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23話 次の街に到着

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「よし! 元気よく出発しようか! 行くよ。ディモ。シロツノ」
「おぉー!」
「ひひん!」

 朝食後に満足がいくまでディモに頭を撫でられたヘレーナは艶々つやつやとした表情で、元気よく出発を告げる。それに合わせてディモとシロツノも元気に返事をし、二人と一頭は野営をしていた場所から出発した。

 出発してから二時間。シロツノは疲れも見せずに元気良く荷馬車を引いており、ディモも御者としての仕事を慣れないがらも頑張っていた。ヘレーナは他者が見れば干し肉を囓りかじりながら寛いでるように見えるであろうが、実際には周囲に剣気を放ちつつ今後の事を考えていた。

「ディモを鍛えるのは体力向上や素振りなど基礎練習を中心にする。それに旅の資金は十分にあるが、適宜魔物を狩って換金しないとな。その他にはなにがある? 後は私の状況把握くらいかね?」

「どうかしたの? お姉ちゃん? 心配事?」

 背後でぶつぶつと呟いているヘレーナにディモが声を掛ける。心配そうな顔をしている様子に、笑顔を返しながら今後の予定を伝えた。

「ディモを剣士として鍛える方法を考えていたのさ。基礎練習としては素振りを中心。体力作りとしてシロツノの乗馬。後は、お金を稼ぐ方法とかお姉ちゃんの身体についてだね」

「お姉ちゃんの身体? どこか調子が悪いの? 大丈夫?」

 御者席から手綱を離して荷馬車にやってきたディモを苦笑しながら見詰めていると、シロツノからも苦情の嘶きいななきが上がる。

「ぶるるるる!」
「ご、ごめんなさい! でも、シロツノも心配でしょ? お姉ちゃんが調子が悪いんだよ!」
「ひ、ひひん?」
「大丈夫だよ。神剣になったのはなぜかと考えていただけだから」

 ディモとシロツノから心配されたヘレーナは軽く笑いながら説明をする。自分がどうして神剣になったのか。一〇〇〇年前に何があったのか。

「あと。最初にディモを見た時に誰かと似ていた気がするけど、それも思い出せないからね」
「そう言えば、お姉ちゃんと会った時に誰かと間違ったよね」
「でも、もう間違わないよ。ディモはディモだからね。ディモを間違えるなんてあり得ないから。それは置いといて、次の封印石に行けば何かが分かると思っているんだ。特に理由はないけどね」

 軽く笑いながら言い放ったヘレーナを見てディモが悲しそうな顔をする横で、シロツノも心配そうな嘶きをした。

「そんなに心配そうな顔をしなくても大丈夫だよ。そら! 森を抜けたよ」
「わぁぁぁ」

 森を抜け、街道に出た一行はいったん休憩に入る。昼食の準備を始めるディモに、テーブルや椅子にかまどを用意するヘレーナ。シロツノは近くで草をみながら、周囲の警戒をしていた。

「せっかくだから、八百屋のおじさんがくれた野菜を使おう。後は……」
「肉!」
「分かってるよ。お姉ちゃん。でも、野菜も食べないと駄目だよ! あとは魔石を使って水を出して……『我は生きるための水を欲す。この場に現れ癒やしを与えよ』」

 ディモは懐から水の魔石を取り出すと小さく呟く。用意した水瓶がいっぱいになるまで入れると、そこから鍋に水を汲む。そしてかまどに火をくべると野菜を切り出した。鼻歌交じりに調理をしているディモを眺めながらヘレーナは幸せな気持ちになるのだった。

 ◇□◇□◇□

「止まれ! この街になに用か!」
「はいはい。お仕事お疲れ様。これで良いかい?」

 門番が一行に対して詰問する。ヘレーナはそんな様子を可笑しそうに見ながら、神父から預かっている剣と勇者が描かれた教会の紋章を見せる。最初は怪しげな表情をして眺めていた門番だったが、紋章の意味に気付くと大きくのけぞって慌てて敬礼をした。

「し、失礼しました! どうぞお通り下さい。それとお泊まりの宿屋が決まりましたら教会に連絡をお願いします」
「ああ。分かったよ。教会に連絡だね」

 突然、対応が変わった門番に驚きながらディモはヘレーナの後に続く。シロツノは魔物であるが、獣魔である事を証明するタグを付ければ問題ないらしく一緒に門をくぐった。

「よし。じゃあ、宿屋を探そうかね。希望はあるかい?」
「特にないよ。お布団があって、ご飯が食べれたらいいよ。あっ! シロツノを預かってくれるところじゃないと駄目だよね」
「宿をお探しですか?」

 二人は宿について話をしながら、探していると呼び込みをしている少女と出会った。最初に自分に声を掛けてきた事にヘレーナは少女を好評価する。さりげなくディモに身体を密着させて少女に視線を向けた。

「ああ。探しているよ。ちなみに良いベッドがあって、料理が美味しくて、魔物を預かってくれるところだよ。お嬢ちゃんの宿は全てを兼ねそろえているかい?」
「は、はい! 我が宿屋は、この街で最高級です。料金は高いですが、それだけ自信があります。いかがですか?」
「いいね。そこまで言い切るなら宿屋を見せて貰おうか。変なところだったら容赦しないよ?」

 少女の自信にヘレーナがニヤリと笑って宿に案内するように伝える。少女は満面の笑みを浮かべながら宿屋に連れて行こうとしたが、その前に男が立ちふさがると少女を見て鼻で笑うとヘレーナに話し始めた。

「おいおい。そんな潰れつぶれかけの宿屋なんて止めて、こっちの宿にしておきな。さっさと付いてこい」
「な、なに? もう宿は……」
「黙れ餓鬼! 俺はこっちの女と……。ぐはぁぁぁぁ」

 男の言葉にディモが文句を言おうとすると、途中で遮って睨みにらみ付けながらディモに顔を近付けてきた。歩数にしてあと数歩の地点で男の姿は消え去り、数メートル先の地面に転がっていた。なにが起こったのか分かっていない表情で呆然としていた男だったが、殴られた事に気付くと顔を真っ赤にさせて立ち上がった。

「なにしやがる!」
「五月蠅いよ。ディモの話を遮るな。それとディモの五メートル以内に近寄るな」

 ヘレーナは無表情で男を睨み付けると、冷静に言い放つのだった。
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