。我の森にも多くも魔物が居たが、体内に魔石がある魔物しかいなかった。我が知らないだけかもしれないが、人間は魔石を生み出す事が出来るのであろうか? あやつの生み出す魔石はどれも旨そうだが主は大事にしているようで恵んでくれん。少しくらいはいいであろうに……。

 ともあれ、明日からはディモの乗馬としての任務もある。魔力を魔石にする不思議な能力を持っているディモを振り落として怪我をさせると、バニクとやらの罰が主から与えられるそうなので十分に注意せねばな。ところでバニクとはなんであろうか?

 ◇□◇□◇□

「おはよう! シロツノ!」

「ひひん」

 翌朝、大きく伸びをしながら元気に挨拶をするディモにシロツノが返事をする。横で気持ち良さそうにしているヘレーナの寝姿を見て、微笑みながら布団代わりの外套を掛ける。小さく寝言を呟いているヘレーナを見ながらディモは朝食の準備を始めた。昨日、ヘレーナが倒した森の主のベルンドや他の魔物は影も形もなく、不思議そうにしながらも村で購入した食材を取り出しながら調理を始める。
 ちなみに、昨日の魔物はシロツノが夜の見張りの間で全てを食べており、この世界の魔物は他の魔物を食する事で力を付ける事が出来た。見る者が見れば、シロツノが昨日より魔力がみなぎっているのを感じたであろうがディモは全く気付かず、朝食の用意が終わると恒例となったシロツノをへのブラッシングを始めた。

「いい匂いだね」

「おはよう! お姉ちゃん! いつでも朝食を食べれるよ。すぐに準備するね」

「せっかくだから、すぐに食べようかね。それにしてもシロツノは生意気だね」

「ひ、ひひん?」

 眠たそうな顔をして起きてきたヘレーナがディモに挨拶をする。元気よく挨拶を返して朝食を勧めたディモに明るい返事をするが、シロツノを半目で睨みにらみだした。慌てたのはシロツノである。昨日、褒美としてもらったはずの森の主ベルントを始めとする魔物を食べ切った事を叱責されると思い、首を竦めすくめながら震えだした。

「ディモに朝昼晩とブラッシングをしてもらうなんて生意気なんだよ!」

「ぶるる? ひ、ひひん?」

 何を言っているのか理解できなかったシロツノが首を傾げると、ヘレーナは一瞬で間合いを詰めてたてがみを引っ張った。痛みのあまり悶絶しているシロツノにヘレーナは怒りが過熱したように顔を近づける。

「なんで、お前が毎回ブラッシングをされてるんだよ。私はディモにナデナデを毎回してもらってないぞ?」

「お姉ちゃん! やめてあげて! シロツノが可哀そうでしょ!」

「だ、だって……」

「言い訳しない!」

 怒っているヘレーナに怯えるシロツノ。それをみて慌ててディモが仲裁に入る。言い訳をしようとしたのを一刀両断でほほを膨らませながらディモは切り捨てると、おもむろにヘレーナの頭を何度も撫で始めた。思ってもいない行動にヘレーナが硬直しているとディモが満面の笑みを向ける。

「これからはシロツノの前にお姉ちゃんの頭を撫でてあげるね」

「う、うん。分かった」

 ディモからの笑顔と優しさの直撃を受けたヘレーナは赤面しながら小さく頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...